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雨の日のマリアンヌ 城を見て回る

 執事に連れられてマリアンヌは訓練場へと向かった。廊下は今日は静かだった。みんなそれぞれ雨の日のやることをしていることだろう。せわしなく働く配下の者たち。マリアンヌは私はなんて果報者なのだろうかと考えた。働き者の配下の者たちを思うと朗らかな気持ちになった。

 訓練場は1階の端にある。いつもは兵士くらいしか行かない。たまに王が見物に来るくらいである。兵士の状況を確認し、軍事に活かすためである。兵士に活気がなければ勝てる戦も勝てなくなる。そう考える王は兵士たちのことを気にかけていた。

 1階に来ると陳情に来ている人たちがいた。雨の日なのにご苦労様とマリアンヌは心の中で言った。下手に声をかけると恐縮してしまうからここはそっと見守ることにした。陳情に来ていた人たちの顔は真剣そのもの。自分たちの生活が懸かっているから当然である。何の陳情かは分からないが、とにかく生活を少しでも改善したいという思いがあってのことだろう。

 人生は解決しなくてはいけないことで山積みだ。しかし、人は兎角理由を付けては解決しようとしない。わかったから理解したからと受け入れたふりして耐えてしまうのだ。それは健全なことのようにも思えるが、だが、問題は確実に深刻になる。解決できることは解決できるうちにした方が良い。

 マリアンヌにも解決すべき課題はある。公にできないことも含めて。しかし、今のマリアンヌは幸せでいっぱいだった。気分は高揚している。だから、今は共感とは程遠い感情で第3者として彼ら陳情者を眺めていた。

 陳情者は一人ずつ呼ばれて奥へと行った。待っている人は雨で濡れていた。この国では雨の日に傘をさす習慣があまりなかった。雨の日は濡れないとこで過ごす。そういう考え方の人たちが、雨の日にも関わらず陳情に来ている。見守ることにしていたマリアンヌだが、何かその気概に施しをしてあげたいと思った。


「ランドン、彼らにタオルでも貸してあげて。」


 マリアンヌは濡れた体を拭くものを与えようと考えた。これならいらぬ誤解が発生することは防げる。陳情者に肩入れしたと思われたらまずい。公平さを重く持つ我が家ではやってはならないことである。

 ランドンはにこやかに言った。


「それはよいことでございます。すぐに手配しましょう。そこの君。」


 ランドンは陳情者たちを誘導していた者に声をかけた。


「マリアンヌ様からのご命令だ。あの者たちにタオルを貸してあげなさい。」

「しかし、それは陳情者への肩入れになるのではないですか?」

「それくらい問題ない。早くしなさい。」

「はぁ、わかりました。」


 指示を受けた者は側にいた者に2,3言葉をかけて、城の衣服がある方へと向かった。

 マリアンヌは満足だった。下々の者に気前よく施しをする。今の気分と相まって空を飛んでる気分だった。


「では、行きましょう。ランドン。」

「はい。」


 マリアンヌと執事のランドンは訓練場へと向かった。

 マリアンヌが歩いていると向こうの方から学生が来た。この国では学生は専用の服装をしているから一目でわかる。

 何しに来たのだろうとマリアンヌは上機嫌のあまり声をかけた。

 軽い気持ちだった。


「そこのあなたこんな雨の日に城に何しに来たの?」


 学生は恐縮しながら言った。


「城の書庫にある本を読みに来たのです。」


 いつになく興味を持ったマリアンヌは聞いた。


「それはどのような本なの?」


 学生は緊張しながら言った。


「はい、100年前の法令集です。今度、研究室で法律の研究に関する発表するんです。私はこの地域の法律の歴史について発表しようと思いまして。」

「それは素晴らしいですわ。過去のことを調べることは今を理解することにつながるわ。どんどん調べなさい。」


 マリアンヌは研究に努める彼を素晴らしい活動をする人だと思った。今の彼女には何もかもが感動することになるのである。人生において何かを突き詰めることは中々できない。大抵の人は見つけることが出来ずに人生を終える。それを見つけられた時点で成功失敗如何に関係なく幸せなことなのである。成功や失敗は過程に過ぎず、見つけられた時点で幸せな結果は出てるのである。マリアンヌにとって突き詰めたいことはジョージの良き妻になることである。その点、マリアンヌは学生に共鳴している。研究と結婚。全く違うことだけど誰かのために生きる点で変わりはない。


「呼び止めて申し訳なかったわね。」

「いえそんな大丈夫です。」


 ここでマリアンヌは思いついた。幸福感がこの考えを出した。


「そうだランドンちょっと、訓練場に行く前に書庫に寄らない?」


 この提案にランドンはにこにこしていた。


「それはよいことでございます。書庫で見聞を広めてから行きましょう。」

「じゃあ行きましょう。」


 マリアンヌとランドンは学生と共に書庫へと向かった。行く途中、マリアンヌは学生に色々質問した。どこの学生なのか、ご家族は、最近の流行はなどなどとめどなく質問した。学生はそれに丁寧に答えた。失礼のないように言葉には気をつけて。

 書庫に到着すると学生は自分の調べ物をすると言って奥に入っていった。マリアンヌはどうしようかと考えた。専門書は読む気しないし、ここには物語の本はない。結局、宗教の本を手に取った。今のマリアンヌは神への感謝で信心深くなっていた。

 宗教の本をパラパラと読んでいると苦しみから解放されるのではないかと錯覚する。問題は解決しないが、出来る気がするのだ。自分は徳の高いことをしている存在になった気さえする。そういう錯覚を宗教の本は起こす。救われたいのだろう。マリアンヌも高揚した気分の中に暗い心もある。そうした心に光が差し込み曇天の空が晴れ渡っていくような気がするのである。

 宗教の本を大まかに読んだマリアンヌは学生の様子を見に行った。ランドンは邪魔してはいけませんよと釘を刺してきた。もちろん、マリアンヌは学生の邪魔になるようなことをするつもりはない。ちょっと、眺めてみたくなっただけである。何かに打ち込む人を眺めるのは幸福感を感じる。自分が何かに打ち込んでいるわけではないので尚更応援したくなる。頑張っている人を見つめているのは良いものである。そうでないならきっとその人は何かになりたいのだろう。だから、嫉妬してしまう。悪く言うことで優位に立ちたいのだろう。

 マリアンヌが学生の様子を見に行くと学生は一心不乱に史料を読み込んでいた。それを見てマリアンヌは安心した。努力できる環境がしっかり存在しているんだということに平和という安心ができる。マリアンヌはそっと立ち去った。ランドンに声をかけた。


「私たちはこの場を去りましょう。彼を一人にして差し上げましょう。」


 努力というのは孤独になるもの。連帯してやる努力は身に付かない。そうマリアンヌは思う。マリアンヌとランドンは書庫を後にした。孤独な努力家を置いて。

 訓練場へと向かうことにしたマリアンヌとランドンは調理場の前を通った。そこでまたもやマリアンヌは思いついた。


「そうだわ、訓練している兵士たちにお菓子を持って行ってあげましょう。」

「それは良い提案でございます。兵士たちも喜ぶでしょう。」


 早速、マリアンヌは調理場に入ってコック長がいたので声をかけた。


「コック長、ちょっといいかしら?」

「どうなされましたマリアンヌ様。」


 コック長は驚いた顔をした後、いつもの冷静な頑固そうな顔に戻った。


「訓練場の兵士たちに何か差し入れしたいのだけど。」

「それなら菓子パンが大量にありますのでそれをお持ちください。」

「助かるわ。」

「では、部下に運ばせましょう。」

「ありがとう。」


 コック長は部下の何人かに命じて菓子パンを持たせた。大袋に詰め込まれた菓子パンはこれはこれで美味しそうだった。マリアンヌとランドン、コック長の部下たちは訓練場へと向かった。

 窓の外を見ると雨がまだまだ降っていた。今日は一日雨かなとマリアンヌは思った。それもいい。農家が喜んでいるだろう。カエルたちは飛び跳ねていることだろう。川はその元気を増しているだろう。

 訓練場へと着くと兵士たちが気合のこもった声で打ち合いをしていた。そのうちの隊長がマリアンヌたちに気づいた。


「マリアンヌ様、いかがなされました。」

「ちょっと、見物にね。君たちの頑張りを見に来たの。」

「それはありがたきこと。」


 隊長はマリアンヌに敬礼をした。周りにいる部下たちも敬意を表した。


「そうそう、あなたたちに差し入れよ。」

 

 そう言ってマリアンヌはコック長の部下たちが持ってきた菓子パンを渡した。兵士たちは喜んだ。姫様からの贈り物ということで有難かった。その気遣いに感動もしていた。


「よし、一旦休憩にしよう。」


 兵士たちは休憩した。菓子パンをコック長の部下たちから順番に手渡され、食べ始めた。みんなマリアンヌに感謝の気持ちを述べた。マリアンヌは温かい気持ちになった。こうして兵士たちと交流が出来たのは素晴らしいことだと思えた。今日が雨の日だということを忘れるくらいにマリアンヌの心は晴れ渡っていた。

 訓練を再開してそれを眺めていたマリアンヌはそろそろお暇しようと思った。あまり王族が見ているのも兵士たちにはストレスだろうと思い、もっと気楽に訓練してほしいと思い、部屋に戻ることにした。


「ランドン帰りましょう。」

「はい、マリアンヌ様。」

「では、兵士のみなさんごきげんよう。」


 マリアンヌが挨拶すると兵士たちは訓練の手を止めて敬礼した。隊長に見送られマリアンヌは部屋へと戻った。

 部屋に戻るとまた暇になった。まだ、昼にもなってない。


「何して過ごそうかしら。」


 マリアンヌが考えているとまた、ドアがノックされた。


「どうぞ。」


 入って来たのは悪ガキで有名なメイドだった。名前は確かミランダ。


「ミランダどうしたの。」

「実はお誘いしようと思いまして。」

「何かしら。」


 マリアンヌは期待感を持った。ミランダのことだからまた不良なことをしようというのだろう。


「町の料理屋で美味しい店を見つけたので一緒にどうかと。」

「でも、見張りが。」

「今日は後は私が担当しますので、大丈夫ですよ。」

「なら行く!」


 なんて素晴らしい日なんだろう。いいことした後には悪いことを。このバランスこそが人生の醍醐味だろう。マリアンヌは雨のこの日に神へと感謝した。

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