第十一話 『裏切り者の手掛かり』
マーウィン達の死体は、エルフィに消し炭にしてもらった。
血や肉の焼けた臭いは地下に染み付いてしまったようだが、こちらはどうしようもない。
嗅覚の発達した亜人もいるので、念の為にカモフラージュで油などを撒いて、俺達の臭いは完全に消しておいた。
あれだけの人数を処分したのだから、問題にはなるだろうが、しばらくは行方不明扱いになるだろうな。
証拠は残していないし、記憶でも探られない限り、俺達がやったとは誰にも分からない筈だ。
「そういえば、あの壁に隠し通路があるんだったか」
マーウィンが逃げようとしていた場所だ。
この先に何かあるのかもしれない。
魔力を流すと、壁に人が通れる穴が出来た。
気配を遮断して、その先へ進んでみる。
脱出経路のようで、外に通じているようだ。
幾つかの部屋があり、それぞれに外へ通じる簡易的な召喚陣が敷かれていた。
地下や隠し通路の仕掛けといい、相当な金を使っているな。
その部屋の中に、結界が張られた場所があった。
結界を砕いて中に入る。
「ここは……書斎みたいだな」
「上にあったのはカモフラージュか」
椅子や机などかなり金の掛かった調度品が飾られている。
机に置かれていたザッと資料を漁ってみると、マーウィンが行った黒い取引などについてが書かれていた。
国の議員と繋がっているという話は本当なようで、それ絡みの物もいくつかある。
「ふむ、真っ黒だな。この資料、明るみに出れば大騒ぎになりそうだ」
先に見ていれば証拠をばらまいてマーウィンを失脚させ、落ちぶれた所を……というシナリオもあっただろうが、復讐を果たした今、これを読んでも特にどうかしようとは思わない。
放置でいいだろう。
「ん……」
エルフィは机に置かれていた、白紙の便箋に目を通している。
特に興味もなかったので、別の場所を漁ることにした。
「やっぱり、かなり貯めこんでたな」
置かれている金庫を魔術を使って開けると、中から魔石が出てきた。
俺が持っているような拳大のものではなく、小石程度の小粒だが。
それでも換金すればかなりの金額になるはずだ。
王国から必要な分の金額は盗んできたし、今の所金は必要ない。
「……ああ、そうだ」
使い道を思いついたので、魔石はポーチの中へ放り込んでおいた。
あいつがやったことなのだから、あいつの金で責任を取らせよう。
それから数分の間、部屋の中を漁ったがこれといって興味のある物は出てこなかった。
魔王軍と繋がっていると言っていたが、それに関しても特に何もない。
そろそろ潮時か、と漁ったものを片付けていた時だ。
「伊織、こっちへ来い」
いつの間にか魔眼を発動させたエルフィが、白紙の便箋を手に呼んできた。
何やら難しい表情をしている。
「どうかしたのか?」
「この便箋から、微かに魔力を感じてな。"検魔眼"を使って見てみたら、厳重な封印が施されていた」
覗いてみるが、ただの便箋にしか見えない。
だが、言われてみれば、確かに違和感を覚える。
この違和感の正体は魔力のようだ。
「読めたのか?」
「ああ。お前にも関係のあることが書かれていたぞ」
そう言って、エルフィは手紙を読み始めた。
内容を要約するとこうなる。
どういう訳か生きていた"英雄アマツ"と、それに与する魔族を殺害した。
放っておけば魔王軍にも被害が出ていただろうから、事前に処分した自分の事をオルテギアに伝えて欲しい。
証拠として亡骸を渡すから、一度直接会いたい。
使いの者をそちらに送る。
文中の中に一度だけ、手紙の受取人の名前が出ていた。
「『ベルトガ』というのが、今この街に来ている魔王軍の手の者らしいな」
その名前の響きに、息を呑んだ。
「それにしても、あの人狼種、戦う前から私達を殺した気でいたらしいな。全く、舐められた……どうした、伊織?」
「そのベルトガという男を、俺は知っているかもしれない」
「なんだと?」
鬼族の中に、同じ名前の男がいた。
ディオニスの配下で、最終決戦の直前に会話している。
そして――。
「リューザスの記憶の中で見た、裏切り者の一人だ」
もしかしたら、同名の魔族がいるのかもしれない。
あの鬼族とは、全くの別人かもしれない。
「だが、本人なら必ず殺してやる」
恐らくはまだ、このベルトガはまだこの街のどこかにいる筈だ。
煉獄迷宮の中にいるという可能性もある。
迷宮討伐隊が組まれているし、もしかすれば炎魔将と共に迷宮を守っているのかもしれないな。
「行こう、エルフィ。そろそろ退散しよう」
裏切り者へ復讐できた。
それに加えて、次の復讐をするための手掛かりまで手に入れた。
これ以上ない収穫だ。
「ああ、分かった」
来た時と同じように闇に紛れ、俺達はマーウィンの屋敷を後にした。
◆
鍛冶屋が炎上してから、一日が経過した。
日が昇り始めた頃。
重度の火傷で入院していたゾォルツの病室に、一人の魔術師がやってきた。
温泉都市でも指折りの治癒魔術師だ。
かなりの腕前の持ち主だが、それ故に依頼にはかなりの金額が掛かる。
ゾォルツに寄り添っていたミーシャは、とてもではないが報酬は払えないと魔術師に言った。
だが、その魔術師は首を振り、「既に前払いで金は貰っている」と答えた。
結局、ミーシャの立会のもと、魔術師によるゾォルツの治療は行われた。
火傷による傷は酷く、中級の治癒魔術では治しきれない。
このままでは、後遺症が残るとすら言われた。
だが、この魔術師は上級までの治癒魔術を行使することが出来る。
長い詠唱を行い、魔術師が治癒魔術を発動した。
包帯に覆われていた部分へ光が降り注ぎ、その火傷を癒していく。
そして。
ほんの数十分で、ゾォルツの傷はほぼ完璧に治ってしまった。
傷を見た医師も、これならばすぐに退院出来ると太鼓判を押すほどだ。
感謝してもしきれないと、ミーシャは何度も魔術師に頭を下げた。
「一体、誰がお金を払ってくれたんですか?」
その問いに、魔術師はこう答えた。
「黒髪の少年と、銀髪の少女の二人組だ」
去っていく魔術師を呆然と見送ったミーシャ。
小さく息を吐き、先ほどまでと違って安らかに眠っているゾォルツへと視線を向ける。
「……ん?」
そこで、ゾォルツの枕元に、それまでなかった革袋が置かれていることに気付く。
手にとって見ると、ずっしりとした重みが伝わってくる。
「これは……」
中には大量の金貨と、「これで店を直してくれ」という手紙が入っていた。
◆
「これで一段落、といった所か」
俺達は、病院から出て帰っていく治癒魔術師を見ていた。
あの魔術師なら、もうゾォルツは大丈夫だろう。
マーウィンの屋敷から出た後、俺達はゾォルツの傷を治しきれるだけの治癒魔術師を探し、依頼を申し込んできたのだ。
依頼に掛かった分は、換金した魔石の分で払っておいた。
そして、残りの金は全て、ゾォルツの場所へ置いてきた。
あれだけあれば、鍛冶屋を立て直すことも可能だろう。
あの店が燃やされた原因に、俺も関わっている。
だから、一応の後始末はしておいた。
金はマーウィンのモノだが、責任の殆どはあいつにあるのだから問題無いだろう。
まだ、この街でやるべきことは沢山残っているが、マーウィンに関しては決着が着いた。
「……取り敢えず、宿に帰ろうか。眠くなってきた」
「私はお腹が減ったぞ。何か食べて帰ろう」
そうして、俺達は食べ物を買って宿へと帰ったのだった。




