90 黄金色の旅立ち
〇バルカ城・アンナの私室
ミアは旅立ちの意思を伝えるため、彼女にお別れの挨拶に来ていた。
「あんたも好きねー。 毎日、無償で自分から王宮の負傷兵たちの回復を手伝うなんて、何を考えてるのよ」
「え?だって私、巡礼中だもの。 困っている人がいるのに、何もしないわけにはいかないでしょう?」
首を少しかしげて、心から不思議そうに問い返すミアに、アンナはソファへ深く沈み込み、盛大にため息をついた。
「かーっ! これだから真面目ちゃんは……
あんたがそんなことしたら、お金貰って仕事してる私が、ダメなヤツみたいに見えちゃうじゃないの!全くもう!」
口では文句を言いながらも、アンナの目はどこか楽しげだった。
「で、今日は何の用? 改まって来るなんて、何かあるんでしょ?」
「あ、うん。 私、もうじきここを出ようと思うの。
東にあるジークハルト様の墓地に行ってみようかなって」
「……そっか。 確かにあそこなら、勇者伝承の何かが残ってる可能性はゼロじゃないけど。
……そう、行っちゃうのね」
少しの間、アンナは黙り込んでしまう。
「ねえ。学園で9年間も伸び悩んでいたあんたが、ここ数ヶ月で急激に成長したのは、やっぱり巡礼のおかげなのよね?」
「え? ……ええ、まあ、そうね。 いろんな出会いがあったから……」
キョトンとして答えるミアに、アンナは勢いよく立ち上がって宣言する。
「じゃあさ、アタシもついて行ってもいいかな!?」
「ええ、まあ……って、えええええーーーーッ!!?」
ミアの叫びが部屋に響き渡る。
「いや、アタシもさ、もっと成長するためには、今のままじゃダメだなって、あんたを見てて思ったのよ!」
「えーと…… でも、アンナちゃんには無理じゃないかなぁ? 巡礼はキツい旅だし、ワガママな子には……」
「なんでアタシを勝手に、ワガママお嬢様設定にしてんのよ!?
私だって、あんた達と一緒に聖女を目指して、学園を卒業したシスターだってこと、忘れてないわよねっ!?」
頬を膨らませて怒るアンナの姿に、ミアは思わず吹き出してしまう。
「ふふ、ごめんなさい。そうでした。 ……じゃあ、一緒に行きますか?」
「そうこなくちゃ!」
数日後、朝霧に包まれた城門。
待ち合わせ場所に現れたアンナは、王宮回復員の装身具を外し、純白の修道着に身を包んでいた。
「アンナちゃん、もっと奇抜な格好で来るかと思ってましたけど、普通の修道着なんですね」
「あんた、私をどんな目で見てんのよっ!?」
ぎゃーぎゃーと言い合いながらも、二人の表情は晴れやかだった。
アンナはふと思い出したように、胸元から女神のクロスを取り出した。
「ん!」
アンナに促され、よくわからないまま、ミアも自分のクロスを取り出す。
カチンッ!
金属が触れ合う澄んだ音が響き、二人のクロスが重なり合う。
教典にそんな作法は載っていない。そもそもクロスをこんな使い方しても良いのか?それはわからないが
その瞬間、二人を繋ぐ絆が、熱を持って伝わってきたようなきがした……
「よっし、行くわよ!目指すは東の英雄墓地ね!」
「はい!よろしくお願いします!」
一人で始まったミアの孤独な旅に、かつての同期という、少し騒がしいが、これ以上なく心強い相棒が加わった。
バルカ帝国の広大な平原へと踏み出す二人のシスター。
その背中を、昇り始めたばかりの太陽は、黄金色に照らすのだった。
第六章【完】




