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第三部 真

 麻佐が言っていた幻術が解けたからか、八年前の事を鮮明に思い出す事が出来る。


 もうすぐ夏だと言うのに心が寒い。

「・・・・・・」

 片膝を着いて視線を合わせる、藜の胸倉を掴む。

「本当にそうなの?」

 何も考えられなくなる。

「教えて」

「・・・・・・」

 本当の事が知りたい。

「俺が――」

 そう言葉を紡ぐ。

「俺が殺った。青嵐の両親を・・・・・・」

 そう、はっきりと、確かに、言った。

「本当なんだ」

 中々思い出せなかったあの光景を今なら鮮明過ぎるほどに思い出せる。切り刻まれバラバラとなった、二つの両親の死体。

「・・・・・・なんか」

 そんな事しか思えない。

「藜なんか・・・・・・」

 許したくない。許せない。例え、謝られても。持ち歩く様になった小太刀の鯉口を切る。

「藜なんか、死んじゃえばいいんだっ!!!!」

 そう言って、切り捨てた。

 もう見たくもない。

 小太刀を投げ付けて、逃げた。

 何も考えられない。

 裏切られた。

 藜に・・・・・・


 それが、偽りで出来た過去。本来の過去とは違い過ぎる。

 幻術を掛けられなければ、こんな事は言わなかっただろう。


 あれが起きなければよかったのに。

 あれが起きたのは確か、春――母の誕生日の前夜だった。


 その数ヶ月前から、小遣いを貯めて、母に似合うリボンを買った。

 綺麗な蒼いリボン。

 長い髪を持った母。真似て伸ばそうとしていた。父に髪を伸ばしてどうする気だ、と聞かれた時にそう答えたら笑われた。

 母に内緒で作ったお菓子とリボンを持って、日付が変わると同時に起こして渡そう。

 眠いのを我慢して、零時まで起きていた。

 日付が変わり、意気揚々と部屋に入ったが母おろか父もいない。

 蒲団は敷いてある。手紙は用意していなかったので、急いで部屋に戻り、書いた。

 戻ってみても誰もいない。

 母の枕元に置いて、今日はもう寝ようと部屋を出ようとした時、足音が聞こえて来た。

 母に見付かったら怒られる。すぐに押入れに隠れた。

 男の声が聞こえた。でも、父じゃない。

 何となく別の所に隠れた。と言っても押入れ下の床下収納。高さもあり広かったので、簡単に入れた。

 しばらくして、押入れの襖が開く音がした。でも、収納の方は開かない。開け口は予備の布団の下。見付からずに時が過ぎる。

 いない。どこに行った。と誰かを探している。

 誰を探しているのだろう。


 見付からなかった。入って来た人達が出て行き、音が聞こえなくなった頃に床下収納から出て、押入れから出た。

 部屋から出て、嫌な予感がするから、部屋には戻らず、藜の部屋に向かった。


 藜の部屋は離れにある。肌寒いのを我慢して、離れに行く。藜の部屋が一階にあり、離れの入り口近くである事がよかった。

 静かに襖を開けて、中を見る。

「え・・・・・・?」

 誰もいない。でも、自分の部屋に戻ったら、何か嫌な事が起きる。

 蒲団は敷かれていなかったので、押入れに入った。

 蒲団が気持ちよく、つい寝てしまった。

 そして、目を覚ませば、まだ夜。

 もう一度両親の部屋に向かった。

 でも、まだいない。どこにいるのだろう。

 再び捜した。でも、見付からない。


 見付からない、見付からない。どこにいるのだろう。

 気付けば、外を歩いていた。

 月光が辺りを照らし、

 雲一つない夜空には、

 ガラス細工の様な満月があった。


 歩きに歩いて、ある事を知らなかった小屋を見付けた。

 中は広く、小さな洋風の家だった。

 遠くから足音が聞こえて来た。

 母と父なのか。手短な部屋に入った。

 ドアを閉めて、中を見た。


 そこは今まで、

見た事もないほどに、紅い部屋だった。


「・・・・・・!」

 吐き気がするほどの臭気。

 壁に触ると、ぬるり、とした感触があった。ペンキで塗られたのではない。では何で塗られたのだろう。

 後ろでドアが開いた。

 光が入って来る。


 光に照らされて、

 グロテスクな、

 元が何だったのか分からない、

 紅い水を流した、

 紅い塊が見えた。


 今までの記憶であれば、そこには藜がいた。

 だが、本来の記憶ではそこには誰もいなかった。

 取り付かれた様にそこで呆けていると、身体が持ち上げられた。

 引き摺られる様に外に出される。外の空気が新鮮だった。

 と、首筋で、一瞬だったが痛みが走った。

「っ、!」

 目の前が暗くなる。

 外の空気を吸ったからか、吐き気を催した。身体は重く、全身に鉛を着けられた様だ。

 呼吸をするだけでも、苦しい。呼吸する度に身体が重くなる。起きているのも億劫になって来た。いっ その事だからここで寝たい。

 でも、出来なかった。

 身体を抱えられたままどこかに運ばれる。

 時間の感覚は狂い、どれほどの時間抱えられていたかは分からない。

 気付けば地に足を着けており、目の前にはある物が転がっていた。

 惨殺されたと思える、バラバラとなった人の身体。

 殺された者の服には見覚えがあった。

 薄い緑色のカーディガン。どこで見たか。ほんの数時間前に見た覚えがある。

「――――――――あ」

 そう、あのカーディガンは――――

「青嵐」

 呼ばれた。この声は確か、

「長老・・・・・・?」

 声の先には、齢七十はとうに過ぎているだろう老人がいた。

「大変な事が起きた。お前の両親が秋津の者に襲われ、見ての通り殺された。殺した者は捕らえてある」

 長老の視線の先には、血まみれの男が一人縛られた状態で座っていた。

「青嵐。お主はこやつをどうしたい?」

「・・・・・・」

 この男をどうする。母を殺した張本人なら同じ目に遭わせてやりたい。でも、なぜその事をわざわざ自分の教えるのか。それを疑問に思った。

 聞いてはいけない。聞いてはいけないと分かるのに、

「・・・・・・」

 なぜ聞こうとしたのだろう。

 聞けば自分はどうなるか分かっていた。

「・・・・・・んで」

「?」

 舌がもつれて上手く言えない。もう一度言おうとした時、

「ぎゃぁあぁぁ!」

「な、お、お前は、がっ!」

 悲鳴が聞こえて来た。

「な、何じゃ!?」

 長老も驚いている。

 この場で誰が来たのだろう。足音が聞こえる。力のつながりで近付いて来るのが分かる。

「青嵐!」

 聞き慣れた声。この声は――

「な、あ、藜!」

 長老が慌てふためく。周りの者も意外過ぎる人物の登場に戸惑っている。だが、藜は血に濡れた打ち刀を持っていた。

「何をしている」

 藜がいつもと違うのが気配で分かった。そして、感情が怒りで満ちている。

「な、何を、じゃと?」

「言え・・・・・・」

 いつもの藜ではない。あの明るい感じがなくなっている。無造作に何かを投げた。

「長老っ!?」

 男の一人が長老の前に飛び出し、糸が切れた人形の様に倒れた。

 足の力が抜け身体が重力に引かれて落ちる。尻餅を着く格好で座り込み、ぼんやりと藜を見上げた。

 藜は何かを投げたままの体勢で止まっている。青嵐の横には喉仏を棒手裏剣で潰された男がいた。

「・・・・・・」

「な、な、な、な。なぜこんな事を」

「こんな事? 俺に対して言える事か?」

 幽鬼の如く長老に近付く藜。周りの者は怯え切り、中には腰を抜かしている者もいる。

「ま、待て。これはただの」

「ただの?」

「す、刷り込み――っぎゃぁ!」

 刷りこみの『す』の字で藜は長老を斬り捨てた。

「に、逃げろ!」

 誰かの号令で、皆逃げ惑う。それを藜は許さなかった。入り口に何か細工をして来たのか、結界がすぐに張られ、出口は消えた。

 物理的な事で結界を壊す事は出来ない。

 術には術。結界には結界をぶつけなければ、この空間から抜け出す事は出来ない。

 藜の動きは速く強かった。

 疾風の如き速さで近付き離れ、

 鬼の如き剣技で切り捨てて行く。

 この場に肉の山が出来るのに時間は掛からなかった。


 頭がぼんやりとする。目の前には返り血で紅く染まった藜がいる。

「・・・・・・」

 藜は何も言わない。何も言わずに、抱き上げられた。

「・・・・・・んな」

「え?」

 藜が今何と言ったのか聞き取れなかった。


 その悲しそうな顔は今までに見た事もなかった。


 数週間学校を休んだ。その間に両親の葬式にも出られた。

 投与された薬がどうだの、取り敢えず、大人しくしていろと言われ、部屋から外を眺める日々が続く。

 たまに部屋を出る。だが、藜に遇うと、顔を逸らし足早にどこかに行ってしまう。

 話しかけても、

「何も出来なくて、ごめんな」

 そう言うだけ。

 

 そして数日後。

 付いて来いと言われ、藜を慕っていた七つ年上の女の人に連れられ、ある所に言った。

 連れて行かれた先は、湖の辺だった。

 ここに連れて来た理由を聞くと、頬を引っ叩かれ、胸倉を摑まれ、

「あんたのせいで・・・・・・」

 親の仇を見る様な目で、

「あんたのせいであの人が苦しんでいるんだ!」

 この者が言うあの人――――おそらく藜の事だろう。

「え? 藜が・・・・・・?」

 疑問形で返すと、また引っ叩かれた。

「自分の両親が殺された理由知っている?」

「・・・・・・」

 首を横に振る。知らない。長老はあの時それを言おうとしたが藜に切り捨てられた。

「あんたに復讐心を植え付ける為。その為にあんたの両親は生贄にされた」

「・・・・・・何それ」

 そう、はっきりと目の前にいる者は言った。

「それを知ったあの人は『自分のせいだ』って苦しんでいる」

 視線が冷たい。

「あんたがいなければ。誰も苦しまずにすんだ」

 胸倉を掴む手が白くなる。それよりも、現実を理解する事が出来ずに何と言えばいいのか見当も付かない。

「あんたがいなければ誰も苦しまずにすんで、誰も死ななかった!」

 それはつまり、

「あんたが全部の原因。疫病神の分際で、何でここにいるの!」

 全部の原因がワタシ? ワタシガイタカラ、チチトハハモコロサレタ?

「あんたが死ねばいいんだ!」

「ぁ――」

 湖に突き落とされた。水面から顔を出すと、顔に石が当たる。


 女の人はもういなかった。


 次の日。

 昨夜の事を確かめ様と屋敷にいた人に聞き回った。

 結果は、皆昨夜と同じ事を言う。

 私がいたから。

 否定してくれる人はおらず皆肯定する。

「お前のせいだ」

 と。

 私がいたから両親は死んだ。

 だから、いちゃいけない。


 部屋から外を眺める。

「何をしている!」

 ふと、藜に呼び止められ、持っていた物を取り上げられた。

「え――」

 手に持っていた物を改めて見る。それは鋭利な刃物だった。血が着いている。誰の血だろう。

 藜は持っていたハンカチを私の首筋に当てる。

「っ――」

 途端痛みが走る。ハンカチを見れば血がベットリ、と着いている。

「何やっているんだ」

 ハンカチを当てたまま引き摺られ、医務室となっている部屋に連れて行かれる。

 薬箱を出し、ガーゼで血止めをし、包帯で留める。

「何であんな事をしていた?」

 薬箱を戻しながら藜はそう言った。

「あんな事って?」

 ここに連れて来られるまで、何をしていたのか思い出せない。

「何を言って・・・・・・?」

 そこで何かに気付いたのだろう。顔を覗き込む様に見て来る。

「青嵐ついさっきまで何していたか覚えているか?」

「・・・・・・」

 藜にそう言われて何をしていたか思い出す。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・思い出せない。

「分からない」

「分からない?」

「うん」

 なぜだろう。いつもなら思い出せるのに。

「そう言えば藜」

 藜にあったら聞こうと思っていた事を追い出す。

「私って、疫病神なの?」

「は?」

「私がいたから、お母さんもお父さんも殺されたの?」

「誰がそんな事を?」

「皆そうだって言った」

「・・・・・・」

 藜は黙り込んだ。私何か言ってはいけない事でも言ったのかな?


 それから何度か呼び止められ、医務室に連れて行かれる。

 私は一体何をしているのだろう。


 朝日が差し込んで来る。もう夜明け。

「・・・・・・?」

 一人で起き上がれない。今の格好を見ると、ベルトを格子状にして出来た服を着せられていた。

 その服のお陰で、一人で起き上がる事が出来ない。


 どれほど時間がたったのだろう。使用人の人が来るまで起き上がれなかった。この服は脱がせてくれず、お粥を食べさせてくれると、下がってしまった。

 起きたい。でも、出来ない。何で? それは――


「何をしている!」

 また、藜が来て止める。服を脱ごうとしているだけなのに。

 服を切って脱ごうとしたが、止められる。

 服を切るのに使った小太刀を取り上げられ、すぐに手当てされる。

 

 ここ最近意識が途切れると、身体が紅く濡れている。

 よく濡れるからと拘束衣を着せられる。

 でも、切らなくても脱ぐコツが掴めて来た。ベルトの一つを緩めると、簡単に脱げる。

 脱ぎ捨てると身体が軽くなる。この服は重かった。

 久しぶりに歩く。

 お気に入りのあそこに行こう。


 上着を羽織って、廊下を歩き、母屋から抜け出す。外は少し暖かくなって来た。とは言え五月の夜は些か寒い。

 久しぶりの外。

 何をしよう。

 

 空を見上げれば、瞬く星。

 肌寒い、夜風。

 星の光よりも明るい下弦の月。

 あの夜の様だ。


 湖の辺にまで来た。ここは見晴らしがよく星や月を見るのには良いポイントなのだ。

 座り込んで空を眺める。

 ガサッ、と唐突に音が立った。

 その方向を見ると一人の、大き目の着物を身にまとった、私と同い年位の男の子がいた。

 でも、普通の人ではないと分かる。

 普通の人は手首と首に枷等していない。

 

 それが始まり。

 互いにこの役を演じ切ると、

 約束した。


「誰?」

 声を掛ける。その男の子は、近くに来てから、

「・・・・・・」

 と返した。

 でも、その時遇った男の子の顔と何と返したのかが思い出せない。

 名前を言った。それだけは覚えている。

「君、は?」

「私は、青桐青嵐」

「青桐、青嵐?」

「青嵐でいいよ」

「うん」


 話しが合った。

 お互い学校には行っておらず、

 勉強はどうなっているのか、

 友達は何をしているのか、

 学校では何か新しい事が遇ったのか、

 話題は尽きない。

「あの、ね」

 笑わないで、と念を押してその男の子はある事を言った。

「笑う練習を、して、る」

「笑う練習を?」

 なぜ笑う練習をするのだろうか。

「笑えな、いんだ。面白いの、に楽しいのに、顔に、出ないから」

 何でだろう、と続ける。すぐにこう返した。

「真似をすればいいんじゃないかな?」

「ま、ね?」

「うん。たとえば、お母さんとか」

 その男の子はすぐに首を横に振った。

「お母さん、知らない。お父さん、も」

「・・・・・・?」

 首を傾げた。両親を知らない?

「会った、事ない」

「・・・・・・」

 黙って考える事、数十秒。

「じゃぁ、私の真似をするといいよ」

「君、の?」

「そうだよ」

 笑い掛ける。私の顔を見て、真似をしようと頑張っている。

 時折、

「こんな、感じ?」

 と、聞いて来る。感想を述べて、共に笑い、時間が経った。

 いつの間にか空が明るくなって来た。

 もう、帰らねばならない。

「・・・・・・上手く、でき、ない」

 落ち込む。あれこれと提案をするが、今一つ効果がない。そこで、

「今度会う時は――」

 そう提案した。

「本当に、やるの?」

「うん。今度会ったらお互いがお互いの真似をする」

 約束。そう言って、

「指切りしよう」

「指きり?」

 小指と小指で、決まり文句を歌い、別れた。また夜にと。


 それから夜に母屋を抜け出して会うのが日課となった。

 約束を果たす。お互いの真似をする。

 楽しかった。

 でも、会えなくなった。たったの二週間足らずで。

 いつもの様に話しをしていると、男の人達が音もなく現れ囲まれた。

「ここにいたのか・・・・・・」

 一人がそう言うと、一緒にいたのに、引き離された。

「あっ・・・・・・」

「青嵐」

 手は届かない。届く所か後ろに投げられた。

「わっ!?」

 受身は取れたが、

 パシュッ、

「っ!」

 と何かが耳元を掠めて行った。

「せ、・・・・・・ぐっ」

 首枷を掴み苦しそうに声を上げる。

 首枷に付いている鎖を持ち上げられ、首が吊られる。

「っ、・・・・・・っ、・・・・・・!」

 足をバタつかせるが、それは弱弱しくなり、動きが目に見えて衰える。その頃になってようやく鎖から手が反された。地面に尻餅を着く様に落ちるが、首を押さえて、

「ぐ、げほっ、げほっ、・・・・・・」

 咳き込む。

「・・・・・・」

 視線が私に集まる。咳き込んでいる間は何も出来ないと確信している。

「処分するか」「だな」「余計な事を吹き込まれても困るからな」

 黒い塊。それが全て私の方に向く。

「あ、待って」

 咳き込み、それだけが搾り出された。男の一人が、男の子に歩み寄る。

「言い付けが守れるのか?」

「・・・・・・」

 咳き込みながら、頷く。それを見た首領格の男が黒い塊を懐に仕舞う。

「引き上げるぞ」

 男の子の首枷の鎖を掴み、去ろうとする。

 その中で、男の子は口だけを動かして何かを言った。

『ごめんね』

 と。声で聞こえなくても、そう言ったのが分かった。


 その夜以来もう、会えなくなった。


 季節は時期に夏になろうとしている。

 私はまた、男の子と会う前に戻った。

 同じ事を繰り返し、あの男の子とはもう会えない。

 両親もいない。

 何もない。

 なくなってしまった。

 周りはもう、どうでもよくなった。

「・・・・・・」

 天井を見上げる。

 何も思い出せない。

 何もしようと思わない。

 ただ、時間が過ぎる。


ある日、その男は言った。

「青嵐。いい加減にもう起きろ」

 天井を見詰めるだけの毎日。

「学校はいいのか?」

 どこにも行く気はない。どこに行けばいいと言うのか?

「覚えているか・・・・・・」

 春のあの夜の事。

「・・・・・・」

 目だけを動かして横にいる男を見る。

辛そうな顔をしていた。でも、決心を秘めた瞳は辛そうではなかった。

「あの夜の事だが――」

 語り始める。同時に目の前が白くなる。

「あの夜。俺は青嵐の両親が殺すと何か相談しあっていた奴らを止められなかった。それ所か・・・・・・」

 そこで話が途切れる。その光景が脳裏に浮かぶ。そこには血まみれの藜がいた。太刀を振り上げる。

「変装していたとは言え、お前の両親を切ってしまった」

 その像が思い出せる。

 これがぼんやりとして来たあの夜の本当の事?

「俺が、お前の両親を殺したんだ」

「・・・・・・」

 アカザガコロシタ?


 次の日から、起きられる様になった。皆驚いていた。一葉にいたってはこれでようやく学校に行けるな。と言って来た。

 正直学校はどうでもよかった。

 確かめたい事がある。


 藜が夜に一人で外に出た所を狙って訊ねた。

 人気のない所に連れて行き、話しがあると言うと、藜は片膝を着いて、目線を合わせる。

「聞きたい事がある」

「何だ?」

 のんびりと聞き返して来る。

「・・・・・・」

 もうすぐ夏だと言うのに心が寒い。

「・・・・・・」

 片膝を着いて視線を合わせる、藜の胸倉を掴む。

「本当にそうなの?」

 何も考えられなくなる。

「教えて」

「・・・・・・」

 本当の事が知りたい。

「俺が――」

 そう言葉を紡ぐ。

「俺が殺った。青嵐の両親を・・・・・・」

 そう、はっきりと、確かに、言った。

「本当なんだ」

 中々思い出せなかったあの光景を今なら鮮明過ぎるほどに思い出せる。切り刻まれバラバラとなった、二つの両親の死体。

「・・・・・・なんか」

 そんな事しか思えない。

「藜なんか・・・・・・」

 許したくない。許せない。例え、謝られても。持ち歩く様になった小太刀の鯉口を切る。

「藜なんか、死んじゃえばいいんだっ!」

 そう言って、彼を憎んだ。


 これが嘘の始まりだった。


 なぜ、こんな嘘を信じてしまったのか。馬鹿みたい。

 愛刀を手に、森の中を走る。途中何かの結界に引っ掛かったが、気にならない。そもそも、青桐の里の中ではこれから行なう術は使えない。

 走りに走って、楓の樹に寄り掛かる。

 愛刀の鞘を払う。

 刀身は氷の様に冷たい。その刀身を掴み、手を切った。

「っ――」

 痛みはあるが、藜が耐えて来た事に比べれば、一欠けらにもならない。

 刀身を自分の血で紅く濡らす。鍔から柄に血が流れる。

「血潮よ、鋼を鍛えよ。鋼よ、呪われし闇に抱かれよ」

 使うなと言われた自身を殺す禁呪。

 刀身が紅く淡い光をまとう。首筋に当てる。

 ――冷たい。

 このまま押し込み、皮膚が自然に裂けるのを待たずに愛刀を引こうとした時、弾かれた。

「・・・・・・」

 状況が分からなかった。愛刀を弾いたのは棒手裏剣。

「こんな所で何をしているんだい?」

 この口調の者は一人しかいない。

 顔を上げる。そこには予想外の者がいた。

 そして、その姿は、あの時の男の子と被る。

「あき、ず」

 秋津紅は笑い掛けて来た。

 あの時、青嵐が男の子に笑い掛けた様に。

 お読みくださった方々、ありがとうございます、天原です。第二部と一緒に出せてよかったです。

 ある意味ターニングポイントに近付いた?青嵐の昔話です。

 しかし物騒なお家です。危険物が子供の手の届く所に平然と置いてある、小太刀帯刀OKとか、何て危険な!と思ったが、その設定を作ったのはお前だ、作者。

 

 話は変わりますが、昔話に出てきた男の子、誰だか分かりましたか?

 

 次回は折り返し地点です。プロット嫌いな作者が自由気ままに書いた小説を次回もお読みいただければありがたいです。

 日付が変わった頃までに投稿したいです。

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