第五話 『勝利への布石』
三十年前。
苦戦しながらも、亜人達と協力し、虚空迷宮を討伐した後のことだ。
戦いが終わった後、俺達は与えられた部屋で束の間の休息を取っていた。
「何とか無事、虚空迷宮を切り抜けることができました! お疲れ様です!」
様々な種類の酒とつまみ、料理が並んだテーブルの前で、ルシフィナが労いの言葉を口にする。
要するに、祝勝会だな。
ディオニスとリューザスは、
『ねぇ。こういうことする意味あるかなぁ?』
『同感だな。まだ迷宮は残ってんだ。ギャーギャー騒ぐ必要はねェだろ』
と祝勝会を否定していた。
だが、
『ふふ。……参加、しますよね?』
とルシフィナに笑顔で言われて、強引に参加させられていた。
「アマツさん。いつも料理ありがとうございます。大変だったでしょう?」
「いや、大丈夫だ。料理作るの好きだしさ」
テーブルに並んでいるのは、ほとんど俺が作った料理だ。
必要にかられて何度か料理している内に、段々と楽しくなってきた。
最近は結構上達してきている。
「……ふふ。何だか、私も料理したくなってきました。んと、薬草ってどこかにありましたっけ。エミリオール家特製の薬草炒め作っちゃいますよ!!」
「やめてくれ。頼むからやめてくれ。お願いします」
「えー……」
不満げな表情のルシフィナに頼み込み、どうにか料理をやめさせる。
青い顔をしたディオニスとリューザスが、ホッと胸を撫で下ろすのが見えた。
……ルシフィナの料理はやばい。
冗談抜きで、死人が出るレベルのが出てくるからな。
前に、食べたディオニスが死にかけてた。
「それにしても、感心するよアマツ。よく料理なんてする気になるよね。疲れるし、面倒じゃない?」
「いや。慣れれば結構楽だよ」
「ディオニスさんも料理しましょうよ。私も手伝いますから!」
ディオニスは顔を青くして、ブンブンと首を振る。
「ぼ、僕はほら。シャーレイが作ってくるから、自分でする必要ないんだよね。飯炊き女って便利だよね、はは」
確か、色黒の鬼族の女の子だったな。
傍から見て、シャーレイはディオニスに好意を持っている。
あれだけあからさまなのに、どうして気付かないんだか。
「……ディオニスは鈍感過ぎるよな」
「……はぁ」
ルシフィナに小声でそう言うと、溜息とともに呆れるような視線を俺に向けてきた。
うん?
何だ、その顔は?
「だから、僕は料理しなくても良いんだよ。それより、リューザスと一緒にすれば?」
ルシフィナの誘いを躱し、ディオニスはリューザスにボールを投げる。
「ああ。そういえば、リューザスさんは料理得意でしたよね」
そう。
意外なことに、リューザスは料理が得意だった。
なんでも、幼少期に必要に駆られて料理をしていた経験があるらしい。
俺が料理できるようになったのも、リューザスにあれこれ教えてもらったからだ。
『焼きが甘ェんだよ。いい加減な仕事すんじゃねェ、アマツゥ!!』
と、何度も怒鳴られたけどな……。
「断る。別に俺は趣味で料理をしてるわけじゃねェ」
「料理する時本気だもんな」
「当たり前だ。いい加減な料理なんて出したくねェ」
その言葉に、ディオニスがニヤリと笑みを浮かべる。
「ふぅん。ねぇ、何でそんなにプロ意識持っちゃってるわけ? 子供の頃に料理作ってたらしいけど、誰に作ってあげてたのかな?」
「…………」
「ほーら、皆さん。あんまり喋ってると、せっかくアマツさんが作ってくれた料理が冷めちゃいますよ」
ルシフィナの言葉で会話を打ち切り、料理に手を伸ばす。
リューザスは真っ先に酒に手を伸ばしていた。
この世界では十五歳から酒が飲めるため、この場にいる全員が呑むことができる。
しばらくは、虚空迷宮での戦いぶりや、お互いの問題点などを指摘しあっていたが、酔いが回り始めてからは、グチャグチャになった。
「おォい、ディオニス。てめェ、ちょびちょび呑んでんじゃねェよ」
「僕はあんまりお酒好きじゃないって言ったでしょ?」
「俺の酒が呑めねェってんのか、おいッ!!」
悪酔いしたリューザスが、ディオニスに絡み付く。
ディオニスは心底嫌そうな顔で逃げ出そうとするが、リューザスがそれを許さない。
「逃げんじゃねェ!」
「うっわ、酒臭! あのさぁ、リューザス! ちょ、放せよ!!」
「うるせェ、ふざけてんのか!? とっとと酒呑みやがれ、おらァ!!」
「おぶっ、ふざけてるのは君の方でしょ!? ていうか、魔術使って僕を固定するのやめてくれないかな!? ねぇ、二人とも、見てないで僕を助けてよ!!」
助けを求められるが、面倒だから放っておこう。
俺までリューザスに絡まれると、色々アレだからな。
「こら! リューザスさん! 無理に呑ませちゃ駄目えすよ!」
その時、それまで黙っていたルシフィナが口を開いた。
顔は真っ赤で、呂律も回っていない。
何故なら、ルシフィナは凄まじい勢いで酒を呑みまくっているからだ。
「うわ、こっちも酔っ払いじゃん! あのさ、前から思ってたんだけど、君達、酔うと変なことしだすの辞めた方が良いよ? 特にルシフィナ。君って女性じゃん。女性ってさ、いつでもどこでもお淑やかでいるべきだろ? それをそんな下品に顔を赤くしてさ。君は女性として不合格だね」
「うるさいです! 気持ち悪いこと言ってないで、貴方も呑みなさい!!」
そう言って、ルシフィナがディオニスの口に酒瓶を突っ込んだ。
「ごばッ!? ルシフィナ!? 気持ち悪いって、おぶっ。ちょ、やめろよ!!」
「そんなこと言っていると、貴方だけ冥界に行けませんよ!!」
「はぁぁ!? ふざけるなよ、僕は絶対に冥界に――」
「うるせえぞ、ディオニス!! 黙って呑んでやがれ!!」
「うるさいのは君でしょ!? 勝手なことばっかり言うんばぶッ」
酒を突っ込まれ、ディオニスが悶ている。
頑張れ、ディオニス。
俺はここから応援しているから。
ギャーギャーと騒ぐ三人をつまみに、俺は料理を食べながら、ゆっくりと酒を呑んだ。
それから、二時間後。
俺以外の全員が酔い潰れ、地面に転がっている。
いびきをかくリューザスと、白目を剥いたディオニスに毛布を被せる。
そして、ルシフィナにも毛布を掛けた時だった。
「……楽しいですね」
寝転がったまま、ルシフィナはそう呟いた。
「私……これまでずっと、騎士として生きてきました。だからこんな風に、騒いだことがなかったんです」
「……そうなのか」
「はい。だから、ちょっとはしゃぎすぎてしまって。迷惑でしたか?」
「いいや。俺も、楽しかった」
ふっと、ルシフィナが微笑む。
その顔を見て、胸の鼓動が高まった気がした。
「…………」
乱れたルシフィナの髪に手を伸ばし、手で梳いて整える。
「ん……」
ルシフィナは、くすぐったそうに声を出した。
「なぁ、ルシフィナ」
「何ですか?」
「……本当は俺、アマツって名前じゃないんだ」
ルシフィナは驚いた素振りを見せず、小さく頷いた。
「本当の名前は、何て言うんですか?」
「……伊織。天月伊織だ」
「伊織さん。……ふふ、良い名前ですね」
「だから、さ」
この時はきっと。
俺の顔は真っ赤だったと思う。
「二人きりの時は、伊織って呼んでくれないか……?」
「――――」
驚いた表情の、ルシフィナ。
それからすぐに優しく笑みを浮かべ、
「――喜んで。伊織さん」
そう言った。
小さくあくびを浮かべ、ルシフィナが俺の手を撫でる。
「ね、伊織さん」
後に、俺の理想を嘲笑い、踏み躙った女は。
「こんな風に皆が笑い続けられるように、頑張りましょうね」
頬を赤く染めながら、そう言った。
◆
――目が覚めた。
「……っ」
吐きそうな気分だった。
気持ち悪い。
深呼吸して、気分の悪さを何とか抑える。
アイドラーと会話した後、俺は部屋に帰ってきた。
ベッドに入って、あれこれ考えている内に眠っていたようだ。
と言っても、三時間も眠れていないみたいだが。
「う……うぐぅ」
「……あぶっ」
エルフィとベルディアが、苦しそうな声を出している。
見れば、布団からはみ出て、お互いに蹴り合っていた。
どんな寝相してるんだ、こいつらは。
二人の様子に苦笑いしていると、部屋に誰かが近付いてくる気配を感じた。
しばらくして、コンコンと扉をノックされる。
出てみると、トヴォが立っていた。
朝の挨拶を交わし、要件を聞く。
「区長が呼んでいる。朝食も踏まえて、三人と話がしたいそうだ」
「分かった。二人もすぐに起こす」
「そう慌てなくても良い。外にいるから、準備が出来たら出てきてくれ」
そう言って、トヴォは外へ出ていった。
「……ん。おはよ、伊織」
今の会話を聞いたのか、ベルディアがムクリと体を起こした。
長い黒髪が寝癖で酷いことになっている。
「エルフィはまだ起きないのか」
エルフィは、幸せそうな顔で眠りこけている。
そんなエルフィを見て、ベルディアがふっと笑みを浮かべた。
「……ご主人様がこんなにぐっすり寝てるのは、珍しい」
「そうなのか?」
「……うん。魔王の時はずっと気を張ってて、小さな物音でもすぐ起きてた。だから、こんなに気持ち良さそうに寝てるのは、伊織に凄く気を許しているから、だよ」
「…………。聞いたと思うが、セプルに呼ばれてる。支度してくれ」
「……照れてる?」
ベルディアを無視して、眠っているエルフィに近付く。
ちょうど良い。
起こすついでに、これを試してみよう。
ゆっくりとエルフィの頭に手を置き、そして頭に魔力を流した。
「ぴゃ、ひゃ!?」
直後、エルフィが奇妙な声とともに飛び起きる。
「なに!? 何だ!? どうした!? 敵か!?」
「おはよう、エルフィ」
「む、あ、うん……? おはよう……?」
気を動転させていたエルフィだが、俺の仕業だと気付いたらしい。
大きく深呼吸して、睨み付けてくる。
「どうだった、今の。目が覚めたか?」
「覚めた!! めちゃくちゃ覚めた!! この起こし方はいくらなんでも酷いのではないか!?」
「悪い、悪い。洗脳魔術の応用方法を思い付いたから、ちょっと試してみたくてな」
「それにしたって……! もう……! 馬鹿者!!」
プンプンと怒るエルフィを何とか宥め、部屋を出られたのは、それから三十分以上も後のことだった。
◆
トヴォの案内で、セプルの下へ向かう。
途中、大勢の人犬種とすれ違った。
警戒している者も中にはいたが、多くは俺達に好奇心を向けてきているようだ。
外国人に視線が行ってしまうようなものだろうか。
大きな建物の前で、昨日と同じように入念にボディチェックされる。
それから、セプルのいる部屋に案内された。
部屋には、セプルとクゥがいた。
「おはよー!」
「おはようございます」
入ってすぐに、二人が挨拶してきた。
結構前から待っていたようで、申し訳ないな……。
「昨晩は良く眠れましたか?」
「はい。エルフィなんてぐっすり眠りすぎて、起こすのに苦労しました」
「ふふ、そうなんですか」
「……むう」
そんなやり取りをしていると、部屋に朝食が運ばれてきた。
果物や肉のスープ、丸ごと焼いた魚などだ。
不機嫌そうにしていたエルフィが、目を輝かせている。
朝食を食べながら、セプルと真面目な話をする。
「虚空迷宮に関しての情報は、昨日の内に一通り集めておきました。朝食の後にお渡しします」
「お手数をおかけして、すみません。ありがとうございます」
これで、当初の目標は達成できた。
とはいえ、セプルの口ぶりからすると、内部の詳しい情報は期待できなさそうだ。
五将迷宮の中で、一番行きにくいのが虚空迷宮だからな。
この迷宮を考えた奴は、随分と良い性格をしている。
「伊織さん達は、この後どこかに行かれるご予定はありますか?」
「そうですね……。当初の目的は果たせましたので、一度、大森林から出ようと思っています。ですが……」
「えー!? もう行っちゃうの!?」
俺の言葉を遮って、クゥが悲しそうな声を上げた。
耳をフニャッとさせながら見てくる様子は、捨て犬を連想させる。
「こら、クゥ。伊織さんの話を遮らない。邪魔しないって約束したでしょ」
「うー」
セプルに叱られ、シュンとするクゥ。
俺から視線を外して、エルフィを見た。
「じゃあ、こっちの人と話してるよ」
「ん。何だ、犬娘」
ガツガツと果物を頬張っていたエルフィが首を傾げる。
「ねえね、エルフィさんは伊織さんとどんな関係なの?」
「切っても切れぬ、一蓮托生の相棒だな」
何故かドヤ顔で、エルフィがそう答えた。
「わー、相棒さん! じゃあ、番じゃないの?」
「つが……。そ、そうだな。そういう関係では……ないな」
「そっかー! じゃあ、相棒さんはどこの人なの?」
「さすらいの旅人だから、決まった故郷はないな」
「へえ! だからなのかな。何か、相棒さん変な臭いがする!」
「変っ!?」
「何か魔族みたいな感じで、ちょっと臭い!」
「臭いっ!?」
ギャーギャーと騒ぐエルフィとクゥを見て、セプルと同時に溜息を吐く。
真面目な話は、食事の後ということになった。
◆
食後、セプルから虚空迷宮の情報を受け取った。
まず、虚空迷宮は大森林の上空に浮遊している。
魔術を撃っても、届かないほどの高度にあるようだ。
普段は何重もの結界に覆われており、その姿を目にすることはできない。
大森林の戦士が、何度か迷宮に乗り込もうとしたが、尽く失敗している。
原因は、周囲をうろつく魔物と、迷宮を覆う結界や探知魔術だ。
迷宮に近付こうとすると、必ず探知魔術に引っ掛かる。
その瞬間、凄まじい数の魔物が襲い掛かってくるようだ。
迷宮から生まれた魔物が、周囲を警備しているからだろう。
だが、大森林の戦士は強い。
大量の魔物を突破して、迷宮のすぐ近くまで行けた者も少なくない。
そんな戦士を阻むのが、迷宮を覆う結界だ。
上級魔術を撃っても小揺るぎもしないほどの、強力な結界が戦士を止めてしまう。
突破しようと苦戦していると、あっという間に魔物に囲まれてしまい、地上に叩き落される。
よって、未だ誰も迷宮に入ることが出来ていないようだ。
この結界が消えるのは、虚空迷宮が大森林に攻撃を仕掛ける時だけ。
大森林に向かって、魔物を落とすために結界を短時間だけ消すようだ。
このタイミングで乗り込もうとした戦士もいるようだが、迷宮から出てきた“風魔将”に阻まれてしまったらしい。
ここの魔将は働き者のようだな。
戦士達は諦めずに迷宮を狙い続けたが、迷宮は滅多に攻撃してこない。
そんなことを続けて十数年。
他国が現在の均衡を崩さないようにと、迷宮への不干渉を決め込んでいき、最後には大森林もそれに倣ったようだ。
しかし、最近になって急に虚空迷宮が動き出した。
大量の魔物を大森林に落としてきたらしい。
幸い、魔物はすべて倒されたが、怪我人や行方不明者も出てしまっている。
トヴォ達がピリピリしていたのは、これが原因か。
「降ってきた魔物は強かったのですか?」
資料から目を離し、セプルに尋ねてみる。
「そうですね。龍種のような強い個体も多くいました。ですが、普段なら対処できる程度の量でした」
「そうなんですか?」
「はい。ちょうど、大森林を代表する戦士達が、所用で森にいませんでした。だから、いつもより戦力が低下していたんです……。言い訳みたいで、恥ずかしいのですが」
それから、襲撃してきた魔物の種類を教えてもらう。
もらった資料と、セプルの話を総合して、大体何の魔物が出るのかは把握できた。
やはり、三十年前と少し種類が変わっているな。
全体的に質が高くなり、数も増えたようだ。
すべてメモに書き留め、頭の中で対処法を纏めていく。
大体の計画が出来上がったところで、ふと気になったことを聞いてみた。
「そういえば、以前の区長はズィーベンさんだったとお聞きしました。ズィーベンさんは今どちらに?」
ズィーベン・レイメル。
セプルとクゥの父親で、三十年前は区長をやっていた。
前に来た時は色々良くしてもらった記憶がある。
「父は四年前に、病で亡くなりました」
「……そう、ですか。すいません、変なことを聞いてしまって」
「いえ。父は安らかに眠りに付きましたから。大往生だったんですよ?」
セプルの表情は明るい。
俺をフォローして、嘘を吐いているわけではなさそうだ。
……そうか。
なら、良かった。
「ただ、アマツさんに恩を返せなかったのが、心残りと言っていました」
「…………」
セプルの顔を見れず、思わず目を逸らしてしまう。
「少し前に、王国が妙な動きをしていたと聞きました。国内外から、秘密裏に大量の魔石を集めていたと。それからしばらくして、奈落迷宮が討伐されました」
「…………」
「次に煉獄迷宮。次に死沼迷宮。次に忌光迷宮。そして……残ったのは虚空迷宮です」
セプルが、真っ直ぐに俺を見つめてくる。
「……やっぱり、お兄さんは、また私達の世界のために戦ってくれているんじゃないですか?」
「……違うよ、セプル」
「お兄さん……」
「昨日も、言っただろ? 俺は、自分のために迷宮を討伐しなくちゃいけないんだよ。自分のために、戦っているんだ」
泣きそうな顔をするセプルに、口調を崩してそう告げる。
「……お兄さんが死んでしまったと聞いて、後悔しました。もっと私達に出来たことがあるんじゃないか、お兄さんを死なせずにすんだんじゃないかって」
「…………」
「“勇者”は、世界を救うためにメルト様が遣わしてくれた存在だと思っていました。でも、お兄さんに会って、違うと分かりました。だって、お兄さんは戦っている時、凄く不安そうで……。私とクゥを助けてくれた時も、『本当に良かった』って泣きそうになっていたから」
俺は、何も言えない。
「お兄さんに、私達が協力できることはありませんか? 貴方の、力になりたいんです」
「セプルさんは区長でしょう……? そんなことを簡単に言って良いんですか?」
「独断で行動すれば、確かに問題になるかもしれません。ですが、恩を返せないことの方が、よほど問題ですから」
「……俺は貴方の言う恩人では、ないかもしれませんよ」
セプルはふっと笑った。
「だとしても、です」
それに、とセプルは続けた。
「そんな顔で言われたら……説得力ありませんよ?」
自分がどんな顔をしているかは分からない。
俺は、いつも通りの表情をしているはずだ。
だが、好都合だった。
「……でしたら、お願いしたいことがあります」
もとより、セプル達には協力してもらわないといけないことがあったからだ。
――俺が、『あいつ』に勝つために。
それから、数日後。
俺達は、虚空迷宮の討伐に向かった。




