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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
城戸澪士編
4/33

第2章 週末

金曜日の放課後。ようやく一週間の終わりで、僕にとって週の中で一番テンションが上がる時と言っても過言ではない。

これでまたゆっくりできる。まぁ部活もやってないし、ゆっくりできる時間は多いんだけど、学校に行かずに家で休める週末はやはり素敵な時間なのである。

今日は帰ったら勉強はしないで趣味の時間をたっぷりと楽しもう。帰りにDVDでもレンタルして、それを観賞しながら過ごすのも良いかな。

「光、今日は部活あるの?」

隣の席で鞄に荷物を詰め込んでいる光が僕に話しかけられて顔をこっちに向けた。今日は眼鏡をかけていない。光は気分で眼鏡とコンタクトを使い分けるようである。

「今日は特に部活も用事も無いよ。小鳥遊君は用事とかあるの?」

「無い無い。んじゃ澪士と三人で帰ろう」

そんな事を話していると澪士が僕達の所にやってきた。

「小鳥遊…少し話したい事があるんだが、良いか?」

澪士はちょっと真面目な顔で僕に言った。なんだかあまり良い予感はしないんだが、断る理由なんてない。

「あぁ、大丈夫。その話って僕にしか言えない秘密な事?」

「いや、問題ない。星野、今日は部活無いのか?」

「無いよ。僕も澪士君の話、気になるから聞いても良い?」

「大丈夫だ。星野にも話す。帰りにどっか寄って、そこで話そう」

というわけで、澪士の話を聞く為に今日は三人で下校することになった。


いつもは澪士のアパートに着くまでの道の途中で光とは別れるんだが、今日は三人で駅前のファーストフード店までやってきた。

三人で適当にポテトやチキンナゲットなどを買い、テーブルに澪士と向かい合うようにして座る。光は僕の隣である。

「で、話したい事って何?」

ポテトを食べながら聞いてみた。ちなみに光は隣で楽しそうにチキンナゲットにケチャップをかけている。

澪士はテーブルの上にある物には一切興味を示さずに、少し言い辛そうに苦笑いした。

「なんか…ちょっと言うの抵抗あるな。恥ずかしいっていうか何というか…」

何故ここまで来てそんなことを。澪士にしては珍しい反応である。いつもはもっとクールなのに。とか考えていると、

「ねぇねぇ、マスタードかけなくても良い?僕辛いの苦手だから」

全く空気を読まなかった光の台詞に澪士と二人して軽く吹いた。光はチキンナゲットに夢中で僕達の会話をあまり聞いてなかったようだ。

「…ふふっ、勝手にしろよ。星野は先にチキンナゲットを食いたいそうだから、食べてから話すか」

そう言って澪士もポテトを食い始めた。

…本題に入るまでもう少し時間がかかりそうである。


三人でテーブル上にあった物を全て完食し、片付けをしてからようやく本題に入る。

「で、澪士。話したい事、あるんだろ?」

「あぁ、そんな深い話でもないんだ。気を張らなくても良い」

そんな事言われてもお前は深い話をしようとしてるようにしか見えない。

隣の光は何も言わずに澪士の方をただ見ている。

少し間を空けてから、ようやく澪士は話し始めた。


「生徒会長選挙に、立候補しようと思う」


「せ、生徒会長?」

いや、まぁ確かに意外ではあったが、正直拍子抜けした。

わざわざ放課後に、こんな所で話す事か?そんな重い話でもないだろうに。

…でもまぁ、澪士も澪士なりにいろいろ考えたのか。生徒会長選挙に立候補するってイメージは…ないわけじゃないがあるとも言えない。それなりに胸の内を打ち明けるのに抵抗があったのかもな。よく分からんけど。

「ふむ…お前、そんな人前に自分から出るタイプじゃないと思うんだけど、何か理由でもあるの?」

「いや、ただこの学校の悪い所を変えていきたいと思っただけだ。特に、行事なんかは盛り上がりに欠ける傾向にあるしな。このまま何もせずに高校生活を送るのも嫌だし、少し行動を起こしてみようかなって」

どうやら僕が思っている以上に澪士は真剣なようだ。決して現状の全てが悪いわけじゃないが、僕達の学校をもっと良くしたい、という僕にはあまり無い発想である。

「澪士君、中学校時代とか生徒会活動してたの?」

隣を向くと、光も真面目な眼差しを澪士に向けていた。

「あぁ、一応中学校時代にも生徒会長だった。高校入ってから生徒会とは縁が無かったが…やっぱりちょっと興味あってな」

澪士が中学校時代に生徒会長をやっていた、というのは…そういえば前に一度聞いた事がある。どんな状況で聞いたのかは覚えてないが、そんな話は聞き覚えがあった。

僕は生徒会には正直あまり良い印象を持っていない。生徒会役員は基本的に内申点目的の集団でしかない、というイメージがある。僕の見方にも問題はあるが、中学校時代は特にそんな奴ばかり生徒会役員だったので、正直生徒会は嫌いである。

今の学校の生徒会も、どんな時にどんな活動をしているのかよく分からない。そもそも、存在してる事自体忘れかける。

でも、そんな生徒会に澪士が乗り込むと言うなら、少し期待しても良いかもしれない。本当の意味で、生徒会という組織が学校の為に活動してくれるのなら、僕は全力で澪士を、生徒会を応援する。

今のこの学校に、目に見える良い変化を親友が起こすのは、なかなか楽しみだ。

「うん、僕は良いと思う。澪士がやりたいって思うなら、僕は全力で応援するよ」

「僕も応援する!じゃあ、僕が校内新聞で澪士君の記事書くよ!学校中の皆に澪士君をアピールできるように!」

僕も光も、笑顔で澪士にそう言った。

友達だからこそ、やりたい事は出来る限り応援してあげたい。それは光も一緒だ。

「…あぁ、ありがとう」

澪士も微笑んでそう言ってくれた。


で、ここまでの事は良いとして、澪士の話は実はまだ終わりではなかった。

澪士は意外な言葉を僕に言った。

「そこで小鳥遊、俺の推薦人になってくれないか?」

「…は?」

…推薦人?僕が澪士を推薦するってこと?生徒会長に?

「選挙に出る際には、必ず推薦人が必要なんだ。そこまで忙しい事を頼むわけじゃない。書類を書いてもらったり、ちょっとは負担をかけるかもしれないが、俺の事をよく分かってる人に頼みたいからな。小鳥遊、お前に頼みたい」

確かに中学校時代から、生徒会選挙に立候補してる人には推薦人とかいう存在意義がよく分からない付属品がついていた気がする。単純に、バックアップする役割を持つポジション。

「朝っぱらから登校中の生徒達に『投票お願いしまーす!』とか二人でやるの?」

「いや、俺はそこまでアピールに徹するつもりはない。そんな選挙前だけ点数稼ぎをするのはちょっと気が進まなくてな。他の候補者が全員やってもその行為を俺がするつもりはない」

周りに流されずに、こうやって自分の考えを貫こうとするのもまた澪士らしい。

ふむ。僕の高校生活の中で一番長い間一緒にいるのは澪士で、それは澪士にとっても同じで僕が一番一緒にいる相手である。

澪士を推薦するなら、この学校の中で一番澪士の事がよく分かっている――はずの僕がやるべきなのだろう。

澪士には日頃から世話になってるし、それくらい安いもんだ。

「あぁ、分かった。やるよ、推薦人。光は新聞部で、僕は推薦人。二人でやれるだけ後押しするよ」

「…ちょっと忙しくさせるかもしれないけどな、よろしく頼む」

「ってかお前、バイトとか忙しいのに大丈夫なの?」

澪士は親がいない為、親戚の援助と自分のバイトで妹と二人で生活している。バイトする時間とか、自分の時間が減ったりしないのだろうか?

「一応、それなりに時間を確保できるように調整するさ。仮に生徒会に入っても、めちゃくちゃ忙しいってことはないと思う」

澪士は澪士で、ちゃんとそこら辺は考えているようであった。僕が心配する必要なんてなかったな。

「とにかく…俺は新しい事、挑戦したいんだ」

そんなこんなで、僕は生徒会長選挙に出馬する澪士の推薦人というポジションにつくことになった。


それから二日経ち、日曜の朝。

高校生の立場でこんな事を堂々と言うのはちょっと恥ずかしいが、僕は特撮が好きである。

戦隊物やヒーロー物は子供の頃から好きで、いつかこの趣味を卒業する日が来るのだろうかと考えていたが、卒業できないままここまで成長していた。

朝の早起きが得意じゃない僕も、毎週日曜は特撮をリアルタイムで観る。ちなみにその後に放送している魔法少女アニメも最近よく観ている。

あまり共通の趣味を持つ人はなかなか周りにいないが、特に問題はない。寂しい時もあるが、ネットを見てるとあちこちで視聴感想が読めるし、他の人の観点を自由に調べられる時代である。自分で感想を書いたりすることはないが、他の人の書き込みを読むだけで同じ趣味を持つ者同士、例え会話した事がない相手でも分かり合える気がする。

…自分で言っててよく分からないが、まぁそういう事である。澪士にも勧めた事はあるが、どうも昔からそういうのに興味ないみたいだった。今度光にも勧めてみようと思う。

で、今日は何故かいつもより早く起きてしまった。戦隊物が始まるまで、後二十分近くある。いつもはギリギリ五分前に起きて、寝ぼけてても番組が始まった瞬間に一気に目覚めるぐらいなのに。

とりあえずする事もないので、戦隊物が始まるまで他のチャンネルを回す。すると、別のチャンネルでとあるアニメをやっていた。

恐らく四月から始まったアニメだろう。五話か六話ぐらいだと思う。

話の内容はよく分からなかったが、軽く流す程度に視聴する。学園系のアニメのようだった。

三分ぐらい観てるととある事に気がついた。

「…登場人物が男ばっかじゃん」

しかもどれもイケメンで、ホストみたいな感じ。舞台はお嬢様学校のようである。が、さっきからお嬢様らしき登場人物は出てきていない。

代わりにその執事達、男性四人が、複雑な会話を繰り広げている。どうやらファンタジー要素もあるようで、『闇』とかいう単語が頻繁に登場している。

途中から観たせいかも知れんが話の内容が全然分からん。

執事達は自分達の主人の為に裏で『闇』から学園を守っている…という話だというのは予想できる。

いちいち執事達の会話が妙に…なんというか…官能的である。男同士なのに、色っぽさが随所に滲み出ている。

あぁ、そういうことか。BL要素をたっぷり含んだ学園ファンタジーアニメ。そう表現するのが一番分かりやすい。

ボーイズラブ。略してBL。男同士の禁断の恋愛を描いた作品のジャンル。このジャンルを愛するオタク女子達は俗に腐女子と呼ばれる。

男の僕からすれば、一生関わりたくないジャンルである。そもそも男同士の恋愛ってのは考えただけで背筋が凍りそうだ。

と言っても逆に女同士の恋愛だと、BL程に拒絶したりはしないだろうなぁと思ってしまう。それは僕個人の感性に限った話なのだろうか。

ついついそのままこのアニメを最後まで観てしまったが、正直全然面白くなかった。次回予告で発覚したが、アニメのタイトルは『愛と血に塗れた楽園』らしい。訳分からん。ネーミングセンスに違和感感じまくりである。『学園』じゃなくて『楽園』なのか。ってかこれこの時間に放送して大丈夫なのか?

まぁ、このBLアニメとは今後縁はないだろうからもう忘れよう。来週からは早起きしても視聴する気はない。…だが、エンディングテーマはそれなりに良い曲だったかな。

さて、戦隊物が始まる時間だ。戦隊シリーズ最新作の今作は早くも話題を集めている。子供から大人まで楽しめる要素が詰め込まれており、それに惹かれているのは僕も例外ではない。ちなみに僕はイエロー(変身者は女性)が好きである。…その女性がタイプって事じゃなくてキャラ的な意味でね。

戦隊物、ヒーロー物、魔法少女アニメを一通り視聴し、僕はPCの電源を入れて掲示板やらSNSでいろんな人の感想を見て回る。

今日はどの作品もそれなりに深いテーマがあったので、考えさせられる事がいっぱいあった。子供向けアニメだからこそ、子供に理解できる範囲で何かしら考えさせられるテーマが設けられる事は実は結構多いのだ。

特に魔法少女アニメで主人公の女の子が新キャラ(三人目の魔法少女)に言った『魔法は道具じゃないよ!』って台詞は一見浅いようで実は深い、今後も語り継がれる名言になると思うね。主人公も魔法少女になったばかりなのに妙に上から目線だけど。


そして時刻は九時半。僕の朝食の時間である。

この家に住んでいるのは僕、爺ちゃん、婆ちゃんの三人である。爺ちゃん婆ちゃんはめっちゃ早起きで僕がBLアニメを見始めたころにはもうご飯を食べていた。実は二人とも朝からずっとテレビを観ていた僕の近くにいた。

爺ちゃんは朝から子供向け番組を視聴する僕をいつまで経っても子供だなとよく言うが、僕が内面的に子供の頃から変わってないという事が爺ちゃん実は嬉しいんだ、と婆ちゃんからよく言われる。本当かどうかは知らない。

僕はとにかく好き嫌いが多かったが、去年からこの家に住み始めて多少はそれも減った。住み込ませてもらってる立場で、食事に関して文句は言えないだろう。

漬物なんかは未だに苦手だが、ずっと嫌いだった野菜なんかも徐々に食べられるようになってきた。

ご飯は基本的に和食。今日の朝も特にそれは変わりない。

婆ちゃんが持ってきてくれた味噌汁に手を伸ばす。

…やっぱちょっと熱い。

この家は汁物もそうだが、風呂なんかもめちゃくちゃ熱く設定する。味噌汁なんかはある程度時間をおかないと火傷する。子供の頃、帰省中に婆ちゃんの味噌汁でマジで火傷した苦い思い出がある。

今の味噌汁もちょっと熱いが、婆ちゃんは婆ちゃんなりに気遣ってくれてこの結果だから、これ以上文句は言えない。去年の今の時期に比べれば、大分マシである。

十五分程度で食べ終わり、台所へ皿などを持って行く。

「ご馳走様でした」

台所の棚の整理をしていた婆ちゃんに一言。

「はいはいどーも。皿洗っておくからそこに置いときなさい」

「いや、婆ちゃん忙しそうだから皿ぐらい自分で洗うわ」

「そう?じゃ後はよろしくね」

婆ちゃんと軽く会話して、皿洗いをする。こういう事も実家にいた頃は全然やらなかったが、率先してやる癖がついてきた。

今日はこの後趣味に時間を費やし、昼過ぎから勉強にちょこちょこ手をつけ、ずっと家で過ごした。


で、夜からは家の手伝いである。

今僕が住み込んでいるこの家は小さな定食屋を営んでいる。客足が多いわけではないが、出前なんかも多いしこの家の貴重な収入源。

住み込ませてもらって、月にいくらか小遣いも貰ってるわけだし、爺ちゃん婆ちゃんにはかなり世話になっている。だから毎晩店の手伝いをすることなんて率先して行える。

僕は料理が全くできないわけじゃないが、婆ちゃんに調理場の手伝いだけはやらなくて良いと言われているので基本は料理を運んだり、出前に行ったり。仕事量はそこまで多くはない。

手伝い中、少し暇ができて裏でぼーっと考え事をしていると、

「一真。出前行くからお前も来い」

爺ちゃんにそう言われ、僕も出前に同行することになった。

小さな軽自動車に料理の入った入れ物を倒れないように詰め込み、出発。目的地は車で五分ぐらいの距離の、頻繁に注文してくれる人の所である。

こうやって爺ちゃんと二人で出前に行く事が多いが、たまに車で行くまでもない近場からの注文が来ると(その距離だったら直接店に足を運べばいいのにと思うかもしれないが、ちょっとした事情で足を運べないご近所さんもいる)僕が自転車で運ぶ事もある。

「一真。中間テストっていつなんだ?」

走行中、爺ちゃんが話し掛けてきた。

「六月。もうちょっと先だよ。で、爺ちゃん、その質問この一週間で六回目だよ」

爺ちゃんがボケ始めていると思うかもしれないが、僕には分かる。爺ちゃんは僕と何かしら話がしたくてしょうがない。適当に話題を作って僕と会話しようとする。昔からそうなのだ。

…その対象となってる僕が実際に解説するとちょっと恥ずかしい。でも、爺ちゃんの気持ちは僕自身凄い嬉しいし、悪い気はしない。

「あ…そ、そうか。まぁ二年生になってから最初の試験だから、頑張るんだぞ」

この言葉を聞くのも六回目である。

「…あぁ、分かってる。それなりに頑張るさ」

敢えて何も突っ込まない。僕達の関係は第三者から見るとちょっと不自然ではあるが、僕はこれはこれで悪くない、そう思ってる。


何事もなく手伝いを終え、一日の終わりである。

明日からまた学校。生徒会選挙に関わる澪士の為に、いくつか仕事をする場面も出てくるであろう。

なんだかんだで、明日からは澪士の手伝いとかでいつもと違う事が起きそうでベッドの中で少しわくわくしていた。

まぁ、また明日から頑張っていきますか。

そして僕の週末は終わり、また新たな一週間が始まる。

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