80 山頂の先に待ち受けるもの
〇バルカ大山脈・北側ふもと
バルカ大山脈。
そこは、人間が引いた境界線など何の意味も持たない、魔獣たちが支配する領域だった。
ミアにとって、この山道はこれまでの旅とは全く異なる恐怖との戦いだった。
街の近くにいるはぐれもの魔獣たちとは違い、ここでは組織化された魔獣の群れが自分たちのテリトリーを守るために目を光らせている。
(私の防御魔法なら刃は通さない。でも、あの巨大な熊のような魔獣の剛腕や、岩をも砕く牙を防ぎきれるのかしら・・・?)
確証のない不安を抱えながら、ミアは、険しい斜面を踏みしめていく。
「ふぅ・・・今日はここまでかしらね・・・」
日が沈みかける頃、ミアは突き出した大岩の下を見つけ、腰を下ろした。
すぐさま、自分を包み込むように防御結界を展開する。
この金色に光る防御壁の中だけが、広大な魔境においてミアが唯一安心できる場所だった。
ふもとにいた低位の魔物たちは、ミアの結界に触れた瞬間に弾き飛ばされ、二度と近づこうとしなかった。
しかし、標高が上がるにつれ、魔物たちの眼光は鋭く、その威圧感や禍々しい気配も増していく。
果たして、この魔獣たちに、この薄い光の壁で対抗できるのか?
結界の中で膝を抱え、ミアは胸元のクロスを握りしめた。
「女神様。本日も恐ろしいものから私を守ってくださり、ありがとうございます・・・」
暗闇の奥から聞こえる魔獣たちの遠吠えを聴きながら、ミアは静かに目を閉じた。
数日後。
鬱蒼とした森林地帯を抜け、視界が急に開けた。
足元は土から荒々しい岩肌へと変わり、吹き付ける風は氷のように冷たくなっていく。
ミアがふと振り返ると、そこには息を呑むような絶景が広がっていた。
眼下には広く続く緑の樹海。その先には広大な青い海が水平線まで広がり、
その間に、つい先日までいたバサルやバサラークの街が、まるでミニチュアの模型のように小さく見える。
「・・・もう、街に戻ることはできないわね」
タリンの豪快な笑い声。クラリスの美しい横顔。
彼女たちの笑顔を思い出すと、凍えそうな心に少しだけ灯がともるようだった。
この山の頂上を超えればバルカ帝国
見上げれば、さらに高く、険しく、山頂がそびえ立っている。
しかし、めざすバルカ帝国には、すでに王国から届いた指名手配書が出回っているかもしれない…
彼女を待っているのは、過酷な自然だけではないのだ。
「・・・よし。行きましょう」
ミアは杖を握り直し、前を見据えた。
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