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第七話 『天風蹂躙』


 戦いが始まった。

 敵は、十五人の魔族と、風魔将。

 最初に動いたのは、エルフィだった。


「魔眼・重圧潰」


 風魔将と魔族、全員の頭上から重力を叩き付ける。

 それを予見していたのか、魔族達は素早く回避した。

 風魔将は纏っている風を頭上に飛ばし、重力を防ぎきった。


「エルフィスザークは魔眼を使う! 視界に入るな! そして勇者は魔術を消す魔術を使う! 結界を過信するな!!」


 空での戦いも、しっかり見られていたらしい。

 魔族達は室内を飛び回り、エルフィの魔眼を警戒している。


『オォォォォォォォォ!!』


 咆哮とともに、風魔将がブレスを撃ってきた。

 その場から飛び退き、ブレスを回避する。

 飛び退いた先に、魔族が襲い掛かってきた。


「――シィィィ!!」 


 鋭く息を吐きながら、頭上から鳥型の魔族が鉤爪を振り下ろしてくる。

 バックステップで回避。

 そこへ、さらに別の魔族が待ち構えていた。

 腕を六本持つ魔族で、すべての腕に大剣を握っている。


「ヌンッ!!」

魔撃反射インパクト・ミラー


 六本の腕から繰り出される攻撃を、翡翠の太刀で受け止める。

 同時に、その威力を倍にして返した。


「がぶッ」

「!?」


 小さく息を吐き、六本腕が吹き飛ぶ。

 その先には、さっきの鳥型の魔族がいる。

 両者は激突し、錐揉み状態になりながら落ちてきた。

 そこを狙おうとするが、二人を守るように炎の球が飛んできた。

 剣で両断する。


「人の身と油断するな。エルフィスザークとともに、四つの迷宮を陥落させた男だ」


 気付けば、俺の周りには八人の魔族がいた。

 残りの七人と、風魔将はエルフィと戦っている。

 俺達を分断し、各個撃破するつもりのようだ。


 エルフィに視線を送ると、問題ないと頷いた。

 あちらは大丈夫だろう。


「全力で叩き潰し、早々にシルフェルド様に加勢するぞ」


 ジリジリと、間合いを詰めてくる魔族達。

 今の戦闘で、改めて実感した。

 こいつらは強い。

 グレイシアのところで戦った魔族達とはレベルが違う。

 一人一人が、歴戦の戦士だ。

 指示を出しているリーダー格の魔族は、準四天王クラスはありそうだ。


 なるほど。

 エルフィを風魔将で抑え、俺を魔族のリーダー格で倒すつもりのようだ。


「出し惜しみする余裕は、ないか」


 生身のままでは、こいつらを無傷では倒せない。

 やれて、五人だ。

 これが『あいつ』の狙いだと理解しながらも、乗るしかない。


「――【英雄再現ザ・レイズ】」


 本気で戦おうか。


「――――!?」


 一秒後、俺は魔族達に斬り掛かっていた。

 横薙ぎの一閃。

 三人の魔族の胴体が、横にズレた。

 残りの魔族は、咄嗟に反応して躱していた。

 やはり、強い。


「シラード、バンス!! 動きを止めろ! 残りは陣形を組み直せ!」

「「“氷結結界フリージング”」」


 俺を氷の結界が覆っていく。

 その隙に、魔族達が体勢を整え、大きな魔術を使おうとしているのが分かった。

 

「“獄炎ゲヘナ”」


 右手に蒼い炎を生み出し、氷結結界を無効化する。

 そして、左手で“魔技簒奪スペル・ディバウア”を使い、他の魔族の魔力を奪った。


「同時行使だと!?」

「返すぞ。“氷結結界フリージング”」


 奪った魔力を使い、陣形を組んだ魔族達を凍り付かせる。

 そして即座に、シラードとバンスと呼ばれた魔族に斬撃を飛ばした。

 二人の首が飛ぶ。

 念の為、落ちた首と胴体を炎で焼く。


 残り、三人。


「“炎熱領域バーニング・プレイス”!」


 リーダ格の魔族が“氷結結界”を魔術で解かす。

 それと同時に、六本腕の魔族が斬り掛かってきた。

 

「ウオオオオオッ!!」

「第六鬼剣・崩刃」


 翡翠の太刀で反撃し、衝撃で六本すべての大剣を破壊する。


「オ、オオオオ!!」


 無手になった魔族は、それでも六本の腕を振り上げた。

 見事だ。

 そう想いながら、返す刃で胴体を両断する。


「シャアアアアアア!!」


 背後から、最初に襲ってきた鳥型の魔族が襲い掛かってきた。

 躱し、振り上げた腕を掴んで、リーダー格が撃ってきていた魔術にぶつける。

 

「第二鬼剣・乖裂」


 そしてそのまま、巨大な斬撃を放った。

 斬撃は鳥型の魔族を両断し、奥にいるリーダー格に向かう。


「う、ぐっ」


 リーダー格は、死ななかった。

 魔術と剣技を同時に使い、乖裂を防いだのだ。

 だが、リーダー格は口から血を吐いて、膝を着いた。


「見誤っていた……! こちらに、援軍を……ッ」


 苦しげな表情で、リーダー格が風魔将の方へ向く。

 そして、目を見開いた。


「――悪いが、向かわせる援軍はもういないぞ」

「な……っ」


 エルフィと戦っていた七人の魔族は、残り二人になっていた。

 その二人も、全身に傷を負い、満身創痍だ。


『オ、オオォォォ……!』


 そして、風魔将も大きな傷を負っていた。

 魔眼を直接喰らったのか、頭部に生えていた角は無残にへし折れ、右腕もなくなっている。


「シルフェルド様ッ!! 次の一撃で、勝負を付けましょう……!」


 残った二人の魔族が、全身から魔力を噴出した。

 そして、お互いの魔力をあわせて、一つの魔術を作っていく。

 同時に、風魔将が口腔に魔力を集中させた。


「「――“喪失魔術ロスト・マジック苦滅雷槍くめつらいそう”」」


 行使の代償なのか、二人の魔族の体も凄まじい雷が走る。

 苦悶の表情を浮かべながらも、二人は魔術を放った。

 エルフィに向かっていくのは、巨大な雷の槍だ。


『ガアアアァァァァァ――ッ!!』

 

 そして、それに合わせて風魔将がブレスを放った。

 そのブレスは、巨大な竜巻のような形を取り、槍と同時にエルフィに迫っていく。


「見事だ」


 短く、エルフィが呟く。

 そして、魔力を集中させていた紅蓮の双眸を見開いた。


「――“魔眼・灰燼爆”」


 紅蓮が、すべてを焼き尽くした。

 雷の槍も、竜巻も、二人の魔族も、灰燼爆に跡形もなく消し飛ばされる。

 風魔将も、魔眼の直撃を受けて全身を焼き焦がし、ズダンと地面に落ちた。

 しばらく痙攣した後、それっきり動かなくなる。


 残ったのは、リーダー格の魔族だけだった。


「ば……馬鹿な。こうも……容易く」

「容易くはなかった。私達をここまで足止めしたことを誇るが良い」

「……ッ」


 リーダー格が立ち上がり、剣を取る。

 死を覚悟した表情で、リーダー格は俺に突っ込んできた。

 それに応えようと、翡翠の太刀を構えた瞬間だった。


「――――ッ」


 足場が消滅した・・・・・・・

 内臓が浮く感覚とともに、俺達は再び落下していく。

 魔族や、風魔将の死体もだ。


「な、ぜ……」


 驚愕の表情を浮かべ、リーダー格も落ちていく。

 予想外だったようだ。

 ならば、これをやったのは――――。


「エル――」


 声を掛けようとした直後だ。

 俺の下を落ちていた風魔将の腹が、大きく膨張した。


「!?」


 ブチブチと腹部を突き破って、中から無数の触手が伸びてきた。

 何だ、こいつは……?

 触手が、俺の体に纏わり付いてくる。

 このまま、俺を道連れにする気か。

 触手を引きちぎろうと、体に魔力を流した時だった。


 ゾワリ、と全身に悪寒が走る。

 同時に、エルフィが叫んだ。


「上だ、伊織――ッ!!」


 ドーム状の天井に、視線を向けるとの同時だった。



「――“天突く明星の剣リンカーネイト・メルトシュトロム”」



 頭上のドームをぶち破って、光が落ちてきた。

 いっそ、神々しさを覚えるほどの禍々しい光。

 リューザスの使っていた“落星無窮”すら遥かに凌駕する、魔力の塊。

 それが、俺の真上から降ってきた。


「“魔毀封殺イル・アタラクシア”ァァ――ッ!!」


 頭上に盾を生み出し、防御する。

 だが、瞬く間に盾が崩壊していく。

 魔力を流し、壊れていく盾を再構築する。

 同時に、“魔毀封殺”を連続で発動し、三重の盾を創り出した。

 また、“魔技簒奪スペル・ディバウア”で、光の魔力を奪い取る。


 ――が、


「駄目か……!」


 盾が軋み、崩壊していく。

 何て威力だ。

 心象魔術を使っていたとしても、これを喰らえば間違いなく即死だ。

 それほどの、威力があった。


 ――だが、時間は稼いだ。


「――“魔腕・引力掌いんりょくしょう”」


 直後、ブワリと体が斜め上に引き寄せられる。

 エルフィの魔腕の一つだ。

 エルフィは、崩壊してすぐに壁に腕を突き刺し、落下を防いでいた。

 触手を強引に引き千切り、エルフィの方へ移動する。

 同時に盾が崩壊し、風魔将の死体を消し飛ばしながら、光は下に落下していった。


「無事か、伊織」

「何とかな」


 エルフィの手を掴み、俺も壁にぶら下がる。


「ここにいても埒が明かない。あそこから、奥の部屋に進もう」


 部屋の最奥にあった入り口を指差す。


「……分かった。だが、確実に罠だぞ」

「この不安定な体勢のまま、あの光をもう一回撃たれたら確実に落ちるしかない。分かっていても進むしかないさ」

「……そうだな」


 そう言った直後、エルフィの両目から眩い光が放たれた。

 魔眼・遮断光。

 この光は、物理的にも、魔術的にも、俺達の存在を隠す効果がある。

 エルフィが新しく取り戻した魔眼の一つだ。

 光に紛れて、俺達は奥の部屋へと進んだ。



 進んだ先にあったのは、先ほどよりもさらに広い空間だった。

 外から城を見た感じ、最上階にここまでのスペースはなかったはずだ。

 魔術で、空間を歪めているのかもしれない。


 部屋の中に、足を踏み入れた瞬間。

 入ってきた通路が、結界によって封鎖された。

 いや……この部屋全体が、強力な結界によって覆われている。

 退路を塞いだようだ。

 

 さらに、足元が輝いたかと思うと、全身が重くなった。

 こちらの力を削ぐ結界が張られているらしい。


「……む」


 エルフィの足元が、一際輝いている。

 対魔族用の結界のようだ。


「――ようこそ、虚空迷宮の最深部へ」


 コツン、コツン、と足音を響かせながら、一人の女が姿を現す。


 それは、金髪のハーフエルフだった。

 癖の強い金髪を紐で括り、ポニーテールにしている。

 身に纏っているのは、前に着ていたドレスではなく、純白の鎧だった。

 腕には、紫色の大剣が握られている。


「一撃で殺すつもりだったんですけど、中々上手くいかないモノですね。結構本気だったのに、嫌になっちゃいます」


 ――ルシフィナ・エミリオール。


 最後の復讐対象が、目の前に立っていた。

 胸の内から、憎悪が湧き上がってくる。

 同時に、吐き気も。


「でも、伊織さん」

「…………」


「――貴方だけは、今日、絶対にここでぶち殺しますから」

 

 裂けるような笑みを浮かべて、ルシフィナはそう言った。

 

 

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