91 歪んだ王座への毒
〇王国・王座の間
豪華絢爛なはずの王座の間は、今や苛立ちと焦燥、そして不吉な報告が渦巻く場所に変わり果てていた。
「アルフォンス殿下!!バルカ帝国から返答が参りました!」
差し出された親書を奪い取るように開き、アルフォンスはその内容を二度、三度と見直した。
『該当者なし。指名手配書の受け入れは拒否する』
簡潔で、これ以上ないほど冷淡な拒絶だった。
「なんだこれはっ……!! 友好国である我が国からの正式な依頼だぞ!
これが、つい先日まで第一王子である、この私も留学していた国のやることか!?」
アルフォンスの叫びが虚しく響く。
その傍らで、イザベラが扇子を握りしめ、ギリ……と音を立てて歯ぎしりをする。
彼女のプライドにとって、自らのツテがあるはずの帝国に無視されたことは耐え難い屈辱だろう。
そこへ、顔色の悪い大臣が、さらに追い打ちをかけるように、アルフォンスへと歩み寄る。
「王子……聖女学園の生徒の失踪事件ですが、また被害が増えてきているようです……」
「な、なんだとっ!?」
最近になって、王都を揺るがし始めた不可解な事件。
未来の聖女を育むはずの学園から、一人、また一人と生徒達が姿を消しているという。
「女神教会からも、学園周辺の警護強化依頼が来ております。
民の間でも不穏な噂が広まっており……」
「くそっ!なんで父上が倒れておられるこんな時に、問題ばかりが起きるんだっ!!」
「お、王子…… さらに申し上げにくいのですが、地方からの報告で農作物の収穫量が、例年の半分以下にまで低下しております。
このままでは冬を越せぬ村が……」
「くっ!!」
アルフォンスは玉座の肘掛けを激しく叩き、頭を抱えた。
その醜態を、イザベラは冷たく、どこか見下すような蔑んだ目で見つめていた。
「あの女だ……!あの女、ミアはこうなることが全てわかっていたんだ!!
その上で父上を呪って病気にし、聖女の権利を持ったまま姿をくらましたんだ!!
性根の腐った性悪女めっ!!」
濡れ衣も甚だしい主観的な叫び。
大臣は一瞬、呆れたように表情を歪めたが、狂気を孕んだ王子の剣幕に意見できるはずもなかった。
イザベラが、蛇のようにしなやかな動きで、アルフォンスの耳元へ顔を寄せ、毒を注ぎ込むように囁いた。
「王子…… バルカ帝国はワタクシがいなくなったことを、これ幸いと
新しい聖女の譲渡依頼を女神教会本部に行っているそうですわよ?
ミアを匿っているという情報もありますわ。
すべては、我が国の力を削ぐための策略ではありませんこと?」
「……そうか。ならば教会に伝えろ!
バルカ帝国に聖女候補を渡す必要などないっ!
断固拒否せよっ!!」
アルフォンスは立ち上がり、憎悪に満ちた声で宣言した。
「そして、今後は女神の力を持った者のバルカへの渡航は、これまで以上に検閲を厳しくしろ!
一人たりとも逃がすな!帝国の力を削ぎ、あの女を引きずり出すのだ!!」
王国の衰退を、自身の失政ではなく、勝手に追放した聖女のせいにし始めたアルフォンス。
その歪んだ命令は、国境を閉ざし、さらなる悲劇の幕を開けようとしていた。
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今回から第7章開始です!
新章突入恒例の、王国回です。
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