95 卒業順位8位と魔族
〇宿場町・教会
「……王国では、教会関係者の巡礼も一時禁止されるって聞いてるわ」
ベアトリーチェのその言葉に、アンナは「そこまでなんだ……」と顔を曇らせた。
つい先日まで平和な学園生活を謳歌していた二人にとって、祖国の扉が閉ざされていく事実は、想像以上に重く心にのしかかった。
しかし、ベアトリーチェは優しく二人を諭した。
「でも、ここで悩んでいても仕方のないこと。
あなたたちがしっかりと巡礼を全うすることが、女神様への一番の祈りになると思うわ」
その言葉に背中を押され、ミアはさっそく奉仕活動に身を投じる。
バルカ帝国では女神教はまだ「得体の知れない外来の教え」。
王国のように高圧的な布教は逆効果でになる。
ミアは町の清掃や、そして怪我人の治療、小競り合いの仲裁とまるで、ベテランのような手際で完璧にこなしていく。
一方、家事の経験がないアンナは回復所の当番を任されたが、慣れない環境に疲労困憊の様子。
一日の終わり。教会の談話室でアンナは机に突っ伏していた。
「だっるぅ~~~いぃ!!!」
「まだまだ。今日は見学のようなものです。明日からが本番ですよ!」
ミアは笑顔で胸の前で小さくガッツポーズをして見せる。
それを見たアンナは信じられないといった顔でうめいた。
「はぁ!? あんたどんな体力と魔力してんのよ……?」
ミアは小さく作っているガッツポーズを上下に2~3度揺らす。
もちろんミアにだって疲れはあるが、彼女を突き動かしているのは「目の前で困っている人達を助けたい」という純粋な願いだった。
そこへ、ベアトリーチェが紅茶を運んでくる。
紅茶は、お湯のように透き通っている。
一口飲んだアンナが
「うっす!さっきも思ったんですけど、 これ茶葉の量、間違ってません?」
「アンナちゃんっ!!」
舌を出して不満を漏らすアンナを、ミアがすかさず一喝した。
この教会は王国に比べれば困窮している。
この一杯の薄い紅茶さえ、ここでは高級な嗜好品。
ベアトリーチェが申し訳なさそうに微笑むのを見て、アンナもようやく自分の失言を悟り「ごめんなさい……」とシュンとしてしまった。
その日の深夜。
アンナは、教会の外にあるトイレへ、こそこそと一人で向かった。
(……早速きたわねぇ)
トイレの中でしゃがみながら、アンナは不敵に笑う。
実は彼女、昼間のベアトリーチェの話を聞いてから、わざと一人で隙を見せて「神隠し」の犯人をおびき寄せようとしていたのだ。
「ふーん……こんな辺境に巡礼に来るシスターなんて落ちこぼれかと思ってたけど。結構、高い魔力があるのね」
近づいてくる足音と、冷ややかな女の声。
じょぼじょぼじょぼじょぼ……
(女!? しかもこの魔力、人間じゃない……魔族なの!?)
アンナは用を足しながらも、背筋が凍るようなプレッシャーを感じていた。
慌てて身なりを整え、トイレから飛び出したアンナ。
そこに立っていたのは、順番待ちでもするかのように佇む異形の美女だった。
黒髪のショートヘア、褐色肌。そして何より、頭から生えた角と背中の蝙蝠のような羽、爬虫類を思わせる金色の瞳。紛れもない魔族である。
(ヤバイ…… 魔族ってこんなに魔力高いの!?)
学園のエリートだったアンナでさえ、その深淵のような魔力の量に圧倒されてしまう。
「こんなショボイ国を任されて、貧乏くじだと思ってたけど…… アナタは、いい研究サンプルになりそう♪」
魔族の女が、楽しそうに指先をアンナに向けた。
確かにわざと無防備に、単独行動したのは確かだ。
ただ、実際にかかるとは思っていなかった。
しかも、相手は初めて見る人型の魔族である。
アンナの背中を、嫌な汗が伝い落ちた。




