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第三話 『背中刺す不穏な視線』

 

冒険者。


 冒険者ギルドが斡旋する、魔物退治や盗賊退治、迷宮攻略などの危険な仕事を受ける、傭兵に近い職業。

 王国で読んだ書物によると他国にも冒険者ギルドの設立の案が出ているが、今の所は連合国にしかない特別な職業だ。

 

 仕事の内容上、危険な職業の為、冒険者になるには厳しい審査を潜り抜けなければならない。

 冒険者というだけでステータスになるため、他国から審査を受ける為にやってくる者も多いという。


 煉獄迷宮に入るには、冒険者ギルドに登録し、なおかつ定期的に組まれている迷宮討伐隊に加わらなければならない。


 店を出てから、歩くこと十分ほど。

 周囲と比べて、一際大きな建物が鎮座していた。


「ここが冒険者ギルドか。大きいのだな」


 冒険者が集まる建物というだけあって、中はそれなりに広かった。

 冒険者同士で情報交換を行う酒場、依頼が貼りだされる掲示板、色々な手続きを行うフロント。

 他にも色々な設備があるようだ。


 中には大勢の冒険者たちが集まっており、粗雑な雰囲気を醸し出していた。


「しかし、冒険者にならねば迷宮に入れないとは、随分と面倒だな」

「力の無い人が迷宮に入らないようにする為だろうな。腕試し感覚で迷宮に挑む奴は、昔から多かったし」


 中へ踏み込んだ俺達へ、酒場にいる冒険者達がジロジロと視線を向けてくる。

 ここにいる冒険者の殆どが屈強そうな大人ばかりなので、俺達が物珍しいのだろう。


 ここにいる者の多くは、柄の大きな男だ。

 そこに子供の男女が二人で入って来れば、それは注目を集めるだろうな。


 ボソボソと陰口を叩くように、仲間に向けて何かを呟く全身鎧の男。

 ただ無言でこちらに視線を向ける、フルフェイス兜を被った大男。

 見定めるように視線を向ける、亜人種。


 中にはエルフィの体を見て、露骨にニヤニヤとした視線を向けてくる冒険者いる。


「私の魔眼で睨んでやろうか」

「潰れるか爆散するからやめろ」


 フロントには結構な人が並んでおり、色々な手続きを行っていた。

 右端が冒険者登録の受け付けのようで、俺達はそこへ並んだ。


 一度目の時は殆ど立ち寄ることがなかったが、ギルドは割りと想像通りの場所だな。

 粗雑な冒険者が酒場で情報交換を行ったり、新顔の値踏みを行っている。

 ザワザワと聞こえる声に、少し意識を傾けてみた。


「から、――――ってんだろ?」

「――傭兵団が討伐に参加するらしいぜ」

「――、一昨日ぐらいだっけか? 迷宮討伐の資料が持ちだされたのって」


 聞こえてくる情報。


「本当に気に食わねえな。人狼種ウェアウルフの連中はよぉ」

「やめとけって。どこに耳があるか分かんねえんだから」


 その中に、引っかかるワードがあった。

 人狼種ウェアウルフ

 俺がこの街に来た、目的の一つ。

 裏切り者の種族も、人狼種だ。


 更に情報を手に入れられないかと、その会話をしている冒険者へ意識を傾けた時だった。


「――――」


 ――誰かに視られている。


 内面を探るような、視線。

 王国の追手か?

 バッと振りかえろうとした時だ。


「おっと」


 不意に、何かがぶつかってきた。

 振り返れば、全身鎧フルプレートの男が後ろに立っていた。


「……何か?」

「何か、じゃねえよ。遊び半分で冒険者になろうとしてんなら、とっとと帰れよ。お前らみてぇなヒョロいガキがなれるほど、冒険者は甘くねえぞ」


苛立った様子で、全身鎧が凄んでくる。

 ただの子供にしか見えない俺達がここにいるのが気に喰わないのだろうな。


「なれるかどうかは、ギルドの試験で決まるんだろ? あんたに口出しされる筋合いはないな」

「は、そうかよ。じゃあ試験、楽しみにしてるぜ?」


 小さく笑うと、全身鎧の男はギルドの奥へと歩いて行った。

 

「やはり、魔眼で」

「やめとけ」


 そうこうしている内に、俺達の番がやってきた。

 

「お次の方、どうぞ」


 受け付けでは、冒険者の仕事と、試験の内容に関しての説明が行われた。


 冒険者は、ギルドに寄せられた依頼を請け負う傭兵に近い職業。

 薬草探し、盗賊退治、迷宮討伐など、その仕事は多岐にわたる。

 依頼内容によっては命の危険もあるため、死亡するリスクを念頭に置いておくこと。


 こんな感じだ。


 危険が多い仕事のため、登録の際の試験の内容は一つ。

 その者の戦闘能力を図る、戦闘試験だけだ。

 参加者が、相手役の冒険者と戦い、その過程と結果を見て審査員が判定を下すらしい。


 説明が終わった後は、ギルドの奥にある会場へ行くように指示された。



 気を取り直して、俺達は会場の方へ向かった。



 戦闘試験は、ギルドから貸し出された武器、もしくは己の使える魔術だけで戦わなくてはならない。

 魔力付与品も、魔石も使用不可だ。


 まず最初に、自分の使う武器を選択する。

 俺はオーソドックスな片手剣を選択しておいた。

 因みに、エルフィは武器を選ばなかった。


 試合は会場を二つに分け、四人同時に行われる。

 俺とエルフィは別々に分かれてしまった。


「お次の方、準備をお願いします」


 しばらく待ち、俺の番がやってきた。

 戦う相手は、冒険者ギルドに所属する冒険者だ。

 冒険者本人、そして戦いを見ていた審査員が評価を出し、合否が決まる。


「よぉ」


 俺の前に出てきたのは、全身鎧の男だった。

 どうやら、冒険者登録に協力しているらしい。


「そのヒョロヒョロの体で冒険者になろうってんだから、よっぽど自信があるんだろ? なら、俺が試してやるよ」

「そりゃどうも」


 軽く流して、審査員に指示された位置に付く。

 全身鎧の男は、魔術師らしかった。

 敏捷性を捨てて鎧を着込んで攻撃を防ぎ、魔術を撃ちこむスタイルなのだろう。


「それでは、両者とも準備してください」


 お互いの距離はそれ程離れていない。

 走れば、すぐに詰められる程度だ。

 だが、相手は魔術師。

 この距離ならば、先手は相手に譲ることになるだろう。


「ビビってんのか、おい」

「逃げるなら今の内だぜー!?」


 見学している冒険者から野次が飛んでくるが、無視して正面を見据える。

 相手が魔術師なら、ちょうどいい技がある。

 少量の魔力で使用できるように調整した魔術を、ここで試すとするか。


「それでは、始め!」

 

 審査員が手を上げ、号令を出した。


「――”魔技簒奪スペル・ディバウア”」


 号令と同時、相手の魔術の発動と同時。

 こちらも、同じように魔術を行使した。


 任意の対象から魔力を奪い、強制的に魔術を消滅させる技。

 大幅に劣化し、今は相手の魔力を一瞬、散らす程度の効果しかない。


「な、に? 魔力が……!」


 魔力が散り、男は驚きの声を漏らす。

 俺と自分の杖に、何度も視線を行き来させている。


 その一瞬で、間合いは詰め終わっていた。


「ぐ、おっ」


 足を引っ掛け、男と全身鎧の重さを利用して地面に引きずり倒すと同時。

 首の部分にある鎧の隙間に、片手剣を差し込んで首に刃を突き付ける。

 実戦なら、これで男は死亡だ。


「え……」


 開始から、まだ五秒程度しか経過していない。

 それまで野次を飛ばしていた冒険者達が、驚いた表情でこちらを見ていた。


「そ、そこまで!」


 遅れて、審査員が声を上げる。

 これで審査は終了らしい。


「なんだよ、最初の魔術。あんなの知ってるか?」

「い、いや……てか、あの間合いの詰め方、獣か何かかよ」


 冒険者達の驚き具合からすると、悪くない結果らしい。

 冒険者にはなったことがないから基準が分からないが、これなら合格出来るだろう。


 その時、背後からボンと爆発音が響いた。

 振り返れば、エルフィの対戦相手が気絶して地面に倒れている。

 当然だという表情で、エルフィが腕を組んでいるのが見えた。

 どうやら、あちらも終わったらしい。


「……チッ」


 地面に尻餅を付いた全身鎧の男が、小さく舌打ちした。


「調子に乗るなよ、ガキ」

「…………」


 鎧の間から見える目。 

 そこから感じた重圧に、剣の柄を握る力が強まる。

その気迫は何なのかとさぐるよりも早く、全身鎧の男は去っていった。


……なんだ、あいつ。

 

去っていく背中に目を細め、俺も次の人へ場所を譲った。




「審査の結果は、明後日頃に発表されます。ですので、明後日、一度冒険者ギルドに来てください」


 そう説明され、審査は終了した。 


 恐らく、試験は合格だと見ていた冒険者の一人に言われた。

 対戦相手の冒険者を完封すれば文句無しで合格だと思っていいようだ。

 

 遠巻きに冒険者の視線を感じるが、相手にせずギルドの外へ出る。

 

「これで、今日の所の用事は終わりだな? 伊織、私はお腹が減ったぞ」

「分かった分かった。どこかで適当に飯を食って帰ろう」


 そう話しながら、歩いている時だ。


「おい人間、あの程度の冒険者に勝ったくらいで調子乗ってんじゃねえだろうな」


 ズイッと、前へ行く道を塞がれた。

 見れば、頭から狼耳を生やしたガラの悪い男――人狼種ウェアウルフが立っていた。


「別に、そんなことは思っていないが」

「はあ? スカした顔してんじゃねえぞ、コラ。お前みたいに調子に乗った人間のガキが、一番気に食わねえんだよ」


 困ったな。

 今日はよく面倒な奴に絡まれる。


「そっちの嬢ちゃんは、スゲエ魔術師みたいだな。良かったらこれから俺達のとこにこねえか? 嬢ちゃんほどの美人なら、悪いようにはしねえぜ? なぁ?」

「……ほう?」

「行くぞ、エルフィ」


 低い声を出しながら首を傾げたエルフィを引いて、歩き出す。

 こういった手合は、相手にするだけ時間の無駄だ。


「てめぇ……!」


 人狼種が、こちらの胸倉を掴もうと手を伸ばしてきた。


 本当に、面倒だな。

 対処しようと、身構えた時だった。


「いい加減にしろ。困っているだろう。ネチネチと絡むんじゃない、みっともねぇ」

 

 横から伸びてきた手が、人狼種の腕を掴んでいた。

 右目に眼帯を付けた、猫人種ワーキャットの女性だ。

 その体型にあった身軽そうな鎧を装備しており、雰囲気からして場慣れしていることが分かる。


「お、おいミーシャ。やめとけって」


 女性の仲間らしき連中が彼女に制止するように言っているが、本人は無視して、人狼種を睨みつけている。


「……またてめぇか」

「それはアタシの台詞だ」

「……チッ」


 女性の気迫に押されたのか、人狼種は舌打ちして、その場から去っていった。

 はぁ、と女性は呆れた風に息を吐き、その背を睨んでいる。

 

「……ありがとうございました」

「気にすんな。ああいった身勝手な手合いは大っ嫌いなんだ」


 頭を下げると、女性は鼻を鳴らしながらそう言った。

 『またてめぇか』などと言われていたし、何度もぶつかっているのだろう。


「あーあ……またミーシャが人狼種にやらかした」

「うるせえな。あんなん見て、黙ってらんねえだろ」


 どういう訳か顔を青くしている仲間にそう言い返すと、ミーシャと呼ばれている女性が忠告してきた。


「二人共、この街に来たばっかりだろ? 今のを見て分かると思うが、人狼種ウェアウルフには近寄らない方がいい。あいつらはこの街で、好き勝手やってるからな」

「好き勝手……?」


 今のように、色々な人に絡みまくってるということだろうか。


「暴れているのなら、衛兵にでも突き出してやればいいのではないか?」


 俺の疑問を、エルフィが口にしてくれた。

 それだけ問題を起こしているのなら、然るべき機関に対処してもらえばいいのではないか。


「いや、それがな……」

「この話を道のどまんなかでするのは不味いだろ。ミーシャ、そろそろ行こうぜ」


 問いに答えようとしたミーシャを、仲間が小突いた。

 ミーシャは「まぁな」と目を細めると、


「とにかく、人狼種には出来る限り関わるなよ。じゃあな!」


 そう言い残して、仲間と共に去っていってしまった。

 

「あの人狼種は、今の猫人種ワーキャットに感謝するべきだな」

 

 その後ろ姿を見て、エルフィがポツリとそう呟いた。

 

「俺達が、じゃなくてか?」

「人狼種が伸ばしてきた腕を、へし折ろうとしていただろう」

「……あぁ」

 

 確かに、あれ以上絡んでくるようなら、それぐらいはしていたかもな。

 無関係な人間に手を出そうとは思わないが、復讐の邪魔になるようなら容赦しない。

 冒険者だろうと、”死神”だろうと、邪魔をするようならば殺す。


「まぁ、良い。登録も終わったし、早速火山焼きを食べに行くぞ伊織!」

「はぁ……」


 まあ、腹も減ったし、そろそろ飯を喰ってもいいかもな。

 溜息を吐いて、エルフィの後を追おうとした時だ。


「――――」


 また、視線を感じた。

 最初に向けられた、内面を覗きこむようなモノは違う。

 明らかに敵意の含まれた、鋭い視線。


 視線の方向を見るが、冒険者の一団がいて区別がつかない。

 王国からの追手か、魔王軍か、全く知らない敵か。


「……面倒だな」


 警戒を高めながら、俺はエルフィの後を追うのだった。


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