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第十三話 『豚の処刑場』

例の如くエグいです

「……っ!」


 リリーはバッと勢い良く体を起こした。

 いつの間にか、ベッドの上で寝ていたらしい。

 全身が汗に濡れて気持ち悪い。


「凄く……嫌な夢を見た気がするわ」


 最高の研究成果であるオルガが殺され、自分達も誰かに殺されそうになる。

 そんな、胸糞の悪くなる夢だった。

 本当に夢かと疑いたくなるような、そんな夢だった。

 

「リリー」

「……あなた」


 ふと横を見れば、自分と同じように汗で濡れたジョージが体を起こしていた。

 

「凄く、嫌な夢を見たんだ」

「ええ……私もよ」


 ジョージの見た夢も、自分と似た内容の物だった。


「二人同時に同じ夢を見るなど、変わった事こともあるものだな……」

「ええ……。でも、所詮は夢よ」


 ジョージとリリーの間には、最愛の息子であるダーティスがいびきをかきながら眠っている。

 自分達もダーティスも無事だ。

 気味が悪いが、ダーティスが無事ならばそれで良い。


 しかし、眠る前後の記憶が曖昧だ。

 薄ぼやけていて、よく思い出せない。

 頭に靄が掛かっているように考えがまとまらない。


「……そういえば、何かしなくちゃいけないことがあったんじゃなかったか」

「そう……ね」


 何かをしなくてはならない。

 そんな曖昧な使命感のまま、二人は部屋を出た。

 地下室にある三人用の寝室を後にして、コツコツと足音を響かせながら地下を歩く。

 向かうのは、"吸魔装置"のある部屋だ。


 リリーとジョージの研究には、大量の魔力が必要となる。

 ホムンクルスの創造には勿論、体を若返らせる魔術の維持にもかなりの魔力が消費される。

 優秀な錬金術士の二人ではあるが、二人分の魔力を使っていては若さの維持すら難しいだろう。


 二人と繋がりのある帝国貴族のオリヴィア・エリエスティールから聞き出した魔術ではあるが、コストが掛かりすぎてしまう。

 どうせあの雌狐のことだから、改良法はとっくに編み出しており、その上で自分達には教えていないだろうと、リリーは考えている。


 消費魔力の不足を補うために創りだしたのが"吸魔装置"だ。

 対象から魔力を吸い出し、他の魔術に流用することが出来る。

 

 "英雄アマツ"の力を再現するために、二人は彼をホムンクルスを作っている。

 それも普通の製法ではない。

 過去に喪われた魔術――"喪失魔術ロストマジック・人魂錬成"を使用して、だ。

 媒体とした人物の能力をそのまま再現するという、破格の効果を持った魔術。


 完全に使いこなせている訳ではないが、この魔術のお陰で実験は順調だ。

 消費魔力が多すぎるのが問題ではあるが。


「そろそろ、上の子供を何人か"使う"か」

「そうね。出来たら、亜人にしましょう」

「はは、お前は本当に亜人が嫌いだな」

「当たり前じゃない。貴方もでしょ? あんな気持ち悪いのがダーちゃんの傍にいると思うだけで吐き気がするわ」


 そんな会話をしながら、二人は研究室の一つにやってきた。

 どういう訳か中が荒れている。

 実験器具の幾つかが地面に散乱していた。


「…………」

「…………」


 しかし、二人は気にならない。

 それよりも、吸魔装置に拘束されている人物に目が行っていた。


 ミシェル。

 引き取ってきた子供の一人が、装置に拘束されている。


「ああ……そうだった。ミシェルから魔力を吸収するんだったな」

「なんで……忘れてたのかしら」


 二人は早速、吸魔装置の作動に取り掛かった。

 子供とはいえ、死ぬまで魔力を吸うと、かなりの量の魔力が溜まる。

 ミシェルからでも、十分過ぎる程の魔力が得られるだろう。

 

「吸い尽くしたら、オルガの改良に……」


 その時、脳裏にノイズが走った。

 何か、自分は大切なことを忘れているのではないか。

 そんな考えが、一瞬だけリリーの頭に浮かぶ。

 しかし、その考えはすぐに吸魔装置の作動音によって掻き消された。


「やめて……助けて」


 ミシェルが、二人に助けを求めてくる。


「嫌よ。今まで無償で行き場のないアンタを養ってあげたんだから、死んで恩返ししなさい」

「そんな……嫌だ。お父さん、お母さんに会いたいよ」


 命乞いしてくるミシェルに、二人は失笑を漏らした。

 どうしてガキってのは、毎回毎回同じ台詞を言ってくるのか、と。

 

「心配しなくてもいい。すぐに会えるだろうさ。あの世でな」

「ええ。どうせアンタの親なんて、魔物にでも食われて死んでるだろうから」


 二人は最初から、ミシェルの両親を探してなどいない。

 カモフラージュの為に選んだ数人の子供以外は、最初から殺すつもりなのだから当然だ。

 ミシェルも、殺す為に連れてきた子供の一人だ。


「貴方達にも、子供はいるんでしょ……!? どうして、こんな酷いことが出来るの!?」

「ダーちゃんとアンタ達を一緒にしないでちょうだい。アンタ達が何人死んでも私達は何にも思わないわ」

「むしろせいせいする。お前ら子供の声は甲高くてイライラさせられるからな」


 ミシェルの目が、二人を睨み付ける。


「自分の子供が同じ目に合ったらって、考えられないの……?」

「はっ。安心しろ。そんなことは絶対に起こらん」


 ダーティスを守る仕掛けが、この地下には数十と存在している。

 彼を見守る監視はたくさんあるし、怪我や病気をした時の為にリリーは治癒魔術が使える。

 念の為に、大量のポーションだって仕入れてある。

 仮に魔族に襲撃されても大丈夫なように、迎撃用の土巨人ゴーレムやオルガも控えている。


「ダーちゃんはいつまでも私達の幸せに暮らすの」

「そんな……」


 絶望を顔に貼り付けたまま、ミシェルが尋ねてくる。


「……そうやって、英雄アマツも裏切ったの?」

「…………アマツ? ああ、あの阿呆か。アレは私達が長年求め続けた最高の逸材だった」

「人助けの為だってお願いしたら、簡単に協力してくれたわ。馬鹿な男よね」


 何故、アマツの名が出てきたのだろう。

 二人の頭にそんな考えが浮かぶが、すぐに消えた。


「あいつの仲間が契約を破って消えたのは業腹だが……あの男には随分と儲けさせて貰った」

「吸魔装置の開発に取り掛かれたのも、あの男の魔術データを得られていたからだし」

「くく……。自分の魔術が子供を殺しているとしったら、アマツはどう思うだろうなぁ」


 饒舌に語る自分の不自然さに、二人は気付かない。

 気付けない。


「まあ、死んだ奴の話はいい」

「今からアンタも、アマツと同じようにゴミのように死ぬんだからね」

「いや……死にたくない!」

「恨むなら、自分の運のなさを恨むんだな」


 そうして、二人は装置を作動させた。


「ん、がっ……ぶっごごごごッ」


 その瞬間、装置の上にいるミシェルが絶叫する。


「ぷ、ふふ。なにこの子」

「くく……まるで屠殺される豚の悲鳴だな」

「びっ! ごおお!」

「ふふふっ」


 これまで多くの子供の断末魔を聞いてきた二人だが、こんな叫びを聞いたのは初めてだ。


「くくく、なんだこの顔。豚そのものじゃないか」

「しかも漏らしてるじゃない。クッサイわね」

「見るに耐えんな。早く死んでくれ」


「――本当、その通りだな」


 パチンと、指の鳴る音がした。

 その瞬間、二人の見えていた世界が変わる。


「ぶっぉごおおお!!」


 椅子に座っていたミシェルが、いつの間にか巨体の男に変わっていた。

二人の最愛の息子、ダーティスに。

 白目を剥き、上下から体液を撒き散らして凄惨な姿を晒している。


「ダーちゃん!?」

「な、なんだこれは!?」


 目の前の光景が理解できない。

 自分達はミシェルを装置に掛けたはずだ。

 それが何故、ダーティスに変わっている。


「がっ、ごぉおお、ぶっぶごッ!!!!」


 脂ぎった体が、徐々に生気を失っていく。

 頬が痩け、唇の水分が失われてカサカサになっていく。


「どぉじでぇえ!? バッ、ママァ!! どぼじでぇ!?」


 ダーティスが叫ぶ。

 理解を越えた光景に、二人は全身の血がサッと引いていくのを感じた。

 二人は顔面を蒼白にしながら、慌てて装置を止めようと動き出して、


「ぎゃっ!?」

「うっ!?」


 太腿にナイフが突き刺さり、地面に倒れ伏した。

 痛みのあまりに呻きを漏らすも、今はそれどころではない。

 ダーティスが装置に掛けられ、絶叫しているのだから。


「させないさ」


 這いずって進もうとした二人の前に、一人の少年が立ち塞がった。

 

「ひっ……」

「なんで……!?」


 先ほどの夢に出てきた、あの黒髪の少年だった。

 英雄アマツ。

 自分達を殺すために蘇った、復讐者。


「――――」


 その瞬間、二人は全てを思い出した。

 つい先程まであった出来事を。

 あれは、夢などではなかったということを。

 

「あ……あぁ……」

「思い出したようだな」

「なんで……どうして!?」


 そんな疑問が飛び出るが、今はそれどころではない。

 

「ダーちゃんが! 早く助けないと!!」

「頼む、装置を止めてくれ!!」


 装置の設定は、まだそれ程強くない。

 あの数分の間は、ダーティスは生きているだろう。

 その間に、どうにかして助けなければならない。

 

 黒髪の少年は、冷めた顔で言った。


「そんなことは絶対に起こらないんじゃなかったのか?」


 その目に写っているのは、リリー達に対する憎悪だ。

 ギラギラと鈍い光だけを放っている。

 かつて見たアマツの顔とはまるで違う、悍ましい目だった。


「んぎっ、ババぁあああだずげええあがああああ」

「ダーティスっ!」


 その巨体でのたうち回ったことで、装置の鎮静機能が働いた。

 拘束具が締める力を増し、ダーティスの両腕をへし折る。


「ぼ、ごぉ、かっ……かっ」


 ダーティスが泡を吹き、ブルブルと不自然に体を震わせ始めた。

 明らかに普通ではない様子に二人の焦燥感が増していく。


「あああ! た、頼む! 息子を助けてやってくれッ!」

「お願いします! ダーちゃんを殺さないで!」


 それを黒髪の少年は鼻で笑った。


「さっきあの子が助けを求めた時は断ってたじゃないか。自分の子供だけ助けようなんて、随分と都合が良いんだな」

「頼む……!」

「お願いしますっ!」


 涙を流しながら、二人は地面に頭を擦り付けて懇願する。


「親の因果が子に報い、だな。こいつが死にそうなのは、全部お前らのせいだよ」


 黒髪の少年が、ダーティスを指差す。

 

「お、ご、がああ」

 

 ビクビクと体を痙攣させ、ダーティスが叫んでいる。


「嫌ぁあ! ああ……っ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 許してください! お願いします! 悪いのは私達なんです! ダーちゃんは何も悪くないんです!」

「う、裏切って悪かった! 私達が間違っていた! なんでもする! 私達はいくらでも罰を受ける! だから、ダーティスだけは助けてやってくれ!」


 息子が死ぬ。

 そんなのは絶対にあってはならない。


「もう子供は殺さない! これからは心を入れ替えて、ちゃんと面倒を見る! ホムンクルスの研究もやめるッ!」

「い、今まで手に入れたお金も、全部貴方に返しますから!」

「ああああ、ダーティス! ダーティスッ!!」


 黙って聞いていた黒髪の少年が口を開く。


「それは本心から言っているのか? 息子を助けたいだけのデマカセだろう?」

「ち、違うッ!」

「違います! 本当です!」

「悪かった、なんて微塵も思ってないんだろ?」

「思ってます! 私達が間違ってました!」

「許してください! アマツ様ッ!!」


 分かった、と黒髪の少年は言った。


「好きにしろ」


 そう言って、二人の前からどいた。

 

「ありがとう、ありがとうございます……!」

「ダーティス! 今助けてやる!!」


 ズルズルと地面を這い、二人は装置の元まで辿り着く。

 そうして、ジョージが装置を停止させた。

 これで息子は助かる、そう安堵した。



 俺の前で、二人は装置を止めたと思って安心している。

 次の瞬間、何が起きるとも知らないで。


「ごぇ……!? ぶ、ぁあああああああ」


 直後、ダーティスが全身を震わせて絶叫を始めた。

 糞尿を撒き散らしながら痙攣する姿は、先ほど二人が言ったように豚にしか見えない。


「え……?」


 呆然と、二人は装置を眺めている。

 二人の目から見たら・・・・・・・・・、装置は停止している筈なのに、だ。


「あなた!? 何をしてっ!」

「違う! 私は電源を止めた!」


 タイミングを見計らって、俺は指を鳴らした。

 掛けていた洗脳の一部を解く合図だ。

 

「……そん、な」


 そして、二人はようやく気付く。

 自分達は装置を止めたのではなく、魔力の吸引量を高めただけなのだと。

 

 この装置は、いくつもの魔力付与品マジックアイテムの組み合わせによって出来ている。

 その魔力付与品に魔力を流すことで、定められた動きをするようになっているのだ。


 つまり。

 ジョージは『停止』の魔石ではなく、『吸引量増加』の魔石に魔力を流したのだ。


 気付いた二人が停止させようとするが、もう遅い。


「ぶぎっ……ごぉ……ぁ」


 次の瞬間、ダーティスの体から完全に魔力が吸い尽くされた。

 全身を干からびさせ、壮絶な苦痛の表情のまま、ダーティスは絶命した。

 これまでこいつらが殺してきた子供と同じように。

 

「嘘、うそ……」

「ダーティス……? 返事を……いつもの様に、返事をしておくれ……」


 ダーティスの死体に手を伸ばし、二人は呆然とする。

 ブツブツと呟き、その体を揺すって起こそうとしている。

 しかし、返事はない。

 ダーティスはミイラのようにカリカリに干からびて、死んでいるのだから。


「いやあぁああああ! ダーちゃん! ダーちゃんがああああ」 

「あぁ……あああ!! そんな、そんな馬鹿なッ! ダーティスが! 嘘だ……ああああ、嘘だ!!」

「うっ……おぇええッ」


 絶叫し、二人は泣きわめく。

 髪を振り乱し、ダーティスの死体に抱きついて。

 リリーなど、耐え切れずに嘔吐までしている。


「いやぁ……いやぁあ……嘘よ、こんなの嘘よぉおお!」

「嘘じゃねえよ。現に、お前らの息子はそこで干乾びて死んでるだろ」


 首を振り、嘘だ嘘だと連呼する二人に現実を突き付けてやった。

 いつまでもそんな調子だと、先に進まないからな。

 

「お、おばぇがああ! 私達に、何をじだぁああ!!」

「よぐも、よくもダーちゃんをおお!!」

「言いがかりはやめてくれよ。そいつを殺したのはお前らだろ?」


 ダーティスの死体を指差し、嘲笑う。


「どんな気分だ? 最愛の息子を、自分の手で殺すってのは」

「うっ、があああああ」

「いやぁあああああああああ」


 リリーが絶叫して現実を否定するように首を振り、ジョージがガリガリと顔を掻き毟る。

 最初に描いた、シナリオ通りだ。


 この二人がされて、死ぬよりも辛いことは何か? 

 それは、最愛の息子が死ぬことだろう。

 だからそうなるように、色々と仕掛けをうった。


 ダーティスを気絶させて装置に拘束する。

 その後、洗脳した二人に装置を起動させて、ダーティスを殺させる。

 最愛の息子を自分達の手で殺したのだ、それはもう愉快だろうな。


 ここまで大規模な洗脳魔術を使うのは初めてだが、どうにか上手く行った。

 意識を奪った後、こいつらが所有していた『思考能力を奪う薬』を嗅がせた。

 そのお陰もあって、洗脳はほぼ完璧といっていい。

 尋常じゃない量の魔力が必要となったから、回復の為にかなりの数のポーションを消耗することになったけどな。


「どうして、お前らの息子は死んだと思う?」


 泣き喚く二人に言う。


「お前らが、俺を裏切ったから……。いや、他人を利用して、食い物にするようなことをしていたからだよ。お前らがそんなことをしなければ、ダーティスは死ななかった」


 笑いながら、教えてやる。

 土気色の顔で、二人は絶望を顔に貼り付けている。


「あれだけの子供を殺しておいて、自分達の息子だけ助かるとでも思ったのか? そんな都合の良いことがある訳ねぇだろ」


 つまり、だ。


「――お前らが、ダーティスを殺したんだ」

「ぁ……うぁああ」 

「違う、違う、私は……私じゃ……」


 ああ、お前らのそういう顔が見たかった。

 絶望するお前らを見ることで、俺はようやく先に進めるんだよ。


「苦しかっただろうな。体内の魔力を数分掛かりで全部吸われるなんて、まさに地獄の苦しみだっただろうな。そんな苦痛を与えたのは、お前らだよ」


 二人に、追い打ちを掛ける。


「ダーティスは絶望しただろうな? 愛していたパパとママに殺されたんだから。痛くて、怖くて、どうして僕が、親に殺されなくちゃいけないんだ……って、お前らを恨みながら死んだんだろうな?」


 そう言って、二人がまともに口を聞けない程に追い詰めた。

 まあ、こんな所だろう。

 次で、終わりにしよう。


「ひっ……!?」


 腕力を魔術で強化し、地面に泣いているジョージとリリーを持ち上げる。


「これ以上、私達に何をするつもりなの!?」


 装置の上に二人を乗せ、拘束する。

 それで全てを理解したらしい。

 二人の顔が土気色から真っ赤になり、また蒼白になっていく。

 

「ま……待て、待ってくれ!!」

「私達まで殺すつもりなの!?」

「さっき、私達はいくらでも罰を受けるって言ったじゃないか。存分に罰を受けてくれよ」


 ブルブルと、二人が首を振る。


「やめてくれ!!」

「嫌よ、死にたくない!!」

「遠慮しなくていい」


 ニッコリと、笑みを浮かべる。


「あんなに泣くほど、息子のことを愛してるんだろ?」

「助けてぇ、助けてえええ!!」

「やめろ! やめてくれ! クソ、クソォ! 離せ、離せええええ!!」


 二人は暴れるも、拘束具はビクともしない。

 軽い魔術を使ったくらいでは外れない。

 この拘束具自体も、魔力付与品マジックアイテムみたいだからな。

 

 自分達で作ったんだ。

 強度くらい知ってるだろうに。

 もうしばらくしたら、鎮静の為にダーティスと同じように腕をへし折られることになるだろうな。

 二人の滑稽な姿を見ながら、言葉を続けた。


「だったら、お前たちも息子の後を追うべきだろ?」


 そう言って、俺は装置を作動させた。

 二人に配慮して、秒間あたりの吸収量はそれ程多くない。

 息子と同じ苦しみを、存分に味わってもらわないとな。


「ん、が、ごぉごごっがあ」

「ぃぃいいぎぃいい、ひぎ、がぁああ」


 そして、吸引が始まる。

 絶叫しながら二人は装置の上でのたうち回った。


「がっごぉおお」

「ぎっ、ぎぎいい」


 少しずつ少しずつ、じっくりと魔力を吸われて顔から生気が失われていくのが見える。


「良かったな、息子と同じ苦しみを味わえて。あと十数分は楽しめるぞ?」

「だず、だずずっげぇえ」


 目を見開いて、二人が助けを請うてくる。

 それを無視して、装置から伸びているコードの方へ向かう。


 その先には、吸収した魔力が充填される透明な石が設置されていた。

 二人から吸収した魔力によって、透明な石は鮮やかな赤に染まっていく。

 

「腐っても元聖堂騎士の錬金術士アルケミストか。いい色じゃないか」

「がえじてぇ! まりょぐ、っぇああ」

「石から魔力を再度吸収したら、少しは長生きできるぞ? 欲しいか?」

「ぐだざいっ!」


 間髪入れずに、二人はお願いしてくる。


「けど、残念だな。石は一つしかない。渡せるのは、お前ら一人だけだ」


「……っ! ぐれぇ! わたじに! わたじに石をくれ!!」

「だめぇええ!! ちょうだい! 私のまりょぐっ!」

「があぁあ! リリー、ぶざげるなぁあ!!」

「アンタがぁあ! アンタが、ッ、ダーちゃんをごろじだんでしょ!!」

「がんげいな……ぎぃいい」


 魔力を吸われる痛みに耐えながら、二人が言い争う。


「……想像してたより、ずっと醜いな」


 愉快ではあるが、見続けるのは不快だ。

 

「なあ。渡すとでも思ったか?」


 装置から石を抜き取り、俺は地面へと叩きつけた。

 粉々に砕け散り、内包されていた魔力が霧散する。


「ああああッ!?」

「ぞんな!?」

「いい加減理解しろよ。助ける訳がないだろうが」

「あ…」

「ああああっ」


 息子が死んだと知った時の悲しみから来る絶望とは別。


「――家族仲良く、死ぬといいさ」


 自身に迫り来る死の恐怖からくる絶望を貼り付け、


「「あああああぁああああッ!!」」


 苦しみ悶えながら、二人は絶叫した。




 十数分後。

 二人は苦痛と恐怖を顔に貼り付けたまま、干乾びて死んだ。


「やっぱり、親子だな」


 死に様を思い出しながら呟く。



「お前らの断末魔、豚の悲鳴にしか聞こえなかったよ」

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