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第三話 『信じた者/信じられた者』

 

「団結も深まったことですし、これからのことを話しましょうか」


「何も深まっちゃいねェが、元々それが本題だ」


 ――どうやって、冥界の門まで辿り着くか。


 リューザスはまず、冥界の地形についての話を始めた。

 この世界は、現世――レイテシアと極めて近い地形になっている。

 つまり、東西南北に分かれた大きな菱形の形をしているらしい。


「俺達がいるのは、冥界の南端だ。ハーディアの魔力が消えていったのは大陸の北側、つまり目的地は真逆の方向にある」


「へぇ、やっぱりそうだったんですね」


「ん? ルシフィナは知らなかったのか?」


「はい。こちらに来てから情報は集めましたが、それよりも困っている人を助けることに夢中になってしまって。リューザスさんはどこでこのことを?」


「人から聞いたり、魔術で収集した情報を統合して割り出した。そもそも、敵陣の地形の情報を抑えるのは、基礎中の基礎だろォが」


 感心したように手を合わせるルシフィナに、リューザスは呆れたように頭を掻く。 

 確かに、リューザスの言っていることは正しい。

 人助けに夢中になって、という辺りは凄くルシフィナらしいのだが。


「目的地は北側。魔力を使って真っ直ぐ走り続ければ数日と掛からずに辿り着けるだろうが、話はそう簡単じゃないんだろ?」


「ああ。その辺に散らばってる『骸』に集られれば、まともに前に進むこともできねェだろうな。それに、そもそも冥界の中央は通れねェ」


 中央――確か、紫色の結晶が突き出ていた方向だろう。

 遠目からでも見えたということは、相当な大きさだということが分かる。

 中央にあるということは、何かしら重要な役割を持っているんだろうな。


「アレはハーディアが冥界に打ち込んだ楔だ。『骸』が発生すんのも、ここに来た奴の魂が溶かされるのも、アレが原因だろォぜ」


「だったら! 真ん中を通って、門を向かうついでにその楔を破壊して行けば良いんじゃないですか?」


「これだから脳筋は」


 鼻で笑われたルシフィナは、頬を膨らませてリューザスに抗議する。

 リューザスはそれを相手にせず、そして俺とも視線を合わせないまま、言葉を続けた。


「良いか。そんな大事なモンをそのままにして置いておくわけねェだろ。あの辺りには『骸』も、ハーディアに与した連中も近づかねェ。とんでもねェ化物がアレを守ってるからだ」


「……化物?」


「――“初代魔王”だ」


 魔王、それも初代か。


 歴代の魔王にも、当然のことながら実力の違いはある。

 エルフィから聞いた話では、彼女も、そしてオルテギアも歴代で五指に入る実力があるという。

 だが、その中で最も強いとされるのが、初代魔王だ。


 四天王の元となった四人の魔族、死天を従えて、メルトの軍勢を食い破った悪夢のような存在。

 最終的に、ハーディアを裏切ってメルトの側に付いたという話だ。

 初代魔王は自分がいなくなった後のことを考え、自身の心象魔術を用いて『魔王』、そして魔王が自由に扱える『魔王城』というシステムを作ったと言われている。


 冥界にいるということは、満ち足りた死を迎えられたんだろうが……どうしてまたハーディアの下についているのかは、分からないな。


「幸いなことに、あの化物は楔に近付かなきゃ姿を現さねェ。ただでさえ敵が多い状況で、これ以上やべェのを相手にしてる余裕はねェよ」


「……ですが」


「リューザスの言う通りだな。初代魔王まで相手にしてる余裕はない。冥界の惨状はハーディアのせいなんだろ? だったら、現世に戻ってハーディアを殺せば、冥界だって元に戻るはずだ」


 渋々と言った様子だが、ルシフィナはゆっくりと頷いた。

 確かに、冥界の惨状に思うところがないわけではない。

 だが、オルテギア以上と目されている相手とやり合った後に、ハーディアとまともに戦えるとも思えない。

 中途半端なことをしてすべてを仕損じるよりも、冥界から出ることだけを考えた方が良い。


 そもそも、俺はハーディアに復讐をするために、現世に戻ろうとしているのだから。


「近付かなければ良いんだろ? だったら、西か東か、どちらかに迂回して進むしかないな」


「問題はどっちに行くかだが――魔王ついでに、今冥界で幅を利かせてる奴のことも説明してやる」


 まず、目的地である北側。

 ここには、過去にこちらにやってきた元魔王が根を張っているらしい。

 名をメギナ・ヴァン・ディアドレッド。

 

「……また魔王か」


「随分と前の魔王ですね。魔王軍を私物化して、好きに暴れ回っていて、最終的に反乱が起きたと、前に本で読んだことがあります。確か、『悪逆女帝』だなんて呼ばれていたそうです」


「俺も直接見たわけじゃねェが、こっちに来た連中を召使いにして、悠々自適に暮らしてるって話だ。ハーディアが門から出ていく時に、近くにいやがった。恐らく、今頃門番の真似事でもしてるだろうぜ」


 次に東側。

 

「こっちには、お前らも名前が知ってる奴がいるぜ」


 東側で暴れ回り、力づくで何人もの部下を従えている魔族がいる。

 そいつの名前を聞いて、嫌な過去を思い出した。


「――“裁断”アルファルド・レゲンデーア。東はあの戦闘狂のクズ野郎が縄張りにしてやがる」


 三十年前に、俺が倒した四天王。

 弱者は強者に何をされても文句は言えない――そんな価値観の下、人間や亜人種、果てには魔族すら甚振っていた奴だ。

 最終的に、俺とあいつの一騎打ちで戦い、勝負は決した。

 負けたというのに、満足げに死んでいったアイツのことは、嫌な思い出として残っている。

 

 それに、“裁断”は確か。

 リューザスの住んでいた村を襲ったんだったな。


「…………」


 ルシフィナが、痛ましげな表情でリューザスに視線を送る。

 裁断のことを口にしたリューザスの表情に、これと言って変化はない。

 

「ジロジロ見てんじゃねェよ、気持ち悪ィ」


 吐き捨てるように言うと、何事もなかったかのようにリューザスは話を続けた。


「で、西側だ。こっちには森が広がってるが、北や東のように徒党を組んでる奴はいねェ。ただ、森の奥に“金剛”って野郎がいやがる。初代魔王と同じで、近付かなければ襲ってこねェらしいが、森に踏み入った奴の大半は“金剛”に殺されてるみてェだぜ」


「結局、どっちに進んでも敵はいるわけだ。だったら、一度倒したことがある“裁断”の方を選ぶべきだな。あいつの戦法も、使う技も知ってる」


「……いえ。そういうことでしたら、東側は最も避けるべきです」


「そォだな」


 だが、ルシフィナとリューザスは同時に首を横に振った。


「どうしてだ? 敵の情報が多い方を選ぶべきだろ。それとも、“金剛”ってのはそんなにやばい奴なのか?」


「はッ。だからてめェは甘いってんだよ、アマツ。自分が置かれてる状況を良く考えやがれ」


「……俺が置かれてる状況だと?」


「そもそも、ここにてめェがいること自体がおかしいだろうが。冥界は死んだ人間しか来られねェ場所だ。生身の人間が来たら、即座に魂を溶かされて消滅するのが普通だ」


「何故、俺が死んでもいないのに冥界にいられるか……」


 そこで、ようやく考えが及んだ。

 そういえば、リューザスはかつて冥界に存在を一瞬だけズラす魔術を使用し、そのたびに大きなダメージを負っていた。

 俺が、そうならない理由――。


「……『勇者の証』か」


「恐らく、そうでしょうね」


 ここへ来てすぐに、『勇者の証』から漏れた光が俺の体を包んでいる。

 あれは冥界の空気から、俺を守るためのバリアのようなものだったと言うわけか。

 手の甲にある紋章に視線を落として、以前より色が薄れていることに気付く。


 これは、つまり。


「見た限りじゃ、前より『勇者の証』の力が失せてやがる。てめェを守るために、かなり力を消耗してんだろォな。その調子ならあと数日は大丈夫だろォが、それ以上の保証はねェ。そんな状態で何度も戦ってみろ。あっという間に力を使い切って、てめェはお陀仏だ」


「そうならないために、出来る限り伊織さんの負担を減らすべきです。そのためにも、東側だけは避けて通るべきです」


 理解した。

 俺が力をセーブしなければならないというのなら、東側は選ぶべきじゃない。

 ルシフィナとリューザス、この二人が揃って戦える戦場を選ぶべきだ。

 

 “裁断”アルファルド・レゲンデーアは、最終的に俺が殺した。

 正確に言えば、俺じゃなければあいつを殺すことはできなかった。


『“裁断”の野郎は俺がぶっ殺す。誰にも譲らねェぞ』


 そういったリューザスが、最終的に“裁断”への止めを俺に譲ったのは、


「――俺じゃァ、絶対に“裁断”に勝てねェからな」


 ことあの魔族との戦いにおいて、リューザスはほとんど役に立たないと言っても良い。

 それならば、情報が少なくとも、三人で戦える方を選ぶべきだ。


「決まりだな。中央を迂回して、西側を進む。運が良けりゃァ、“金剛”とかいう野郎とも戦わなくて済むだろうしな」


「分かった。そうしよう。それで、ルシフィナ、リューザス。今、二人はどれくらい戦えるんだ? こっちに来て、何か変わったことはないか?」


 ルシフィナの外見に、変化はない。

 服装も、最後に見た時のものだ。

 ただ、携えているのは普通の剣で、『天理剣』ではない。


「私は、特に変わったところはありません。『天理剣』はありませんが、それでも以前と同じように戦えます。剣も、リューザスさんに魔術で作ってもらいましたしね」


 そう言ってルシフィナが撫でるのは、簡素な一本の大剣だ。

『天理剣』のような特殊な能力はなさそうだが、込められている魔力は多い。

 ルシフィナの腕力に耐えられるだけの強度はありそうだ。


「てめェにどうこう言われるようなことはねェよ」


 憎まれ口を叩くリューザスの外見には、ルシフィナと違って変化がある。

 それは、三十年前の姿――若い頃の外見をしているということだ。


「若いままだが、あの心象魔術でも使ってんのか?」


「使っちゃいねェよ。そもそも、こっちに来てからあの心象魔術は使えなくなってやがる。まァ、今の俺ならアレを使う必要もねェがな」


 見たところ、肉体的な衰えもなさそうだ。

 どういう理屈なんだろうな。


「恐らくですが、ここではその人の『魂』が思い描いている姿になっているみたいですね」


「あァ、得心がいったぜ。お前の外見が変わってねェのは、ずっと自分が若いままだと思い込んでるからか」


「なっ!? ち、違いますー! そもそも私はハーフエルフだから、若い頃が他の人より長いだけです! 若作りとかしてませんからね、伊織さん!」


「あ、ああ」


 ともあれ、二人とも以前と同様に戦えそうだ。

 武器の差はあるが、それでもルシフィナは魔術剣士として一流だ。

 リューザスの方は、癪だが全盛期の力を取り戻しているらしい。

 戦力としては、問題なさそうだな。


「伊織さんの方は、どうですか?」


 そこで、ルシフィナが不安そうな表情で尋ねてきた。


「俺は問題ない。オルテギアとの戦いの後だから、多少弱ってはいるが、体に変化はないよ」


「いえ、そちらではなく……三十年前と比べて、です」


 三十年前と、比べて……か。


「以前の伊織さんは、何もせずに『勇者の証』から力を引き出せていたはずです。ですが、今は心象魔術を使わなければ、かつての力を使えないんですよね……?」


 何故、以前のように力を使えないのか。

 それは、王国に戻ってきてから、ずっと考えていたことだ。

 一度死んだことによって、魔力的な問題が発生している――そう思って、これまで迷宮核を集め、魔力を取り戻そうとしていた。

 しかし、結局いくつ迷宮核を使っても、以前の力が戻ってくることはなかった。


「……『勇者の証』の方に、異常はねェよ」


 それまで黙って話を聞いていたリューザスが、俺の腕に視線を落としながら呟いた。


「問題があるのは、恐らくてめェの方だ、アマツ。てめェは、『勇者の証』と上手くパスを繋げられてねェ。今のてめェと、以前のてめェを、『勇者の証』の方が別人だと判断してんだろうよ」


「別人――」


 身体的に、大きな変化はなかった。

 戦いの中でついた筋肉が落ち、灰色になっていた髪が元の色に戻った程度だ。

 肉体的な変化ではないとするならば、


「内面の変化が原因、だろうな」


 大きな変化があったのは、そこくらいだ。

 多くの人を救うために戦っていた頃の俺と、復讐のためだけに戦う今の俺。

 確かに、“アマツ”と“天月伊織”には明確な違いがある。


「てめェの心象魔術は、以前の自分に戻って、『勇者の証』と強引にパスを繋ぎ合わせてるだけだ。その分魔力の消費は早ェし、使える力にもムラがあるみてェだけどな」

 

「それは、つまり――」


「あァ。こいつが大きく心変わりして元に戻らねェ限り、『勇者の証』と完璧にパスを繋ぐことはできねェだろうな」


 そういう、ことか。

 心象魔術を使うたびに見える、かつての俺の後ろ姿。

 英雄を再現する、この魔術の正体はそういうことか。


 今のままでは、以前の力を完全に再現することはできない。

 だが、だとしても。


「――以前の俺に戻るつもりはねぇよ」


 俺の言葉に、ルシフィナは悲しげに目を伏せ。

 リューザスは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。



 話が終わる頃には日が落ち、辺りは夜闇に包まれていた。


 リューザスは今から移動することを提案したが、それはルシフィナが強く止めた。 

 俺のことを慮ってくれてのことだ。

 確かに、魔王城から連戦続きで、体も精神も疲弊しきっている。

 

 結局、夜が開けるまではその場で休息を取ることとなった。


「夜が明けたら、すぐに出るぞ」


 舌打ちとともに、リューザスは魔術で毛布を創り出した。

 ぶっきらぼうにそれをルシフィナに放り投げると、そのまま木にもたれかかり、険しい表情のまま瞼を閉じた。

 その様子を見て、ルシフィナが苦笑する。


「一枚しかくれませんでした。もう、子どもみたいな嫌がらせをして……」


「大して冷えるわけでもないし、ルシフィナが使ってくれ」


 リューザスに毛布を施されるのも、癪だからな。

 適当な木を見繕って、そこに背を預ける。

 横にならなければ寝れなかったのが、随分と前のことのようだ。

 旅を経て、立ったままでもある程度は眠れるようになった。


「そういうわけにはいきません。伊織さんの方が、疲れてるでしょう?」


「眠れさえすれば大丈夫だよ」


「伊織さんも強情ですね……だったら」


 ムッとした表情を浮かべると、ルシフィナは俺のすぐ横に腰掛けた。

 毛布を横にし、自分と俺の膝にかけて「これなら良いですよね?」と強気に笑いかけてくる。

 これ以上厚意を無下にする理由もなく、仕方なく頷いておいた。


「…………」


 横並びになって、しかし俺達の間に会話はなかった。

 吹いている風が時折、ガサガサと葉を揺らす音だけが聞こえてくる。


 正直に言って、俺はどうルシフィナに声をかければ良いのか分からなかった。

 あんな別れ方をして、ルシフィナはここにいる。

 それに、隣に座っているのが、見慣れた銀髪の元魔王でないことにも違和感がある。


 後悔と、喪失感と、憎悪がごちゃまぜになって、どうにかなりそうだ。

 戦いの後の疲労感があるのに、目だけが冴えている。

 いっそ、このまま寝入ってしまえたら楽だろうに。


「伊織さん」


 沈黙を破ったのは、囁くような優しい声音だった。

 

「大丈夫ですか?」


 隣を見れば、不安に揺れた銀色の瞳が俺を見つめていた。

 少しばかりの間、抽象的なその問いにどう答えたら良いのか悩んで、

 

「……分からない」


 口をついて出たのは、そんな曖昧な言葉だった。


「……現世でのことは、断片的にですが視ていました。ですが、もし……もし、良かったら、伊織さんの口から、何があったのか聞かせてもらえませんか?」


「……ああ」


 ルシフィナと別れた後のことを、話した。

 エルフィのこと、ベルディアのこと、そして、アイドラーのことを。

 淡々と事実だけを話すつもりだった。


 なのに、


「――また、庇われた」


 気付けば、そんなことを口走っていた。


「エルフィに、庇われた。アイドラーを、ハーディアを仲間に引き入れたのは俺なんだ。また、俺は失敗した。そのツケを支払うのは、俺であるべきだったのに」


「……彼女は、私との約束を守ってくださったんですね」


「約束……? ああ……」


 ――伊織さんを、どうかよろしくお願いします。


 虚空迷宮で、ルシフィナはエルフィにそんなことを言っていたんだったか。

 

「……庇われてばっかだ。ルシフィナにも、エルフィにも助けられて」


「伊織さんにとって、それは辛いことでしたか?」


「……っ」


 喉がつっかえたように、言葉が止まった。

 本人を目の前にして、それを肯定するのはあまりにも無神経ではないか。


「――私は幸せでしたよ」


 そんな俺に、ルシフィナは慈しむように微笑んだ。


「伊織さんがいれば大丈夫だって、信じていましたから。きっと次に繋げられるって、信じていましたから」


 俺が、いれば?

 そんな訳、ないだろ。

 一体、俺に何ができるっていうんだ。


 最弱の勇者だなんて蔑まれて、結局はハーディアの思い通りに手のひらで踊らされていただけだ。


 こっちに来てから、失ってばかりだった。

 これからもそうでないなんて、思えるわけがない。


「――伊織さんは、私を救ってくれました」


 そんな俺の考えを見透かすように。

 ルシフィナは、俺の頬を両手で包み込んで、言った。


「伊織さんは私の英雄なんです。脆くて、傷付きやすくて、純粋で、何度も躓いて――それでも立ち上がって、みんなのために頑張ってくれる、優しい英雄なんです」


「――――」


「きっと、貴方に助けられた皆にとっても、そうです。エルフィスザークさんにとっても、そうだったと思います」


「――――」


 それに、と。

 ルシフィナは頬を赤らめながら、


「好きな人のため、なんですから。私はあの死に方に後悔なんてありません。きっと、エルフィスザークさんも同じだったと思います」


 ――愛しているぞ、伊織。


「だから、伊織さんには悲しむよりも、前に進んで欲しい――きっとエルフィスザークさんは、そして私も、そう思っています」


 俺なら、次に繋げられると信じている――とルシフィナは言った。

 そう言って、ルシフィナが繋げてくれた。

 

 エルフィは、俺に生きろと言った。

 そう言って、俺を逃がそうとしてくれた。


 二人がいてくれたから、俺は今ここにいる。


 ハーディアは『予定が狂った』と言っていた。

 俺を門に取り込むつもりだったと。

 それができなかったから、俺を冥界に落としたのだ。


 門に取り込まれていれば、そこで全てが終わっていたはずだ。


 俺は最弱の勇者だ。

 ルシフィナの言う通り、躓いてばかりだ。


「……ありがとう、ルシフィナ」

 

 それでも。

 俺は、信じられている。


「――大丈夫ですか?」


「――ああ・・


 ルシフィナの問いに、頷く。

 ウジウジ考えるのは俺の性分だが――今は前に進むことだけを考えよう。


「久しぶり、ルシフィナ」


 ようやく、ルシフィナの目を見て、言えた。

 

「――はいっ」


 満面の笑みを浮かべて、ルシフィナは頷いた。



 



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