第4章 文化祭の話し合い
「というわけで、今から文化祭で私達が行う劇の話し合いを始めます」
今週もLHRの時間がやってきた。何故かこの時間がある日は毎週消える担任。何なんだあの人は。
いつもの話し合いのように高木が前に立つ形になっているが、今回は少し違った点が一つ。僕も高木の横に立っている。
話し合いを取り締まる役なんて小学校以来だよ。中学校時代は学級委員とかやらない限り仕切る事もなかったし。
「とにかく、今のうちから予めひとりひとりがやる事を決めて、夏休み中にある程度仕事を進めておくようにしたいんだけど、文句のある人いる?」
高木の問いかけに黙りこむクラスの皆。ほんのちょっと脅迫っぽいような気がしなくもないが、高木はいつもこんな感じで場を仕切る。案外こんな感じの方がテンポ良く話が進むのである。
うん、僕いらないんじゃね?僕代表委員だけど、もう学級委員だけで良いって誰もが思ってるよね?
「特に無ければ話を進めます。あぁ、小鳥遊、黒板書記お願い」
「はい」
早速雑用係が定着しそうだ。昨日勉強教えてもらった分、そのお返しの意味も込めて今は素直に従っておこう。とりあえず黒板に『劇』とだけ書いておく。
「まず、公演する劇の中身だけど。単純に選択肢は二つ。既存の作品か、オリジナルか」
クラスがざわつき始める。ここは大きな分かれ目だ。当然、どちらを取るかでこれからの動きに大きく影響してくる。
オリジナルとなると脚本作りが非常に重要になってくる。かといって既存の作品だと新鮮味に欠けてしまうという点もあり、なかなか難しい所だ。
「多数決とか取る前に、意見のある人いる?どっちが良いか、理由を添えて言って。周りの人と話しても良いから」
そしてそれぞれ小さなグループを作ったり、隣同士で話し始める皆。うちのクラスはこういう時余ったりする人がいない分、平和である事が感じられる。
澪士は近くの男子と、光は周りの男女でグループを作ってそれぞれ話し合っている。
「なぁ高木、お前はどっちが良いと思うんだ?」
僕と高木も自然と二人で話し合う形になる。
「うーん、難しい所だよね。オリジナルだと、脚本次第で作品の価値が左右されるから」
「そうなんだよなぁ。誰か脚本書ける人とかいれば良いんだけど」
「ただ書けるだけじゃ駄目。話を書き始めるのは誰だってできるけど、それを上手くまとめられなかったら意味が無いの。そういうスキルも重要だから」
高木の言葉に唖然とする。そこまで深く考えてるとは思わなかったわ。しかも正論だ。
となると、オリジナルは難しそうだな。やっぱ既存の作品にアレンジ加えつつやるのが無難なのかな。
「はーい、それじゃ意見がまとまった人、いたら挙手して。グループで話し合ったなら、誰か代表の人で良いから」
仕切り直す高木。全員が一斉に前を向く。何だろう、高木のやってる事は割と普通なのに皆ついてくるんだよなぁ。高木の力恐るべし。
「はい」
「お、城戸。言ってみて」
澪士が手を挙げて立った。こうした場で意見を言うタイプじゃなかったが、やはり次期生徒会長ともなると少し変わってきたようだ。そして相変わらずイケメンだ。
「今、この近くの男子で考えてた事なんだが…」
「そこら辺の男共ね。何?」
「男性同士の恋愛模様を描いたオリジナル作品を――」
『言ってねぇよ!』
即座に周りの男子から突っ込みが入る。
「おい城戸、それお前が一人で語ってた事じゃねぇか!さらっと俺達皆の意見みたいに言うなよ!」
「いや、お前ら笑顔で喜んでただろ、俺の意見」
「喜んでねぇよ!お前の意見が出た途端皆ガン無視して次の意見考え始めてたわ!」
あぁ、澪士、話し合ってるかのように見えたけどそれは僕の幻覚だったようだな。お前、そのうちうちのクラスで余り者第一号になるぞ。
「…小鳥遊。城戸の意見、一応書いておいて」
「えぇ!?あれ書くの!?」
流石に高木のその指示は予想してなかったわ。
「今は一つでも多くの意見を出しておいた方が良いから。少数意見の尊重」
そういえばこいつ、なんだかんだ言って人の意見は大事にするな。僕が出し物の話し合いで多国籍料理店提案した時は文句言いながらも黒板に書いてくれてたし。いつの間にか案としては消滅してたけど。
とりあえず、黒板には簡略して『BL劇場』と書いておく。
「小鳥遊、その書き方は不十分だな。確かに間違ってはいないが俺がやりたいのは――」
「澪士、これ以上の事書いても通る事は無いだろうから、その辺にしておけ」
僕に言われて拗ねたような顔しつつも素直に従って座る澪士。…もう皆知ってるからってBL好きをここまで広げてるのはいかがなものか。
「はい、城戸と周辺の男子が腐男子になったって事が分かったからそれはひとまず置いておいて――」
『なってねぇよ!』
すかさず高木に突っ込む周辺男子。今はノーマルでも、いずれ澪士に感化されそうで怖い。
「他にある人、いる?」
「はい!」
今度は元気良く光が手を挙げた。澪士の時よりはまともな意見がもらえそうだ。
「はい、星野君。言ってみて」
「えっと、ここの皆で考えてた事なんですけど」
光の周りの男女か。日頃からそれなりに仲の良いメンバーだし、良い意見が出そうだ。
「動物達の音楽会はどうかな?」
対象年齢低っ!高校の文化祭でやる内容かよ!
「…星野君、具体的にどんな内容やりたいの?」
「えっと、最初は狼さんが一人ぼっちでチェロを奏でてるんだけど、なかなか良い演奏ができないんだ。でも、森に住んでる動物達がどんどん集まってきて、演奏のクオリティが上がってくるんだよ」
意外と深い話だった!だが高校生受けするとは思えん。そりゃ一般客として子供も来るだろうけどさ!
光の周りもうんうん頷いてる。お前ら、光の意見に適当に賛同してるだけだろ。
「…小鳥遊。星野君の意見、一応書いておいて」
「えぇ!?良いの!?」
「少なくとも城戸のよりマシ」
「あ、そうか」
納得して黒板に書き始める僕。『動物達の音楽会』。そして光が席に座る。
「小鳥遊!お前、俺の意見より星野の方が良いって言うのか!?」
大きな音を立てて澪士が立ち上がった。
「うん」
「即答するなよ!お前、俺の事任されたって言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか!?」
途端、クラスの連中の痛い視線が僕に集まる。近くにいる高木が一番痛い視線を送ってくる。待て、皆誤解してるぞ。僕と澪士の関係はそんなんじゃないから!
「確かにお前の妹に言われたけど、そういう意味じゃねぇよ!誤解を招くような言い方するな!良いから黙って座れ!」
律義に黙って座る澪士。いや、マジで黙って座られると逆に困る。周りなんか「城戸が小鳥遊の命令に従ったぞ…」とか言ってる。違うよ?澪士は僕の下僕とかじゃないからね?
なんだか一々疲れる会議はまだ終わりそうもない。