異世界へ!
「…………?」
まぶたを開き、上半身をゆっくり起こす。頭が何だかふわふわしてる。
やけに気持ち良いベッドか何かで寝てたみたいだ。ぺたぺたと地面を触る。
「草……?」
草、草だ。柔らかい草。ここは……。数秒後、彼女は目を見開いて驚愕した。
なぜならば、青い草原が見渡す限り広がっていたからだ。
「どこ……ここ」
コンビニもアスファルトの道路も……民家さえ一つも無い。
ただ見えるのはどこまでも続くような、風に揺れる草原。
「え……え……?」
状況が理解出来ず、ただ戸惑う。とりあえず、覚えてる記憶を引き出していく。
確か……夜抜け出して。うん。コンビニに行って。うん。車が……。車……。車が突っ込んできたの?コンビニに?
確かに、彼女は車が目の前に迫ってくるところまでは覚えていた。
「私……死んだの?」
何とも言えない恐怖感が襲ってくる。
死?死?あのまま轢かれて、痛みも感じずに死んだ……の?パニックに陥りそうになる。
(……確かめなくちゃ)
試しに、自分の手の平をつねってみる。
「……痛」
痛い。まだ生きてるんだ。良かった……。
彼女は少し安堵した。だが……
一呼吸置くと、自分の体の異常に気付いた。
「あ……れ?」
体が小さい。足も短いし手も小さい。そもそも目の高さが違う。どうみても、8歳から10歳ぐらいの姿になっている。
というか、足や手など全く別人のものだ。
足は折れそうなぐらい細いし、雪のように白い。陸上部の私には有り得ないことだ。
爪も磨いたようにツヤツヤで潤っている。しかも指は細長くて白魚のよう。
そして、セミロングで黒髪という日本人によくいる髪型だった私が、銀色のサラサラロングヘアーという外国人のような髪型になっている。
……完全に美少女だ。
いや、顔は鏡が無いから分からないけど、部位のひとつひとつが凄く綺麗。
(……なにこれ?)
訳が分からない。体がちっこくなってる上に、美少女化されてる。
(……あ)
『どっか他の世界にいけたらな』
……ついさっき、いや車に轢かれる寸前、願ったことをふと思い出した。願ったというか、至極軽い気持ちでいったのだけど。
(……異世界)
彼女がいた日本からは程遠い、大自然。空は黒く星が沢山見えた。そして……
「月が……5つ!?」
夜なのに、やけに明るいと思った。空には月のような大きな惑星が5つあるのだ。
キラキラと金色に光っている。それらの光を浴びて輝く草原は幻想的だ。
(ここ……地球じゃない……)
彼女は確信した。もしかしたら、ここは日本から遠く離れたアフリカとかかも知れないけれど、そんな長距離を短時間で渡るのは無理だし……。
着ていた服には日数がたって付く汚れも見当たらないし、服装はパーカーにフレアスカートというコンビニで立ち読みしてた時のまま。
何より、私をあの状況から助けるのも不可能だ。
あの状況を回避するのが不可能なら、私は死んでるんじゃないかと思ったけど、どうにもここは天国じゃないようだし。痛覚が働いてるし、浮遊感も無い。
そして、ここを異世界と裏付けする理由……。月が5つあること。これだけで地球外と分かる。
最もこれは夢という可能性も大いにあるけど、さっき自分で痛みを確かめた以上、異世界と単純に認識した方が混乱を招かなくていい。
「い、異世界かぁ……」
ふぅとため息をつく。 とりあえず理屈責めして自分自身を落ち着かせてみたものの、まだちゃんと信じられない、というか実感が無い。
私自身、諦めは早い方だ。だから、本当にどうにもならないことでは騒いだりはしない。でも……
ここはどういう世界なんだろうか。これからどすれば……?戻る方法は。
様々な疑問が湧き出てくる。不安や驚きよりも、『どうする?』という気持ちの方が大きかった。
受け止めきれない唐突な現実。
異世界に行きたいとは思ったが、まさか本当に叶うなんて、思ってなかった。誰だってそうでしょ……。
まぁ、あのまま車に轢かれてたら確実に死んでいたから、結果オーライかな……?
ていうか、なぜこんなロリ娘に……?異世界補修というヤツか?
異世界に対する好奇心と不安や疑問、様々な感情が溢れ出て頭がぐるぐるする。
情報が整理出来ずに脳が爆発寸前だ。
そのまま彼女は座り込んで放心状態になってしまった。
「星が……きれー……」
東京では見ることが出来無いような、満天の星空。フワッと髪を煽る優しい風。
「本当に……異世界なんだ……」
そう呟いた次の瞬間。
「ウッ……!?」
首に軽い衝撃が走った。そしてそのまま全身の力が抜け、地面に倒れ込む。
遠くに黒い二つの人影が見えた。
「お、おい……まさか……」
「あぁ……間違いねぇ……多分な」
ゆらゆら揺れる意識の中、私はかなり遠くいるはずの二人の会話が聞こえてた。それも、はっきりとクリアに。
(……なんでこんなに……聞こえるの……私の耳……なんか……おかしい?……)
その陰は段々とこちらに近づいてくる。やがて、その陰の正体は弓らしきものを持った二人の男だと分かった。
どうやら、神経毒か何かを私に射ったらしい。私の意識はどんどん薄れてく。
「こ、この銀色の猫耳!!伝説と言われる、奇跡の銀毛猫だ!!」
「ひゃ……ヒャハァー!!い、今すぐ仲間に連絡しろ!!コイツは他の奴隷より遥かにいい値段で売れるぜ……!!」
(ねこみみ……?奴隷……?)
つーか……いきなりバッドエンド一直線じゃね……?と私は意識が完全に無くなる数秒前に思った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
お手数で無かったら、感想をお願いします。
まだまだ物語は序盤ですので、温かい目で見守って下さい……。