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小鳥が遊ぶ庭  作者: 桜光
高木舞編
20/33

第7章 ゲームの腕前

試合が始まった。一回表、優人君チームの攻撃。

まず手始めにインコース高めにストレートを投げてみた。比較的甘いコースである。

すると、優人君は初球の甘い球を見逃さずに反応して打ち返し、センター前ヒット。早速無死一塁。

「お、やるねぇ」

と僕が言うと、

「お兄ちゃん、手抜いたりしなくて良いからね?」

無垢な表情でそんな事を言う。む、この子自信満々だな。

次の打者には高めからストライクゾーンにギリギリ入るように狙ってフォークを投げてみる。普通こんなフォークの使い方はしないけど。

そんな球も優人君は鮮やかにレフト前へ運び、まだ二球しか投げてないけど無死一二塁。優人君は初球から容赦無く狙っていくタイプのようだ。

次の打者にはアウトコース低目に落ちていく球を投げてみた。

カーンッと良い音がして、優人君が操作する左バッターの打球は簡単にレフトスタンドへ突き刺さっていった。ホームラン。優人君、三点先制。

「…」

あまりにも対応が良過ぎたもんで、呆気にとられる。言葉が出ない。

この子、相当やり込んでるな。僕もかなりやり込んだが、ここまでポンポン打つのはなかなか難しい業だ。

「…お兄ちゃん、手抜いてるよね?」

「…あぁ、そうだねぇ。ごめんごめん。本気出すわ」

ここで手抜いてなかったら焦ってただろうな。良かった良かった。この子、今まで僕が対戦してきた誰よりも上手い。下手すると僕以上の実力を持ってるな。

というわけで四番から六番までは配球に気を遣って確実にアウトを取り、一回表終了。

「お兄ちゃん、最初から本気出せば良かったのに」

「いやいや、僕は後半からエンジンかかるタイプだ。きっとどんどん強くなるぞ」

「そうなんだぁ。このゲーム、友達とやってもボクとやると試合にならない事が多かったら、今ボクすっごく楽しいよ」

僕と同じ境遇だったのか。この手のゲームって上手くなり過ぎると途端に寂しくなるんだよね。

とにかく、三点先制された訳だからまずは取り返さないと。手加減は無用のようだ。

まず先頭打者で簡単に出塁し、次の打者で送りバントを決めて得点圏にランナーを進める。三番打者で右中間へのタイムリーツーベースを決め、四番でスタンドへ突き刺してあっという間に同点になった。

意外とすぐに同点になって驚いたが、直後の優人君の一言に更に驚いた。

「これで同点だねっ」

…まさかこの子、僕がさっき手加減したから、同じように手を抜いたって事か…?

「…優人君、ここからは遠慮しなくて良いぞ。君とは本気でぶつかり合いたい」

「大丈夫。ボク、負けるつもりは無いよ」

こうして僕と優人君の死闘が始まった。


三十分後。同点で迎えた九回裏、僕が代打サヨナラホームランを決めて試合は終了した。

まさかこの子に九点も取られるとは。初回以降は一切手を抜いていないのに、僕から六点も奪うとは恐れ入った。容赦無くその都度取り返していった僕も大人気無いが。

「あー負けちゃった。でも楽しかったよ」

悔しさが少し顔に出ていたが、ここまで白熱した試合は初めてだったのだろう。優人君は満足気だった。

なんだかこの試合を通して、僕と優人君は随分と親しくなった気がする。ついつい本来の目的を忘れてゲームに夢中になっていた。

「僕も楽しかった。優人君、このゲーム相当やり込んでるんだね」

「うん、お姉ちゃんがいなくて暇な時とかボク、ゲームやる事多いから。このゲームは特に好きだったんだよ」

このゲームが出たのは三年ぐらい前だから…優人君は幼い頃から打ち込んでたのかもしれない。更にびっくりだ。

「お兄ちゃん、またゲームとかしてくれる?」

「あぁ、僕も久々に楽しめた。またやろうな」

そんな会話をしていると、扉が開いたような音がした。どうやら高木姉が帰ってきたようだ。

「ただいまー………?」

リビングに入って来た高木と目が合う。

「お姉ちゃん、おかえりー」

「…おかえり」

一応迎えておこう。「お邪魔してます」ぐらい言っとくんだったかな。

「……」

目をこする高木。まるで幻でも見てるんじゃないかと言わんばかりに。

「高木、まず手洗って来いよ。菌とか目に入ったら危ないぞ」

「……そうだね」

そして荷物をテーブルの上に置いて手を洗いに行く高木。無言のまま待つ事三十秒。

再びリビングに高木がやって来た。

「……なんで小鳥遊がいるの!?」

「そのリアクションもうちょっと早くても良かったんじゃない?」

こんな状況、現実リアルでもあるんだね。人って思いがけない事があると異常に冷静になれるんだ。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんはお姉ちゃんに渡したい物があって――」

「お義兄ちゃん!?小鳥遊、あんた人の弟に何を吹きこんだの!?」

「何も吹きこんでねぇよ!お前いつものように落ち着けよ!」

「あんた自分の家に突然私が来てたら正常な思考ができる!?」

数秒間、想像してみる。家に帰ったら、爺ちゃんと高木が将棋をやっていた。

「できねぇ!正常な思考できねぇわ!」

「だからこんだけ驚いてるんだってば!」

とても賑やかな高木家の夕方であった。

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