第11章 物語の結末
週末は澪士や光と久し振りに遊びまくり、また月曜がやって来た。
不思議と心は穏やか。月曜の朝と言ったら学生にとっては週の始まりで地獄に突き落とされた気分になりやすいと思うが、最近は学校が楽しいのでそんな気はしない。
そういえば後二週間もしないうちに夏休みか。学校が楽しく感じられた時に夏休み突入なんて運が無いなぁ。夏休み明けたらまた嫌々登校しそうだ。
そろそろ脚本も仕上げに入らないと。愛川さんと試行錯誤しているが、もう少しで話が完結する見込み。夏休み前にはお披露目できるだろう。
夏休み中にクラス全員集まって練習する機会も何回か設けるつもりだ。担任は呼ばない。
「小鳥遊君はラストシーンをどうしたい?」
今日も昼休みは脚本作成しながら愛川さんと過ごしている。いよいよ終盤の執筆に入った。
「ラストシーンをどうしたい、というと?」
「ハッピーエンドかバッドエンド」
なるほど。ここに来て最重要ポイントだ。恋愛物でのラストか…。そりゃ結ばれるのが定番なんだろうけど。
離れ離れになってしまう、っていうバッドエンドも悪くないのかもしれない。あぁ、三角関係に発展して主人公が殺されるとかは無しで。
「私、思うんだけど…綺麗に終わらせるのも良いけど、それだとちょっと面白味がないかな、って」
「ふむ、それは確かに言える」
聴衆側からしたら、バッドエンドだと後味悪いかもしれないけど。
作品として、ここまでの内容だとどちらに転んでも上手くまとまりそうだから逆に困る。
「じゃあ愛川さんはバッドエンドが良い感じ?」
「うーん、私はハッピーエンドが好きなんだけどね」
どっちなんだよ。と言いたかったが伏せておく。
「僕達だけじゃ決めるのは難しいなぁ…ここは無難に多数決でも取ってみる?近々クラスで話し合う機会もあるだろうし」
「そうだね、皆の意見も聞いてみよっか。でも多数決取る前に、クラスの人に話聞いたりしてちょっと意見まとめておかない?」
「うむ、了解。じゃ、とりあえず考えておこうか」
というわけでひとまず今日の話し合いは終了した。
ラストの場面が悩み所だが、僕はここまでかなり面白くできてると感じていた。中途半端に幸せに終わらせてもなぁ…。うーん。難しい。
高木にでも聞いてみるか。女子的にどんな話を希望してるか聞いてみたい。
と思ったが、教室を見回しても高木の姿が見えない。凛と一緒に食べたりしてるのだろうか?ま、いないんだったら良いや。光と澪士にでも聞こう。
僕の席に座って光と雑談している澪士。最近僕は愛川さんと脚本執筆に忙しいので、澪士は空いた僕の席に座って光と二人で昼休みを過ごしている。そういえばそろそろ席替えとかしないのだろうか。
「あぁ、小鳥遊。席使うか?」
「いや、そのままで良いよ。それより二人に話を聞きたいんだが」
一瞬立ち上がりかけた澪士は再び僕の椅子に腰を下ろす。僕は二人の机の前に立った。前の席には誰も座っていなかったので、立つ余裕が十分にある。
「二人は劇のラスト、ハッピーエンドとバッドエンドどっちが良い?」
『ハッピーエンド』
二人でハモってそう告げる。即答かよ。
「…んじゃ澪士、お前はどうしてそう思うんだ?」
「俺は日頃からBLゲーを愛しているが、基本的にハッピーエンドで終わる物にはハズレが少ないんだ。禁じられた愛だからこそ、ハッピーエンドで終わった方が後味が良い」
「…今回の劇、BL物じゃないって事は理解してるんだよね?」
「当たり前だ。俺はそこまで馬鹿じゃない。ただ、俺が知る恋愛物と言ったらそのジャンルしかないんだから他にどうしようもないだろう」
内心澪士に訊ねた事を後悔しつつ、一つの意見として頭に入れておきながら次は光に訊ねる。
「じゃ、光。理由は?」
「やっぱり、ハッピーエンドの方が話としてまとまる気がするよ。どんな展開になってるか分からないけど、幸せが一番!」
「相変わらずお前は純粋だな」
「駄目なの!?」
いや、駄目じゃないけど。ここまで濁りが無い人間も珍しい。
二人ともハッピーエンドを選んだか。これは多くの意見を聞いてみると面白くなりそうだな。
と、ここで今の話題と関係の無いある事を思い出した。ついでに今澪士に聞いておこう。
「なぁ、澪士」
「どうした?」
「お前、学校にこの前BLゲーム持って来てたけど、何で持って来てたんだ?学校に持ってくる必要性はないんじゃないの?」
あんな大きな箱をわざわざ鞄に入れてプレイする訳でも無いゲームを持ってくる理由が謎だ。
ずっと気になっていたが、いつも聞くのを忘れていた。
「簡単だ。あのゲームを二週間外で持ち歩くとちょっと良い事があるって噂がネット上で流れてたからだ」
「それ絶対ガセだろ!そんなデマ情報のせいでお前不登校になったのかよ!」
澪士の為にあれだけ苦労したのが馬鹿みたいに思えてきた。
デマ情報を流すのは、やめよう。世界中の人々に切実に訴えたくなった。
そこで予鈴がなった。午後の授業が始まるまで、後五分だ。
すると教室に帰ってくる高木が見えた。今のうちに高木の意見を聞いておこう。僕は高木に駆け寄った。
「高木ーちょっと良いかー?」
「…小鳥遊……」
高木は表情が暗く、元気が無さそうだった。具合でも悪いのだろうか。
「…高木?大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。…あの、小鳥遊」
大丈夫と言っておきながらも全然大丈夫そうじゃない。今思えば、教室での様子は朝からずっとこの調子だった気がする。
「…放課後、ちょっと話があるから良い?」
「え、あ、あぁ」
「…じゃあ、お願いね…」
そして無理に微笑んで自分の席に戻っていく高木。結局ここではまともに話ができず、高木が何を僕に言いたかったのか疑問に思って午後の授業は集中できなかった。
放課後。澪士と光はそれぞれ生徒会と部活に行き、他のクラスメートも教室から姿を消した。
教室には、僕と高木の二人だけ。放課後に教室で二人っきりにはもう慣れた。
高木は相変わらずテンションが低く、どこか思いつめた表情をしていた。
「…高木、本当にお前大丈夫か?ずっとそんな調子だけど…」
返事は無い。
具合が悪い、というよりは深い悩みを抱えてそうだった。
「…小鳥遊に、言っておかなくちゃいけない事があるの」
高木は僕に向き直り、何かを決心したかのようにして話し始めた。
え、何?言っておかなくちゃいけない事?そんな真剣な表情で?
この前、僕は自分を頼れと言った。高木が何かを抱えているなら、僕が力になると。
早速相談事だろうか?高木の表情からすると内容は随分と重そうだ。
「な、何…?」
高木は口を開いた。
出た言葉は、僕の想像よりも遥かに重いものであった。
「…転校、することになった」