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第二話 『連合国・温泉都市』

 ボルカニア連合国。

 レイテシア西部にある、弱小国が集まって出来た国。

 代表の議員が議会を開いて話し合う議会制の形を取っている。


 人間だけでなく、多くの亜人がこの街で暮らしている。

 亜人を排斥する国が多い中、連合国は珍しい形態を取っていると言えるだろう。

 とはいえ、流石に魔族は受け入れられないだろうが。


「人がいる前じゃ、その腕輪を外すなよ?」

「分かっている。魔力が抑えられてしまうが、仕方ないな」


 現在、エルフィの腕には『偽装の腕輪』という魔力付与品マジックアイテムが嵌められている。

 魔族の魔力を、人間の物へ偽装する効果のある腕輪だ。

 エルフィの頭の中に入っていたのを、連合国へ入る前に付けさせている。


 そうしてエルフィの正体を隠してから、連合国へと足を踏み入れた。

 

「それにしても、迷宮がそばにあるとは思えない程、活気のある国だな」


 都市内を歩く人の多さを見て、エルフィがそう呟いた。


 ここは煉獄迷宮が内包された火山の麓にある、大きな都市だ。

 掘るとよく温泉が出てくることから、『温泉都市』などと呼ばれている。

 温泉目的で訪れる人も多いという。


 それに加え、ここには『冒険者ギルド』と呼ばれる組合がある。

 各国から冒険者に登録するため、腕の立つ者が集まってきているのも理由の一つだろう。


「三十年前に一度来たが、ここまでの活気はなかったよ」


 三十年の間に、人口も増えたのだろうな。

 旅の合間、一度だけ体を休めるために仲間とこの都市にやってきたことがある。

 もう面影もない程に、都市の景観は変わってしまっていたが。 


「――――」


 偽りの平穏を思い出しながら、己が何をやるべきかを頭に思い浮かべる。


 この都市で、俺はやらなければならないことが二つある。


 一つ目は煉獄迷宮の攻略、及び迷宮核の入手。

 二つ目は裏切り者の探索、及び復讐だ。


 エルフィには既に、この街に復讐対象がいることは伝えている。

 彼女の魔眼を使えば、多少は発見しやすくなるだろう。


 まずは、目的を果たすため、やるべき準備を整えよう。



 観光客向けの屋台が並ぶ区画を越え、俺達は冒険者が集まる区画にやってきていった。

 武具店、鍛冶屋やアイテムショップなどが建ち並んでいる。


 ここに来たのは、装備を整えるためだ。

 エルフィはともかく、今の俺の弱さを補うためには出来る限り良い武具を用意する必要がある。

 

 土魔将の魔結晶という、極上の素材を持っているため、これを使って武器を作りたい。

 そのため、俺達に用があるのは鍛冶屋だ。


 その中に武器や防具、鍛冶の三つを取り扱う大きな店があった。

 出ている看板によると、魔物の部位や魔石などの換金も行っているらしい。


 扉を開けると、付いていた鈴がカランカランと音を立てる。

 入ってすぐの所に、所狭しと武器や鎧が並んでいた。

 少し進んだ所にカウンターがあり、一番奥には鍛冶用だと思われる部屋が続いている。

 防音性の強い扉のようで、中の音は聞こえてこない。


「いらっしゃいませニャー!」


 制服を来た店員が、奥の扉から勢い良く出てきた。

 その頭には猫の物と思われる耳が生えており、走る度にふにゃふにゃと揺れている。

 どうやら"猫人種ワーキャット"の店員のようだ。


 店員に促され、俺達はカウンターの所までやって来た。


「鍛冶の依頼がしたい。持ってきた魔物の素材で剣を作ってもらいたいんだが、大丈夫だろうか」

「でしたら、素材を見せて欲しいですニャ」

「エルフィ、出してくれ」


 結局、魔結晶などはエルフィの頭の中にしまいこんでいる。

 俺のポーチよりも、こいつの頭の方が多く収納することが出来たからだ。

 

「分かった」

「ニャッ!?」


 頭の中に腕を突っ込み、土魔将から剥ぎ取った素材をカウンターの上にドサドサと積んでいくエルフィ。

 そのショッキングな絵面に店員が耳をピンと立てて驚いてしまっている。

 申し訳ないことをした。

 

「ニャ、そ、それではしばらくお時間頂きますニャ」


 素材を確認すると、引き攣った表情のまま、店員は奥の扉の方へ下がっていった。


「……何だか、化物でも見るような顔で見られた気がする」

「当たり前だろ」

「解せぬ……」


 そんなやり取りをしていると、扉からさっきとは違う店員が出てきた。

 気難しそうな顔をした老人で、白髪交じりの頭には鍛冶用のゴーグルを付けている。

 

岩窟龍アースドラゴンの素材か」


 カウンターに置かれた素材を見て、老人は一発で言い当ててみせた。

 

「剣の依頼だったな。良いだろう。数日中に作ってやる」


 それから体重や身長、構えなどを聞かれ、それに答えていく。

 その間、エルフィは展示されてる盾とか剣にベタベタ触れて、老人に怒鳴られていた。


「ニャンメル。ここに書いてある素材を買ってこい。剣を打つのに必要だ」

「了解ニャー」


 あの店員はニャンメルというらしい。

 老人に渡されたメモを手に、店を出て行った。


「どうせ、迷宮討伐をしにここへ来た口だろう。その日には間に合わせてやる」


 そう言い残すと、老人はまた奥の扉へと戻っていってしまった。

 職人気質の人なのだろう。

 なんとなく、ドワーフの鍛冶職人を髣髴とさせる。


「む……なんだあの人間は。偉そうな奴め!」

「お前が言うな、お前が」


 ともかく、武器の依頼は終わった。

 剣が完成するまでは、宝物庫から盗んだ剣を使えばいいだろう。

 これも十分な業物だからな。


 鍛冶屋を出て、通りに出た。

 相変わらず、道は人でごった返している。


「次は冒険者ギルドに向かうぞ」

「確か、冒険者登録をするんだったか?」

「ああ。迷宮に入るには、冒険者になる必要があるらしい」


 一般人の安全を守るため、煉獄迷宮には冒険者でなければ入れないようになっているのだ。

 普段は結界が張られ、見張りもいるようだ。


 この辺の事情については、王国の書庫で調べてある。

 迷宮への立ち入り制限は、三十年前はもっと曖昧だった。


「……それに人が多く集まるギルドなら、あの男の情報も集まりやすいだろうからな」

「なるほどな」


 混雑した通りを進み、冒険者ギルドの方向へと進んでいく。

 観光客用に、道の脇に屋台が広がっているのも、人が多い理由の一つだろう。


「冒険者になるには、試験を受けないといけない。お前なら余裕だろうが、ある程度は気を張っておけ」

「――止まれ、伊織」


 その時、唐突にエルフィが足を止めた。

 そして左手で俺の行く手を遮ってくる。


「……どうした」


 声を潜めて、エルフィに尋ねる。

 まさか、裏切り者に関する物でも見つけたのか?

 

「なんだ、勇者ともあろう者が分からんのか」

「……何?」

「――五感を研ぎ澄ませろ」


 困惑する俺に対し、バッサリと告げてくるエルフィ。

 彼女の目は真剣極まりなく、常在戦場の心さえ見て取れた。

 エルフィの視線の先を追う。


 そこには、露店近くに並ぶ男たちの姿があった。

 どうやら冒険者のようで、一目見てわかるほど上等な装備を着けていた。

 彼らはピンと張り詰めた雰囲気をまき散らしている。

 

 平和な街だが、それなりの実力者が揃っているようだ。

 エルフィはあれに反応したのか。


「奴らは強いぞ。私の視覚と嗅覚を釘付けにして止まない」

「……ん、嗅覚?」


 何かの言い間違えだろうか。

 首を捻った瞬間、エルフィはニヤリと笑った。


「ああ、連合国の特産料理と名高い『火山焼き』。興味をそそる一品だ……相手にとって不足はない」


 あぁ……食い物の話なのな。


 冒険者じゃなくて、奥の露店を見てやがったのか。

 俺は脱力感に襲われて肩を落とした。

 そんな俺を見て、エルフィはきょとんとした顔になる。


「何だ伊織、その目は。あれは肉汁あふれるステーキと新鮮野菜を、火山の石で焼いた名物なのだぞ? この連合国でしか食べられぬ、至上の料理なのだぞ?」

「気を張れって言っただろ、どこに食いついてんだ」


 そういえばこいつ、迷宮で『一日三食作れ』とか、森で『シェフを呼べ』って騒いでいたな。

 食事に関して、うるさい奴なのかもしれない。


「まあ、御託はいい。まずは露店で腹ごしらえを――」

「ダメだ」


 エルフィの服を掴んで止める。

 彼女は恨みがましい目を向けてきた。

 こいつ……。


 ……こんな奴と死闘を繰り広げたのかと思うと、複雑な気分になってくる。


 屋台に行きたいと渋るエルフィを引きずって、冒険者ギルドへと向ったのだった。 



復讐相手はもう少しで出てきます。



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