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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
城戸澪士編
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第1.5章 日常

僕と同じく澪士は部活に所属していない為、帰りはいつも一緒に寄り道しながら帰るのが恒例化している。

今年から光も加わって三人組になりつつあるが、光は部活がそれなりにあるので二人だけで帰ることは最近でも少なくない。


一緒に教室を出て、昇降口へ向かう。廊下を歩いていると、一部の一年生女子は澪士に見惚れる。澪士はかなりのイケメンなので、普通に歩いていてもたまに女子生徒の視線を集めてしまう。

何度も告白されたりしているようなのだが、本人は誰かと付き合う気は無いらしく、どんなに可愛い子でも振り続けてるらしい。そんな余裕が一部の男子生徒から僻まれる対象にもなっているようである。

澪士自身はそんな事はどうでもいいようなので、僕もあまりその話題には触れない。触れると自分自身もちょっと悲しくなってくるしね。澪士にばかり視線が集まるのはもう慣れた。

帰りは本屋やゲーセンなど寄る事が多かったのだが、一年以上同じ事を繰り返していると流石に飽きてきてしまい、最近は真っ直ぐ帰る事が多い。

澪士が住んでるアパートは学校からそう遠くない所であり、僕は電車で帰るので駅まで行くのだが、下校中に澪士のアパートの前を通る為、そこで澪士と別れ、駅へ向かう、というのがいつもの下校パターンである。


下校途中はどうでもいい会話をするのも、またいつものパターンであった。

「澪士は文化祭何したい?」

「特に希望は無いな。……まぁ、去年のような物をやられても困るけど、少しでも楽しめたら良いんじゃないのか?」

澪士はクールなイメージがあるが、実は無口キャラではなく、結構喋る。低過ぎない綺麗な声である。

「去年、澪士は何の仕事したんだっけ?」

「入口で受付係だ。俺がシフト入った時だけ、女子の客足が極端に増えて男子の客足が極端に減った」

……そういえばそんな事あったなぁ。ちなみに僕は会計係だったっけ。ずっとレジだったな。でもレジに品物持ってくる客は多くなかったっけ。澪士に惹かれて入店しても何も買わずに帰っていく女子ばかりだった。

確かに澪士がシフト入った時には男性客が減った気がする。

「俺の事を嫌いな男子は結構いるだろうからな。特に三年生は」

「ただ妬んでるだけだろ。気にすることない。それにクラスの皆はお前の事嫌ってる奴なんていないだろうし」

僕や澪士と同じクラスの男子は基本的に澪士の事を嫌ってる奴はいない。澪士はクールだけど意外とフレンドリーだし、良い奴だって分かるんだろう。

今年初めて一緒のクラスになった奴の中には、「いや~俺、城戸に悪いイメージ持ってたけどそうでもなかったな!」的な反応をしてる奴も数人いた。媚売ってるだけかもしれないけど。


文化祭の思い出話、今年の文化祭の未来予想図を語りながら約二十分。話をしているとあっという間に時間が過ぎ、いつの間にかアパートの前へ着いた。

一年以上澪士と一緒なのに、実はこのアパートに足を踏み入れた事は一度もない。何度か行きたいと言ったのだが、あまり人に言えない事情があるのか、全て断られた。

澪士は両親が事故で亡くなっており、親戚の援助を受けながら妹と二人で生活しているらしい。妹さんに会ったことはないが、近所の学校に通う中学二年生のようである。澪士がこんなイケメンだから妹も凄い美少女かもしれない。

家庭に関してはあまり踏み入って欲しくないような雰囲気なので、それ以上は知らないし、今後追究するつもりもない。

「じゃ、俺はここで。また明日な、小鳥遊」

ちなみに澪士も僕の事は苗字で呼ぶ。まぁ、珍しい名字だし、呼びやすいしね。

「あぁ、また明日」

澪士と別れの挨拶を済ませ、僕は一人になった。


澪士のアパートから十分程歩き、駅に到着する。逆に考えると澪士のアパートは駅から十分。立地条件はそこまで悪くないんだな。

僕は実家から少し遠い学校に通っている為、父方の祖父母の家に住み込ませてもらっている。

実家に帰ろうとすると、電車に乗り、途中乗り換えを含めて約二十分、そこから自転車で坂道登ったりして約五十分。通学にそれなりの時間を要する。

だが祖父母の家だと電車一本、約十分で帰れる為、通学は一時間かからずに済むのである。学校が長期休暇の時は一週間ぐらいは実家に帰るようにしている。

というわけでいつものように祖父母の家へ帰る為に電車に乗って十分。

街中からちょっと離れた静かな地域にやってきた。

幼い頃から帰省する事が頻繁にあった為、見慣れた光景である。このちょっと田舎のような雰囲気は嫌いじゃない。

家までの道を歩いていると、前方にセーラー服を着た一人の女子中学生が見えた。後ろ姿に見覚えがあった為、僕は彼女に駆け寄っていく。

「よっ、菜々。今帰り?」

彼女は突然話し掛けられて一瞬驚いたようだったが、僕だと分かってすぐに微笑んだ。

「あっ……一真君。うん、そうだよ」

この子は雪村ゆきむら菜々(なな)、この辺に住む中学三年生。昔から帰省の度に遊んでいた為、仲が良い。

幼い頃、僕と妹はこの辺の子供達とよく遊んでいた。菜々は妹と同じ歳だったから特に親交があった。

菜々は肩をちょっとだけ越える長さの髪を二つに結んでおり、痩せ形でおとなしそうな子である。幼い頃は気にしなかったが、それなりに顔立ちは整っていて、率直に言うと可愛い。

菜々は僕の事を名前に君付けで呼ぶ。幼馴染……そこまで言えるような深い関係では無い気がするが、まぁそんな感じなので敬語も使わないし互いに同年代に対する接し方で気軽に話している。

「最近ちょっと顔合わせなかったよなーあれ、今日部活は?」

今の時間なら中学校でも部活をやっている時間だと考えられる。ちなみに菜々は吹奏楽部所属で、アルトサックスを吹いている。

「うん……今日ちょっと具合悪くて、授業終わったらそのまま帰ってきたの」

「あ、そうか……って具合悪い時に引き止めたりして悪かったな、大丈夫か?」

「うん、平気だよ」

口ではそう言ってるけど、菜々の顔をよく見てみると確かに熱っぽい。おでこに手を当てる、なんてことはしなくても、ちょっとした微熱があることは予想できる。

「んじゃ菜々、そんなに遠くないから家まで送ってやろう」

「え、大丈夫だよ、自分で歩けるから」

「いや、歩けるのは見てて分かる。誰も肩貸すとか言ってないから。せっかくだし、すぐ近くなんだからそれぐらい遠慮するなよ」

「うーん……わかった、じゃあ、久しぶりだしお話しながら帰ろっか」

「よし、じゃ決まりだな」

というわけで少し遠回りをして菜々の家まで向かうことにした。


その後、他愛もない話をしていると五分も経たないうちに菜々の家に到着した。

「ふーむ、昔はそれなりに距離がある気がしたんだけど、今だとそんな気しないな」

「うん、そうだね、昔はいろんな物、大きく見えたしね」

菜々は昔から大人しく、穏やかで、何か喋っても感情の変化が掴みにくかったりする。今ではなんとなくは読めるが、昔はちょっとやりづらかった。

「今度時間が空いたら近所に散歩でもしに行くか?昔遊んだ公園とか」

「うん、良いよ。でも公園の遊具とか結構減っちゃってるんだよ」

菜々は喋っていると「うん」と言う事が多い。会話の中に結構な数で「うん」が出てくる。

「ま、そんなんでも雰囲気だけでも感じられたら良いさ。んじゃ今日は早く寝ろよ」

「うん、分かった。ありがとう、一真君」

そんなこんなで門の前で菜々と別れ、菜々が家に入っていくのを見届けた後、裏道を通って家へ向かう。



僕にとって当たり前の日常で、穏やかな日々。

超イケメンな親友や、童顔でショタな親友候補、特に変な奴が混じってるわけでもないクラスの皆、住み込んでいる家の近くには年下の幼馴染。

どこにでもある生活とまではいかないだろうけど、決して非日常ではない。満足してるとは言い難いが、それでも不満はなかった。僕の理想である無難で『普通』な日々。

しかしこの後、近いうちに起こるとある事件をきっかけに、この先の僕の生活は決して『普通』とは言い切れないよく分からない事になっていくのだ。

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