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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
高木舞編
30/33

第17章 覚悟の証明

「君は舞と交際している、と聞いたが」

僕達から切り出す前に和弘さんから言葉が出た。

「はい。申し遅れましたが、舞さんとはお付き合いをさせて頂いております」

「いつからかな?」

「今年の春からです。舞さんとは委員会で知り合い、四月から交際させて頂く事になりました」

ここら辺の設定は全て五人で話し合って決めた事である。僕と高木が実際に知り合ったのは四月であるが、あまりにも付き合いが薄いと困るので細かい設定を捏造した。

「で、今日は何をしに?」

「僕と舞さんのお付き合いを認めて頂く為に今日は伺いました」

まずはそこから。本題は慰留であるが、この話を最初に持ってくる事にした。ここで高木が口を挟む。

「今まで話していなかったのは申し訳ないと思うんだけれども、一真君は優人とも仲良くしてくれていて、言葉では上手く伝えられないけれどとても良い人なの」

「付き合う、付き合わない、というのは俺が口を出す事じゃない。自分達が納得しているんであれば、それで良いだろう」

意外とあっさり受け入れられた。正直予想外である。第二関門突破と行ったところ。テンポ良く進んでいる。

「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」

ここで一礼する。細かい礼法は身につけていないが、最低限健全な高校生らしい態度をとるようにと凛から指示されている。


「…話はそれで終わりかな?時間が限られているんだ」


和弘さんの一言に高木と二人で凍りつく。

これは、本当に話したい事を察しているということだろうか。

予定ではいろいろな事を話し合って、高木父との理解を十分に深めた上で、交際を認めてもらい、『本当の』本題を切り出すつもりだった。

だが和弘さんがあっさりと交際を認めてしまい、しかも僕のステータスに関しても何の興味も示さなかったのは正直誤算であった。もう少し興味を持ってほしかった。

あれだけ質問事項に対応できるようにステータス固めたのは何だったのだろう。爽やかで頼りがいのある男子高校生を演じるつもりであったが、その必要性は無かったようだ。

言葉が出ずに固まっていると、高木が何か言いかけた。

「あ、え、えっと…」


その瞬間、高木家の電話が鳴った。

どうやらこの空気に危険を感じた盗聴組が邪魔してくれたようだ。空気が悪くなったら電話して水を差すとは言っていたが、本当にそんな状況になるとは思わなかった。非通知設定をしているはずなので、誰から電話が来たのかは後から履歴を見てもバレないはずだ。

「あ、私、出るね」

と高木が立ち上がって電話に向かい、受話器を取ろうとした瞬間に電話が切れた。

「…電話線、抜いておけ」

和弘さんは予想外の事を口にした。今、電話に邪魔された事に腹が立ったらしい。おい、逆に空気悪くなったじゃん。

高木は渋々電話線を抜いた。もう盗聴組の助けは無い。高木が椅子に戻る。横顔に焦りが見え始めた。

もうこうなったら、挑むしかない。本当の戦いが始まる。


「…今日は、転校の件についてもお話したいと思っていました」

「ふん、そうだろうと思った。話を聞いて、説得にでも来たのか?」

僕を見下すようにして見る和弘さん。さっきのせいでかなり機嫌が悪くなったのか、さっきまでと比べて言葉一つ一つに重みが感じられる。

「はい。舞さんが転校する事には納得できません」

「仕事の都合だ。それは君が口を出す話じゃないと思うが?」

「確かにその通りです。ですが、急に転校というのは舞さんはもちろん、優人君にとっても――」

「君がそれ以上何を言っても、状況は変わらない。仕事の問題だ」

言葉を遮られ、完全にシャットアウトされてしまった。そもそも、こうなった時の準備をしていなかったのでこれ以上はアドリブにするしかない。

ラブラブっぷりを見せつければ引き離すのに抵抗が生まれる!とか最初は思っていたけど、この状況でそんな事できる訳無い。発想が乏しかった事に今更気付く。

「お、お父さん――」

「舞。お前には話しただろう?これから仕事を進めていく上で今の機会を逃す訳にはいかないんだ。お前と優人を残していく訳にもいかない」

どうやら和弘さんは人の話を最後まで聞かずに自分の意見を押し通す傾向があるようだ。高木が押されてたのも納得できる。

「一真君、だったかな。君は、そこら辺の事情を聞いているのだろう?それでも我が儘を言うと言うのか?」

それを言われると弱い。確かに、僕達が考えている事は我が儘だ。

「君は舞と離れたくないと思っているのかもしれない。今一緒にいなければこれからの事も考えられない程付き合いが薄いのかな?一生会えなくなる訳じゃない。彼氏として、家庭事情を把握する事も大切なんじゃないのだろうか」

和弘さんの言ってる事に、間違いが無かった。言われると弱い言葉ばかりが飛んでくる。

この状況、なんとか打開できないのか…。ずっと和弘さんと目だけは合わせているので、高木の表情は見えない。目を逸らす事だけは避けていた。

作戦会議の中で、徹底するように決めていたのは『目を逸らさない事』ともう一つ。

『絶対に折れない事』だ。


「和弘さん。急に転校と言われた、舞さんと優人君の気持ちは考えた上で言っているんですか?」

「舞は家族の時間を増やしたいと言った。それについては俺の理解が足りなかった部分もある。だからこそ、俺は向こうに行ってからは多くの時間を取るつもりでもあるが」

「それについて言ってるんじゃありません。住み慣れた地を離れる事についての気持ちを考えましたか?」

「……」

「お母さんの話も、和弘さんの仕事の話も伺っています。舞さんは辛い境遇でも、彼女は誰にも頼らず前向きに頑張っていました。そんな時、彼女は僕を頼ってくれた。ここから離れたくない、とも言った」

感情のままに言葉が出てくる。自分でも驚くぐらい、止められない。

「舞さんの話を、聞いてあげてください。耳を貸してあげてください。今、彼女が何を思っているのか、分かってあげてください」

「…君に何が分かる?俺の考えのどれだけを分かっている?君は舞の全てを分かっているのか?」

「何も分からないと思われているからこそ、僕は自分の出来る事をやらないといけない。高木の気持ちを和弘さんに分かってもらう、それが今の僕に出来る最大限の事なんです」

相変わらず僕は人に何かを訴えるのが下手だ。澪士の説得の時にも感じた事だが、相手にどれだけ伝わるのだろう。しかも『舞さん』じゃなくて『高木』って言っちゃってるし。

「僕は今まで高木のいろいろな部分を見てきた。クラスをまとめたり、誰かの為に一生懸命になったり、弟の世話をしたり、僕も何度も助けられてきました。ほんの一部でしか無いかもしれないけど、和弘さんが知らない部分も多く見てきました。そんな高木を見てきて、僕は決めたんです。高木が困ってたら、僕は力になる、って」

これは演技ではなく、本心からだ。

「僕は、高木の為なら自分を犠牲にだってする覚悟です。今、困ってる高木を簡単に見捨てるつもりはありません。例えそれが我が儘でも、認めてもらえなくても、分かってもらえるまで諦めません!」

勢いで僕は立ち上がった。絶対に折れない。つたない言葉でも、僕の精一杯の言葉を浴びせる。

「分かってあげてください!そして高木を行かせないでください!」

そして訪れる沈黙。

不器用な言葉は、和弘さんに届いただろうか。

数秒後、和弘さんは立ち上がった。

「…さっき、君は舞の為なら自分を犠牲に出来ると言ったね?」

表情一つ変えず、和弘さんは僕の隣へやってくる。


次の瞬間、胸ぐらを掴まれた。

「なっ…!」

突然の出来事に戸惑う。

「最近の子は簡単に『自分が守る』だのなんだの言うが、君の場合はどうなんだろうな?言葉に見合う姿勢を見せられるのだろうか?」

え、一体この人は何を言っているの?


「今から俺は君を殴る。大口叩くだけの根性が君にあるかな?」


え、えぇ?マジで?マジで殴られる展開?なんで?

「ちょっと待って、お父さん――」

「舞は下がっていなさい」

高木が立ち上がって僕達に近づく。

「下がってられる訳――」

「下がれ!」

急に怒鳴られ、殺気立っている父親から恐る恐る身を引く高木。いや、正直下がってほしくないんだけど…。

でも、あれだけ生意気な事言ったんだもんなぁ。怒らせて当然か…。でも殴る必要無くね?

「覚悟は良いか?あれだけ言っておいて今更逃げるような事しないよな?」

思いっきり睨まれる。完全に僕を殺す気だろ、この人。

…だが決めたんだ、僕は折れないって。ここで負けたら男が廃る。

「…殴るなりなんなり好きにしてください。その程度の事で、僕は諦めませんから」

そう言って睨み返す。正直凄い怖いけど、今は強がる事しかできない。

「た、小鳥遊!やめて、もう良いから――」

「大丈夫。こんな時ぐらい僕を頼れって」

一瞬だけ高木に向かって笑顔を見せ、すぐに和弘さんに向き直る。覚悟を決めた目を向ける。怖いけど、それを悟られないようにする。

「ふん、殴られた後もそんな口が利けるか?」

良いから殴るならさっさと殴れよ!焦らすなよ!

「言ったはずです。例え殴られても、僕は諦めないと」

今の僕にできる、精一杯の強がりだ。

「……歯、食いしばれよ」

その言葉を最後にして、和弘さんは右腕を振り上げた。


そして、目にも止まらぬ速さの右ストレートが僕の顔に直撃した。

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