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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
城戸澪士編
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第7章 再会

由愛ちゃんに案内され、僕達は澪士の部屋の前に立った。

由愛ちゃんは部屋のドアを数回ノックし、

「お兄ちゃん、小鳥遊さん達がいらっしゃったよ。ドア開けて良い?」

と神妙な表情で言った。その表情を目にして、少し緊張する。

部屋からは反応がなかった。どうやら最近は何度ノックしても反応が同じだったようで、由愛ちゃんは特に気にする素振りは見せなかった。

「じゃあ、鍵開けるんでお二人は中にどうぞ」

「え、僕と光だけ?ってか勝手に良いの?」

「お兄ちゃん、反応してくれないですし。本当に嫌だったら何か言うと思います。合い鍵もあるんで、大丈夫です」

意外と行動派なんだね。やっぱりずっと一緒に生活してると、接し方がよく分かるのかもしれない。

由愛ちゃんは部屋の鍵を開け、扉を僕達に託す。

そして一礼し、居間の方へ戻っていった。

僕は一度深呼吸し、ドアノブに手を伸ばした。


ドアを開けて部屋に入ると、薄暗い部屋のベッドの上に澪士が体育座りをしていた。物凄くシュールであり、不気味だ。

光はすかさず電気を点けた。暗い所が苦手なのか、ただマイペースに行動してるだけなのかは謎である。

澪士は死んだ魚のような目で僕達を見上げた。こんな表情の澪士を目にするのは初めてだった。

澪士はよろよろと立ち上がり、床に腰かけた。部屋の真ん中には小さなテーブルと座布団がある。まるでこの時の為に用意してあったかのように。

一瞬だけ澪士の部屋の全体に目を向けると、特に変わった所の無い部屋であった。凄い片付いて綺麗である。

「…………座ってくれ」

小さな声でそう呟く澪士。なんだかここ数日ですっかりやつれてしまったようだ。ちょっと痩せた気がする。

お言葉に甘えて僕達は座布団の上に腰かける。僕と光が並んで、正面に澪士がいる構図。

「………何か、話でもあるのか?」

そりゃあるから来たんだろうと思いつつも、ここまで来たものの、やっぱり何を話せば良いのか分からない自分の状態に気がつく。

とにかくいろいろと話したい事があって、順番が決められない。直後の学校の事、上条の事、高木や凛の事、生徒会の事、軽く考えても大量だ。

だがまずはあのBLゲームについて触れてみようと思った。

と、思ったのに先に光が話し始めてしまった。


「澪士君は、小鳥遊君の事が好きなの?」


…え?

この童顔男は何を言ってるんだ?

「光…?」

「澪士君の持ってた箱を見て、僕思ったんだ!澪士君、実は男の人が好きで、その…小鳥遊君の事が好きなんじゃないかなって」

どっから突っ込むべきなんだ?この雰囲気で出会い頭にそんな事口走るかよ普通。しかもお前なんかめっちゃ笑顔だし。

「…光、お前…」

僕が喋ろうとすると澪士が口を挟んだ。


「あぁ、俺は小鳥遊の事が好きだ」


………

……

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

思わず絶叫したよ。そりゃ絶叫物だわ。たった今、僕は親友に告白されました。

「お、おま、何を…?」

何故か涙が目に浮かぶ。決して喜びからなんかじゃなく、恐怖心からである。思わず後退りしようとするが、身体が震えて上手く動かない。

僕はこの後一体どうなるのだろうとか思ってたら、


「…ぷっ、ははは!冗談だよ」

さっきまで暗い顔をしていた澪士が笑顔になってそう言った。

一瞬澪士が何を言ったのかよく分からなかったが、段々と意味が分かってきた。

澪士は、僕の事をからかっただけか。

一発殴っても良い気がしたが、ここは気持ちを抑えておこう。ネタばらしも早かったし。

「…はぁ…はぁ…お前…もう少し空気読んでくれ…」

何故か少し残念そうにしている光は置いておいて、徐々に呼吸が落ち着いてきた僕はさっき言いかけた事を口に出す。

「なぁ、澪士…。あのBLゲームはお前のなのか?」

僅かではあるが、たまたま澪士が持っていただけで、所有者が澪士じゃないという希望もあった。

でも、澪士は即答してその希望もぶち壊した。

「いや、あれは俺のだ」

澪士は苦笑してそう言った。

「…もう隠すつもりはないが、俺はBLゲームが大好きだ」

淡々と話す澪士。

予想できた事でも、実際に本人からそう言われると、妙な虚無感に包まれた。いや、仮にあのゲームが由愛ちゃんのとかだったら、それはそれでショック過ぎるけど。

僕達が何か返す前に、澪士は話し続ける。

「まぁ…所謂腐男子って所か。BL作品を好む男子だな」

ここで一つ疑問が浮かんだ。

「あれ、BL好きな女の事を腐女子って言うよね?それの対義語だったら百合好きな男の事を腐男子って呼ぶんじゃないの?」

「それは誤りだ。確かにそういう意味で使う奴もいるが、正しい意味では腐男子もBL好きを表す」

ふむ、なんだか一つ賢くなった気分である。でもこの知識は今後の人生で役立つのだろうか。

ちなみに光はこの話は全くついて行けてないようであった。


とりあえず、次の話題に移る。話したい事はたくさんある。

「澪士は、何故BLが好きなんだ?」

率直な疑問。男同士の恋愛を好む男など僕は初めて目にした。しかもそれが親友だったわけで。この疑問を持たずにはいられない。

「…正直よく分からない。俺自身がホモではないというのは理解してほしいんだが、単純に男同士の恋愛を客観的に見るのが好きなんだ」

あ、ホモではないんだね、安心した。

「小鳥遊も…自分の好きな物に対して理由がなかなか説明出来なかった経験ってないか?」

訊かれてちょっと思考する。

「…あー、あるわ。うん、僕が観てるアニメや特撮のどこが面白いのか、って聞かれたら答えづらいしなぁ」

誰でも好きな物はたくさんある。自分の好みに理由なんて要らないだろう。好きなもんは好きなんだ。それで何が悪い。

言葉で表現できなくても、心の底から好きだっていう思いが溢れてくるのは誰だって同じだろう。

澪士にとって、それがBLなんだ。

それはそれで、悪くない。誰も文句は言えやしない。

この話は光も横で頷きながら聞いていた。


その後は特に重要でない話を交わしつつ、澪士も完全に脱力出来たと判断できたあたりで、僕は話を振った。

学校での一件についてである。

僕は澪士が教室から出た後の出来事を全て話した。

新聞部の上条が話題作りの為に学校に噂を広めた事、高木や凛がこの問題解決に向けて協力した事、僕が上条にいろいろ話した事。その他。

話す事は数多くあり、ところどころ抜かした部分はあったかもしれないが、横にいた光は特に何も言わなかったし、本当に大事な部分はちゃんと伝えられたと思う。

澪士は僕の話を終始黙って聞いてくれた。

「…とまぁ、僕から言えるのはここまでかな。澪士がいなかった間はこんな感じ」

一通り話し終わり、一息つく。

「……迷惑かけて、悪かったな」

さっき話した時はいつもの澪士に戻りかけていたように見えたが、僕がこの話をしてから澪士はまた暗くなってしまった。

最大の問題は、やっぱり学校全体の事なのだろう。部屋の空気が少し変わった気がした。

「澪士、明日は学校来れる?」

「………」

僕の問いかけに、澪士は返事をしなかった。

やはり、心の傷は深いようだった。

僕や光にBLの事は打ち明けてくれたものの、全校生徒約七百人ほぼ全員に知れ渡っているこの状況、流石の澪士でも怖いんだ。

澪士に怖い物があるなんて、考えた事がなかった。


僕は澪士についてよく知っているつもりだった。


でも、今回の件で思い知らされた。


僕は澪士の事を全然理解していなかったんだ。


澪士は返事をくれそうになかったので、僕は立ち上がった。光は一瞬「え?」って反応をしたが僕に釣られて立ち上がった。

「澪士、いろいろと辛いかもしれないけどさ、明後日は選挙もあるし、辛いかもしれないけどいつまでも閉じこもってちゃ駄目だ」

相変わらず僕は説教が下手糞だ。気の利いた言葉一つかけてあげることができない。

それでも僕は、自分の頭に浮かんだ精一杯の励ましの言葉を澪士に告げる。


「待ってるよ」


僕は澪士の部屋から出た。

居間で待っている由愛ちゃんに軽く挨拶する。「必ずなんとかする」とか言ってたのに、こんな中途半端で申し訳ないっていうか情けないっていうか。

軽く経緯を説明すると、由愛ちゃんは笑顔で僕に礼を言ってくれた。

少しでも澪士に変化があっただけで、由愛ちゃんは満足みたいである。

由愛ちゃんと連絡先を交換し、何かあったら僕にすぐ報告してくれるという約束も取り付けた。

そんな事をしてる間に光も澪士の部屋から居間にやってきた。僕が部屋を出た後、光も澪士に対して何か話したのだろう。だが、光から僕と由愛ちゃんに対して特に何か言う事も無かったので、大きな変化は無かったのだと思われる。


そんなこんなで、僕達の家庭訪問は終わりを迎えた。


帰り道、光と二人。

「小鳥遊君…明日、澪士君学校に来てくれるかな?」

「うーん…僕達、やれる事はやったと思うから…」

あくまで僕が勝手に定めた範囲内で、だけど。やれる事はやり尽くした。

本当にやり尽くしたかは分からないけど、そう思わないと…なんだかやってられない気分だった。

「とにかく、今は待とう。澪士が顔を見せに来るまで」

そして長い一日が終わった。


翌日も、澪士は学校に来なかった。

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