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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
高木舞編
29/33

第16章 最後の猶予

いよいよ当日である。いつも以上に早起きして朝から特撮やアニメを鑑賞し、十分リラックスはできた。準備万端だ。

一応今日の服装は制服である。一番無難だろう。休日に制服で婆ちゃんが怪しんでいたが、適当に理由つけておいた。

そんなこんなで家を出る。ここに笑顔で帰ってこれますように。


午前十一時頃、澪士の家に到着した。既に皆到着しており、僕が一番最後だった。何故か凛が出迎えてくれた。

「おっはよー一真!一番最後なんて余裕だねぇ」

「集合時間には間に合ってるはずだろ。まぁ余裕なのは事実だがな」

建前でも何でもなく、当日でも僕は落ち着いていた。練習時間は多くなかったが、ここまでやって来た事に後悔は無い。

「じゃあ期待できるね!皆向こうにいるから、来ちゃって!」

そして先に居間へ向かう凛。で、何故この家の主である澪士ではなく、お前が来たんだ。


居間に来て唖然とする。

盗聴器で聴取した音声を流す機械やスピーカーが用意されていた。こんな物、マジであるんだ。

澪士と上条が手際良くセットしていた。澪士はこの作業から手が離せなかったようである。

「ちょうど用意できたところです。光君、この盗聴器に向かって何か喋ってください」

手に収まる大きさの盗聴器を光に手渡す上条。そして光は声を吹き込む。

「小鳥遊君、おはよう」

僕の方を向きながら盗聴器に音声が入るように喋る光。

するとワンテンポ遅れてスピーカーからやまびこのように、

『小鳥遊君、おはよう』

と光とほとんど変わらない声質の音声が流れてくる。

「はい、完璧です。これで私達もほぼリアルタイムに聞く事ができます」

おぉ、実際目にすると凄いな。上条がこんな物を所持している理由は聞かないでおこう。


「あ、あの、小鳥遊さん」

由愛ちゃんに声をかけられた。そういえば最後に会ったのは六月だったから、久し振りに顔を合わせた事になる。

「おはよ、由愛ちゃん」

「おはようございます。…えっと、事情はお兄ちゃんから聞きました」

「そっか、皆とも挨拶は済んだの?」

「は、はい。大丈夫です。え、えっと…今日は頑張ってください!」

由愛ちゃんに激励させ、やる気が湧いてくる。何だろう?由愛ちゃん、いつもよりぎこちない感じがする。

「お兄ちゃん!」

「おぉ、優人君」

優人君も既にこの場に来ていた。この子もそれなりに事情は把握しているはずだ。

「お兄ちゃん、今日のお芝居、頑張ってね!」

うん、多分姉からは「小鳥遊とはお芝居をするだけだから」とか念を押して言われてるんだろうね。本当に付き合ってるとか勘違いされるのだけは御免だろうから。

改めて辺りを見回す。澪士、光、凛、上条、由愛ちゃん、優人君、そしてさっきから黙りっぱなしの高木。ちょっと前では考えられないような顔ぶれである。

「高木、さっきからずっと黙ってるけど大丈夫か?」

「え、えぇ!?だ、大丈夫だよ!」

大袈裟に反応する高木。顔が青ざめているように見える。本人はめっちゃ緊張しているようだ。

まぁ、そうだよなぁ。演技とは言え、彼氏を父親に紹介するって事をする訳だから。しかも今日の結果次第でここから消える訳だし。気は張るだろう。

「さ、舞と一真で演技の最終確認をしよう!今日は聖香ちゃん達もいるから、新たな意見がもらえそうだよ!」

凛が練習を切り出した。お前、上条の事『聖香ちゃん』って呼んでたっけ?いつの間に親しくなったんだ?

というわけで最後の練習が始まった。上条、由愛ちゃん、優人君も見守る中、最後の仕上げである。


途中由愛ちゃんの手料理をご馳走になったりもして、軽く休憩を挟みながら長い練習も飽きる程行い、あっという間に午後三時を過ぎた。

流石にあれだけ緊張していた高木も今ではリラックスしている。

「完璧だね!仮にキスしろとか言われたら大ピンチな予感だけど、そうならなければきっと大丈夫!」

「キ、キス!?凛、な、何言ってるの!?」

おい凛、余計な事言ってこれ以上高木を焦らせるなよ。ってか流石に父親にはそんな事言われないだろう。

これから高木は一足先に家に戻り、父親を迎える準備をする事になる。僕が高木父と対面する予定時刻は午後五時。高木父は四時過ぎには家に着くようだ。そのタイミングで高木は「今日呼んだのは彼氏を紹介したいから」と父に告げる。

本番では、僕が高木と付き合っていると語り、これからのお付き合いの許可、慰留をする。

当然だがこの程度でそう簡単に納得して頂けるとは思っていない。関西行きは仕事の都合でもある訳だから、逆に悪い印象を与える可能性もある。どっちにしろチャンスは一度しか無い。どうなるかもまだ予想できない。土下座でもする覚悟だ。

「じゃ、じゃあ私、先に行くね」

高木が立ち上がった。皆それぞれ、高木に励ましの言葉をかける。

「舞、ファイトだよ!私、転校なんて認めないからね!」

「高木さんの気持ち、お父さんに伝わるよ!」

「高木、お前はやれるだけやったんだ。胸を張れ」

「貴方の気持ち、きっと伝わると思いますよ」

「自信を持って、頑張って来てください!」

「お姉ちゃん、頑張れ!」

次々に激励の言葉をかけられ、若干目が潤む高木。こんな高木も新鮮だ。

「高木。じゃあ、また後でな」

「…うん。皆、ありがとう。また、ね」

ここで、一旦僕と高木の『ただのクラスメート』という関係は打ち切りになる。次、顔を合わせる時は『恋人同士』だ。

そして高木は自分の家に向かった。


「…やべぇ、緊張してきた」

直前になって、初めて緊張してきた。考えれば考える程、自分の役目の重さを実感する。

「お前、さっきまでの自信はどこに行ったんだ」

澪士に突っ込まれるが、良い返事が思い浮かばないので無視しておく。

今は皆でお茶を飲みながらゆっくりと過ごしている。もうそろそろ、僕も出なければならない。

澪士の家から高木の家までは余裕で歩いて行ける距離である。今から出れば十五分前には着くだろう。

どうせだったら誰かにギリギリまでついてきて欲しかったが、皆本番を聞くのを楽しみにしているのでそういう訳にもいかない。

「小鳥遊さん、大丈夫ですか…?」

由愛ちゃんが心配そうに顔を覗きこんでくる。

「だ、大丈夫。この震えはきっと武者震いだから」

そうだ、これは緊張では無い。自分に言い聞かせる。

「その、終わったら皆で夕飯食べましょう。私、頑張って作りますから!」

おぉ、由愛ちゃんの手料理か。ディナーだったら昼以上の物が期待できるはずだ!それが待ってるなら更にやる気が湧いてくるぞ。

「ありがとう。…じゃあ皆、僕もそろそろ行く」

そして立ち上がる。高木に対する励ましと同じように、次々に激励してくれる皆。

この期待に必ず応えられるように、全力を尽くそう。


というわけで時間には十分余裕で着きそうなんだが、道中、大事な事に気がついた。


僕、高木の彼氏としての特訓はしたけど、肝心の高木を引き止める特訓はほとんどしてなくね?


今の状態だったら彼氏だと信じてもらえても、説得に関してはまた別の問題になる気がする。

…まぁ、勢いに任せるか。小細工が通用する相手じゃないだろうし。だからこそ、手土産も用意してない訳だし。

丁度良い時間になるまでマンションの前で待機し、時間と同時にインターフォンを鳴らす。その瞬間、本番スタートだ。


インターフォンを鳴らし、数秒後にドアが開いた。高木が出迎えてくれた。

「来てくれてありがとう。上がって」

と案内され、家に上がる。一瞬だけ高木と目を合わせ、頷き合う。

リビングで高木父本人と初顔合わせとなった。予想よりも身体は大きくスーツ姿で威圧感のある風貌だった。

高木父は僕が彼氏である、と娘から言われているはずなので、これからは僕の一挙一動に目を光らせる事だろう。

「お父さん。こちら、小鳥遊一真君」

僕は一歩前に出て、一礼する。

「初めまして、小鳥遊一真と申します」

「…舞の父親の和弘です。よろしく」

太い声で言葉を返し、会釈する高木父、和弘さん。門前払いは無さそうだ。第一関門突破と言えるだろう。

高木に椅子に座るように案内され、着席。高木がお茶を用意してる間、僕は無言のまま和弘さんと向かい合わせ。ここでは敢えて会話しない。和弘さんも必要以上に僕に視線を送ってくる事は無かった。

高木がお茶を用意し終わり、着席する。いよいよ、本題に入る時である。

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