94 湯煙の休息と神隠し
〇宿場街・教会への道
教会へと続く石畳の道を歩きながら、ベアトリーチェは二人の自己紹介を聞き終えると、ふふっと楽しげに微笑んだ。
「さっきの話は、二人とも正解だわね……」
「え?」
自分こそが「シスターの正解」だと思っていたミアとアンナは、同時に声を上げた。
「ミィさんの『シスターは身なりを気にせず奉仕すべき』という考えは、とても理想的。素敵だわ。
でもね、現実にはアンナさんの言う通り、あまりに身なりが整っていないと『礼儀ができていない』と判断するシスターがいるのも事実。
だから、どちらも正しいけれど、状況によって答えは変わるのよ」
ベアトリーチェの柔らかくも核心を突く言葉に、二人は顔を見合わせ、
先ほどまでの必死な言い争いが急に恥ずかしくなって俯いてしまった。
到着した教会は、宿場町らしい質素ながらも手入れの行き届いた建物だった。
案内されたお風呂場に、アンナは文字通り飛び込んだ。
「ん~~~! 最高ーーー!!」
湯船にどっぷりと浸かり、背伸びをするアンナ。
数日分の汚れと疲れが溶け出していくようだ。
ミアも隣で、丁寧に、そして気持ちよさそうに髪を洗い流した。
「ねえ、今日はこの街を観光して、ゆっくりしましょうよ!」
アンナが湯船の縁に腕を乗せ、期待に満ちた目でミアを見る。
「何を言っているんですか。
お風呂から出たら、まずはベアトリーチェ様に普段のお仕事の内容を確認して、
私たちでもお手伝いできることを探すんです」
「真面目すぎない!? 明日からでいいじゃん!」
「旅行に来ているわけじゃないんですよっ!!」
ミアは少し声を荒らげて言った。
「わかったわかった……こっわ」
肩をすくめてお湯に浸かるアンナ。
相変わらずの凸凹っぷりだが、二人の距離は着実に縮まっている。
お風呂上がり、貸し出された清潔な修道着に袖を通した二人は、清々しい表情で談話室に集まった。
「あー……スッキリ!」
ご機嫌のアンナが、何を思ったかミアの美しい形の胸に顔を埋めてきた。
「ちょっ、/// な、何をっ!?」
「あー、臭くない臭くないっ! 合格!」
ケラケラと笑うアンナに、ミアは「もう! いい加減にしてください!!」と顔を赤らめる。
そんな賑やかな様子を、ベアトリーチェは温かい紅茶を淹れながら見守ってくれていた。
「若いうちは何事も経験ですからね。巡礼でしっかりと女神様のお心を体感してくださいね」
ベアトリーチェの優しい言葉に笑顔で応える二人。
しかし、ベアトリーチェの表情がふと曇り、声のトーンが落ちた。
「でも、気をつけて。……最近、王国では聖女学園の子たちの『神隠し事件』が多発していると聞くから……」
「神隠し……ですか?」
「ええ。王国の女神教会本部から、バルカ帝国にまで、注意喚起の連絡が来るほどだから、よほど深刻なのでしょうね。
未来の聖女候補たちが、忽然と姿を消してしまうということらしいわ……」
不穏な言葉に、ミアとアンナは顔を見合わせた。
王国を追放されたミア、しかし、自分が育った王国の怪事件は、とても他人ごととは思えなかった。
温まったはずの体が、一瞬にして冷えるような感覚。
平和な宿場町でのひとときも、嵐の前の静けさに過ぎなかった。
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