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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
高木舞編
21/33

第8章 昼休みの二年六組

なんとか落ち着いたので、今日の所はひとまず引き上げようと思い、今僕は高木家の玄関にいる。

「小鳥遊…突然で驚いたけど、優人と遊んでくれたんでしょ?…ありがとね」

何故か全然違う方に目線を向けて僕にそんな事を言う高木。素直じゃないな。

「お兄ちゃん、また来てくれる?」

優人君もここまで見送りに来てくれていた。

「あぁ、もちろん。僕も楽しみにしてるからね」

そして微笑み合う僕と優人君。

で、ここに来て大事な事を一つ忘れていた事に気がついた。

僕はまだ、高木に謝っていない。

「高木、あの…」

僕が高木に呼び掛けると、高木は何かを察したようで、

「優人、ちょっとごめんね。小鳥遊と二人で話したいから、少しの間リビングに行っててもらえる?」

「うん、分かった」

高木は気を遣って二人だけにしてくれたようだった。素直に従ってその場から姿を消す優人君。

「…で、どうしたの?」

腕を組んでちょっとやりづらそうにしながらもそんな事を言う高木。何を言われるか察しつつも、僕の口から出る事を待っているようだ。

「…昨日は、ごめん。もう少し真面目にやるべきだった、って反省してる」

やっと言いたかった事を言えて、とりあえず安心する。頭を軽く下げ、すぐに上げて高木の顔を覗くと、高木は柔らかい笑みを浮かべていた。

「…別に気にしてないよ。私もちょっと大人気なかったかな。わざと過剰に反応したから」

「え、わざと?」

「その程度の事でマジ切れしてたら身体壊しちゃうよ。小鳥遊がこういう時に手抜くのは、この前の選挙の時でも目にしてるし、別に驚く事でもない。ただ、今回はもう少し真面目にやってほしかったから」

なるほど。学校で高木と目も合わせられなかったのはそのせいか。高木は意図的に僕を避けていたって事だ。

僕は澪士の選挙の時にも、演説する文章を直前まで考えてなかったりして、仕事を中途半端にするという点は高木には既に知られていた。だからこそ、早めの段階で手を打ったって事か。…完敗だ。

代表委員になった時は意気込んだ事もあったけど、考えと行動が一致してなかった。僕はもう少し、自分の仕事に向き合うべきだろう。

「…なんだか高木には何やっても勝てそうにないな。頭が上がらないわ」

「私も、小鳥遊には何やっても負けないだろうなって思う」

「…お前から言われるとちょっと複雑な気分だな」

そして二人で軽く笑い合う。ひとまず関係は修復できた。寧ろこうして笑い合えたなら、前よりも仲良くなれた気がする。

「ちゃんと明日から頑張ってよ?私の足を引っ張らないように」

「はい、高木さんについていくだけじゃ駄目だね。明日から本気出す」

頑張らないとな。高木を引っ張って行くぐらいじゃないと。たまには男らしくなってみるか。

「優人ーもう良いよー」

高木が少しだけ声のボリュームを上げて、リビングにいる優人君を呼び出す。すぐに優人君はやって来た。僕は玄関のドアを軽く開けた。

「じゃ、優人君。僕は帰るよ」

「うん。またねっ」

満面の笑みで僕に小さく手を振る優人君。どうやら僕は本当に気に入ってもらえたようだ。また来よう。僕もこの子と遊ぶと素直に楽しめる。

「小鳥遊。また明日ね」

高木から「また明日」なんて台詞が出たもんだからちょっと驚いた。ってか女子からそんな事言ってもらえたのは初めてだ。

「あぁ、また明日」

そして僕は高木家を後にした。


数日後。七月に入り、化学の追試も無事に終わった。

高木だけではなく光や澪士の手も借りて準備がしっかりとでき、あれからすぐにやってきた追試は万全の状態で臨む事が出来た。

といってもやっぱり苦手教科なので七割程度の得点率であったが、合格ラインを越えていたので、ひとまず乗り越えられたという事になる。

澪士も正式に生徒会長となり、先日引き継ぎを終えた。

文化祭の準備も脚本が順調に進んでいて、脚本前半部分の演技練習に取り掛かり始めた。

演劇部から参考資料をもらい、世界観に合わせた衣装やセットの準備も始まった。演劇部には高木の親友である凛がいるので、簡単に協力を得られた。文化祭は十月なので、なかなかの完成度を誇る劇ができそうだ。

僕は美術系の能力に欠けるので、そこら辺の協力をしようとしても足を引っ張るだけになりそうだった。というわけで今は愛川さんに協力する事になり、二人で脚本作成に励んでいる。愛川さんからすると僕の協力が得られると全然違った観点からの意見がもらえるので、凄く助かるのだそうだ。理由が少し引っかかるが、他で足を引っ張るよりはマシだ。

今は昼休み、愛川さんと脚本のアイディアを出し合っている。最近こう言った状況が増えつつある。

「もう少し、序盤で驚きの展開を加えたいんだよね」

と愛川さんが言ったので、

「じゃあ開始五分で西野が澪士に殺されれば良いんじゃね?」

と返したら、

「わぁ、流石小鳥遊君!それ採用!」

と反応され、あっさりと僕の意見が脚本に採用される。今の所、何を言っても採用されているので脚本には三割ぐらい僕が考えた案が含まれている。

「おい小鳥遊。俺役者じゃないんだが」

どうやら話が聞こえていたようで、話題に出た西野にしのが僕達の元にやってくる。西野は澪士の隣の席の身体ががっちりとした奴で、ラグビー部。

「西野。どうせお前今の段階で何も仕事が無い状況だろ?五分で殺される役なんだから多分楽だぞ」

「あ、そう言われてみればそうだな。じゃあ俺、喜んで死ぬぜ!」

馬鹿で助かる。

「待って、小鳥遊君。西野君の首が吹っ飛ぶのは良いんだけど、城戸君が西野君を殺す理由が見当たらないよ?」

「あぁ、それもそうだなぁ。じゃあ西野が澪士に性的な事をしようとして、返り討ちにあった事にしよう」

「ちょっと待てお前ら!まず愛川、俺の首吹っ飛ぶの?そこまでは聞いてないぞ?そして小鳥遊、なんでそんな簡単に俺の悪いイメージが浮かぶんだ?」

「だってお前ガチホモだろ。この前の話し合いでも澪士の意見に賛同してたし。リアルでそうなんだから、劇でもやりやすいだろ」

この前の話し合い、とは劇の内容を決めた時の事である。澪士はBL劇場を提案した。

「ホモでもねぇしあいつの意見に賛同してもいねぇよ!あの時周辺の奴らで話し合ったけど、城戸の意見に賛同した奴はいねぇって言っただろ!」

西野が無駄にでかい声で話すもんだから、教室中に響き渡った。皆の視線がここに集まる。

「西野!お前は一番俺のBL好きを理解してくれた奴じゃないか!」

光と弁当を食べていた澪士が西野を指出して声を荒げて言った。なんか面倒な事になって来た。

「してねぇよ!なんでお前も小鳥遊も俺をホモキャラに仕立て上げようとするんだよ!な、なぁ井場、木田。この前の話し合い、俺達は城戸の意見なんかガン無視してたよな?」

この前の話し合いで澪士と共に話し合った男子、井場いば木田きだに助けを求めた西野。

「いや、正確には俺と木田がガン無視だったんだ。お前は息を荒げて賛成してたじゃん」

「そうだ、もう素直に認めろよ。城戸はBL好き。お前はガチホモ。俺と井場はいたってノーマル。そう言う事だ」

良いコンビネーションを見せる井場と木田。こいつら急に話を振られてもノリ良いな。

「俺はこのクラスが大嫌いだぁぁぁぁぁ!」

そう叫んで自分の席に戻り、机に伏せる西野。肩が震えているが誰も慰めようとはしない。ま、これで静かになったので良しとしよう。

とにかく、前半で西野が澪士の貞操を奪おうとして殺される展開さえあれば、意外性があるだろう。ひとまず安心だな。

また脚本作成に戻ろうとした僕と愛川さんだが、そこに高木がやって来た。

「あの、一応高校の文化祭だから。ある程度は自重してよ?」

どうやらさっき西野が騒いだ事もあって今取り入れようとしている案を耳にし、注意しに来たようだ。

「じゃ愛川さん、そこら辺はある程度ソフトに書いてくれ」

「うん、分かった!良いのが書けそうだよ!」

「…小鳥遊、ソフトに表現すれば良いってもんじゃないよ?愛川さんも、ちゃんとそこら辺考えてね?」

心配そうにする高木だが、西野と澪士の絡みを無理矢理削ろうとはしない。それにしても愛川さん、ノリノリである。

「それより小鳥遊、少し話があるから来てくれる?」

と言って僕の返事を待たずに教室の出口へ向かう高木。珍しくマイペースな所を見せる。

僕はすぐに後を追った。


連れて来られたのは階段の踊り場。相変わらず少人数で話すにはうってつけの場所である。定番スポットだ。

文化祭の話でもされるのかと思いきやその予想は外れた。

「あんた、明日の夜暇?」

「明日の夜?特に用事は無いけど」

明日は金曜。学校が終わってからは部活も無いし家に帰るだけだ。

「優人があんたと遊びたいって。結局あんたこの前の一回きりで私の家に来てないよね?」

そう言えばそうだった。また来るよーとか言いつつ、あれから優人君と顔を合わせていない。

「だから良かったら明日の夜でもどうかな、って。せっかくだから夕飯もご馳走するから」

「マジで?」

高木が夕飯をご馳走してくれるだと?優人君の為とは言え、そんなお誘いは意外過ぎたぞ。

「で、どうなの?」

「あ、あぁ大丈夫。明日の夜ね」

「じゃあ明日、学校終わったら一緒に私の家に直行ね。話はそれだけだから。よろしくね」

話す事を終えた高木はさっさと教室へ戻っていった。

…え、明日は高木と一緒に下校するの?なんだか最近僕、高木と親しくなり過ぎてないか?

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