プロローグ ~高木舞編~
『普通』の判断基準はどこにあるんだろう。最近また疑問に思い始めた。
『普通』とは、ごくありふれたものであって、特に変わっていない、という事である。ではその判断基準はどこにあるんだろうか。
それは個人個人の感性にもよるだろうから、一概には言えないかもしれない。
例えば自分が『普通』だと思っても、周りはそう思っていないなんて事は珍しくもないだろうから、やはり物の見方によって変わってくるのだろう。
自分の視点から見れば、僕は『普通』な方だと思う。それなりのレベルの進学校に通う高校二年生の男子生徒。
特に目立つ長所もなく、成績も中の上程度。運動はできるわけではないが、できないわけでもない。部活動は未所属。
テレビはそれなりにチェックするし、流行りの音楽もある程度は理解しているつもりだ。だが最近は見知らぬアーティストが増えてきたので少し疎いのかもしれない。
週に何回か深夜アニメもチェックしたりする。最近の高校生にとっては、そこまで異端でもないだろう。
日曜の朝は特撮なんかも欠かさずに視聴する。幼い頃から見逃した事が一度も無い程大好きだ。周りに勧めたりもしているのだが、あまり同士はいない。
あぁ、後いろいろとあって最近百合に目覚めつつあります。これもそこまで異端じゃないね。うん、普通だ。
何か珍しい特徴があるかと言えば、苗字が『小鳥遊』であることぐらいである。生まれてから今まで、同じ苗字に親戚以外で遭遇したことは無い。
ちなみに恋愛経験は生まれてから限りなくゼロに近い。生まれてから自分の顔を憎んだ事は無いし、性格も破綻してるつもりはないのでスペックが不足している訳ではないと思うだが、決して完璧とは言い難いのは事実である。告白されたこともないし、誰かを好きになっても告白なんかする事無く、気がつくと冷めているのがいつものパターンだ。
高木舞。我が二年六組の学級委員長。
成績優秀でルックスも良く、委員長気質で頼れる存在。残念ながら男子に対して過度に冷たい所があるのが欠点。
今年からクラスが一緒になった女子だが、特に仲が良い訳でもなく、普通のクラスメイト同士と言ったところ。友達以上になる予感すらせず、今以上に関わり合う必要性も感じられない。
一か月程前に行われた生徒会長選挙で少し複雑な事情があり、会話が増えたりもしたがそれ以降は特に絡む事もなく、また当初の関係に戻りつつあった。
そんな中、文化祭のクラスの出し物で、二年六組は劇をやる事になった。
劇をやろう、と何気なく言ってしまった僕はこのクラスの代表委員兼責任者という出来る事なら関わりたくない役職に就いてしまったのである。
学級委員長である高木との二人三脚でクラスを引っ張っていく事になった僕、小鳥遊一真。
正直な話、高木が先導してくれそうなので僕の仕事は相当減るんじゃないかな、って思ってた。
そんなんでもやるからには、二年六組の出し物を校内一位にしてやろうとか意気込んだりもした。
いや、まぁそれらについては今も変わらず思ってたりもするんだけどさ。
そんな事はともかく、当初の予想を越えて、僕と高木の関係までもが大きく変化する事になるのは僕達はもちろん、他の誰も予知していなかっただろう。