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夢でカノジョに出会えたら

作者: YL

冬童話2015に投稿しようとしていたやつです。

(すぐる)さん、もう少し自分に自信をもってよ!!」


12月に入って最初の週末。

彼女である(さくら)との久しぶりのデート、

何か桜の様子がおかしいと思ったら、

帰り際、思いつめた様子の彼女からこんな言葉をぶつけられた。


通常このような内容を自分の大事な相手から言われた場合、

まっとうな奴の反応は

「ああ、このままじゃ、ダメだな。

もっと頑張らないと。」

と真摯に反省し、改めて決意を固めるものであるだろうし、

ダメな奴でも

「なんだ、コイツは。

うるせえよ。」

と相手への敵意と反発を込めた、

褒められたものではないにしろはっきりとした

意思表示に繋がる感情を抱いたであろう。

もちろんそれぞれの反応によって、

その後の相手との関係は歩み寄りと別離という

真逆の方向に進んでいくことが予想されるが、

どちらにしろ本人の意思に沿う結末に向かうことも

少なくないのではなかろうか。



しかし俺、荒井卓(あらいすぐる)の場合はどちらでもないのである。

桜の必死な訴えを聞いて最初に自分の胸に去来した感情は


「やっぱりそうだよな。

ああ、またダメになるのか。」


という受容と絶望であった。

なんとも情けない、

さっき例に出したダメな奴以上の、

駄目さ満点の反応なのであろうが、

どうしようもない。

それが多くの大事な人を意に沿わず失い続けてきた俺が、

ギリギリ生きていくための虚しい自己防衛なのだから。




その後何も桜に対して言ってあげることが出来ずに、

無言で彼女の家の前で別れると

そのまま自分のアパートに帰ってベットに倒れこんだ。


もう何も考えたくない。

どうして俺はこんなにダメなんだ。

有名大学の大学、大学院に10年在籍したにもかかわらず、

結局大学に残ることも出来ずに

非常勤の中学教員として

何とか暮らしている毎日。

それならそれでと正式な教員になるため試験を受ければ、

筆記は良かったはずなのに、

面接で

「君には人を導くための覚悟が足りない」

と言われて落とされた。

それで落ち込んでいたら、

ついには付き合ってそれなりになる彼女にまで

見限られそうになっている。


もう嫌だ。

俺の人生こんなのばかりだ。

どんなに頑張っても、

もちろん結果が伴っていない場合は非難されても仕方がないが、

いつも結果自体ではなく、

最終的には俺の「意思」の問題にされて切り捨てられる。


そんなに皆御大層な「自分」を持って生きているというのか。

「夢」や「希望」を偉そうに語れるやつがそんなにすごいのか。

「自信」が持てない中で不安ながらも必死にやっている奴は、

そんなに価値がないのか。


そうかよ、分かったよ。

俺に生きている意味がないというのなら、

誰か殺してくれ、

俺をこの世から消し去ってくれ。

もう沢山だ、

こんな苦しみはもう沢山だから、

俺を解放してくれ。


誰か!!!





そんな虚しいだけの叫びを心の中で繰り返しながら、

俺は夢の世界に落ちていく。


こんな精神状態で見る夢はさぞ

夢見の悪いものであろうが、

それでも構わない。

どんな悲惨な夢であったとしても、

今のように現実に押しつぶされて

もだえ苦しんでいるよりまだましだろう。

現実に誰も殺してくれないというのなら、

夢の中でいいから俺を安らかに死なせてくれ。


頼むよ、なあ。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へー、荒井君て、賢いんだね。」

「い、いや、そんなことは・・・

僕、塾に行っているから。」

「また勉強教えてね♪」

「う、うん。」



放課後、憧れの少女が『僕』に微笑みかける。

周りに比べて大人っぽい彼女に認められたことに

ウキウキして家に帰るといつも厳しい母親から

「なに、ぼやぼやしてるの、卓!

早く塾に行く準備をしなさい!!

ごはん、食べる時間がなくなりますよ!!!」

と怒られた。

それでも『僕』は自分のニヤニヤを抑えることができずに、

浮ついた気持ちのまま、その日を過ごしたのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌朝、目が覚めた時あまりの気分の良さにびっくりした。

昨日の絶望的な気持ちはどこかに行き、

心に充実感が溢れている。

理由は昨日見た夢の内容によるものに違いなく・・・、

そのことに気づいて自分の安直な反応に苦笑するしかなかった。


おいおい、今の彼女に振られかけたからって、

小学校の時の初恋を思い出すか!!

本当に俺は・・・、

ああそういえば小学校の時は、

一人称『僕』だったんだよな、俺。

高峰涼子(たかみねりょうこ)だっけ、あの子の名前。

学年の途中で転校してきて、

すぐまた別の所に転校していっちゃったから、

それほど長い付き合いではなかったんだけど、

転校続きで勉強についていけないっていうんで、

放課後時々宿題を教えてあげていたんだよな。


不安定な境遇で育ってきたきたせいか、

逆に妙に大人びているっていうか、

とにかくなんか周りの女子とは違った感じがして、

二人っきりの時なんかすごくドキドキしたもんな。


彼女がいなくなってから男友達と

『クラスの女子で誰が一番可愛いか』って話題になって、

頭に一番に浮かんだのが高峰さんのことだったっけ。

それで『ああ、僕、あの子のことが好きだったんだなあ。』

って思ったのが、

自分の初恋を自覚した瞬間だったよな。


いなくなってから気づくっていうのが

本当に俺らしくて情けない限りだけど、

おかげで初恋がいい思い出として残っているのも

あるんだろうな。

それに人に何かを教えて喜んでもらったっていうのは

あれが初めてだよな・・・。

もしかしたらこうして教員やっている原点は

あの出会いにあったのかも。

そう考えると・・・、

叶わぬ恋もそんなに悪くはないか。




まだ口元の緩みがおさまらない中、

カーテンを開けると外は一面銀世界。

未だにしんしんと雪が舞っているし、

ニュースを見ても今日は真冬日の極寒だと

報じているが、

俺の心の中だけはどこまでも晴れやかで、

温かい何かに包まれていた。



「さて、さっさと準備して学校に行きますか。

おっとその前に。」



俺は枕もとのスマホを取り上げて、

いつも利用しているSNSサービスを立ち上げると

「サクラ」と書かれたアカウントにメッセージを送った。



「昨日はゴメン。

正直自分に自信はまだ持てないけど、

まずは先生として何とか胸を張って頑張ってみるよ!」



この後桜とどうなるかは分からないけど、

夢で思い出した高峰さんとのエピソードのように

いつか自分とこんな自分に関わってくれたカノジョを励ませるような、

そんな温かい何かが生まれるよう、

ちゃんと向かい合っていけたらと思う。



そんな風に少しだけ前向きになって俺は

冬の朝支度を開始するのだった。

ご無沙汰しています、YLです。


元々連載小説として考えていたネタのプロローグを

短編小説として出させていただきました。

本来この後ファンタジー展開を予定したため、

「童話」としていたのですが、

とりあえず「大人がちょっと前向きになれるお話」ぐらいだと

思っていただけたら幸いです。


元々連載小説の序章ぐらいになる予定のお話だったので、

ぶっちゃけオチがあるのかも怪しい話ですが、

そこは久しぶりに書いたこともあり

大目に見ていただけると助かります。


元々はもう少し長い「カノジョ」が何人か出てくるお話だったので、

いつか気が向いたときに連載小説版も書いてみられればと思います。


遅くなりましたが皆様、あけましておめでとうございます。

来年度の準備でバタバタしており、

またしばらく執筆が止まるかもしれませんが、

投稿したときにお立ち寄りいただければ幸いです。

それでは今後ともどうぞよろしくお願いします。

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