79 ミア、「聖女」から「指名手配犯」へ…
バルカ帝国でミアがバルカ大山脈への一歩を踏み出した頃。
かつてミアが育った地であり、ミアを追放した王国では、かつてない暗雲が立ち込めていた。
〇 王城・謁見の間
「アルフォンス王子ー! 今日も城門の前には昨日を遥かに凌ぐ数の民衆が!
『我らの祈りは届いているのか』と抗議の声を上げております!」
「なんだと!? 何度追い払えば気が済むのだ! 近衛兵を増員しろっ!」
アルフォンスの叫びは、焦燥感に満ちていた。
ミアを追放し、イザベラを新たな聖女に据えてからというもの、王国には不吉な出来事が続いていた。
原因不明の疫病、枯れ始める作物…
そして何より、大地に安寧をもたらすはずの『聖女の祈り』が実を結んでいないことへの民の不信感。
「王子、近隣の村々の代表から抗議の手紙が多く届いております。このままでは徴税にも支障が…」
「後にしろ! 今はそれどころでは…」
「王子殿下!!」
「今度はなんだ!?」
「へ、陛下が…! お倒れになりました!」
アルフォンスの顔から、一気に血の気が引いていく。
王の寝室には、重苦しい沈黙が漂っている。
王宮主治医、神官たち、そして祈りを捧げるポーズをとるイザベラの姿。
「父上!」
「あ、アルフォンス… 私は、もう長くないだろう…」
「何を弱気なことを……! 早く元気になって、国民に健在ぶりを見せてください。
私が、父上を支えますから」
王の手を握るアルフォンス。その瞳に宿る、父を想う純粋な敬愛。
しかし、王の言葉は彼の期待を無残に打ち砕くものだった。
「…聖女ミアを、呼び戻すのだ…」
その名を聞いた瞬間、イザベラの肩がピクリと反応した。
彼女をかばうようにアルフォンスが大きな声を上げる
「父上、何を仰るのですか! 彼女は国民を騙した偽聖女として、既に国外追放しております!!」
「…馬鹿なことを… 王国に、聖女を交代させる権利などないというのに…」
「ど、どういうことですの!? 陛下!」
今度はイザベラが堪らず声を荒らげる。
王は、朦朧とした意識の中で静かに続けた。
「前聖女リリィが指名し…女神の御前で推戴したミアこそが… 今も、この国の唯一の聖女なのだ…」
「そ、そんな馬鹿げたこと!!」
「ゆえに…聖女を変えたければ、ミアに次の者を指名して貰う必要がある…
急がねば… 女神の認めていない偽りの聖女を座らせた大罪が、この国にさらなる災いを呼ぶぞ…
ワシの病も、その予兆かもしれん…」
王の寝室を出たアルフォンスは、玉座に深く座り込み、頭を抱えている。
「クソ! どうしてこうなったんだ…」
すべては順調だったはず。
邪魔なミアを追い出し、愛するイザベラを聖女に据え、理想の王国を作るはずだった。
そこへ、イザベラが甘い蜜のように囁く。
「殿下… すべては、あのミアという女がこの国を出て行ったせいで起こったことでございますわ。
あの女はこうなることも全てわかっていたのです!
今すぐ彼女を指名手配し、捕らえて、ここに引きずってでも連れてくるべきです!!」
「…しかし、もし本当に国外に出ていたらどうする? 我が国の指名手配など通用しないぞ」
「バルカ帝国であれば、私の家のツテがございますわ。
ひとまずは王国内、そしてバルカ帝国全土に、彼女の指名手配書をばら撒きましょう」
「そ、そうだな。…よし、手配書を作成しろ! 大罪人ミアを、生け捕りにせよとな!」
アルフォンスは、自らの首を絞めることになるとも知らず、最悪の決断を下すのだった。
自室に戻るイザベラ。
彼女の視線の先には大きなダンボール箱。
その中には大量の関西だししょうゆ味のポテチが入っている…
約束通り、リリィが本当に送ってきたもののようだ…
イザベラの手には、リリィからミア宛てにつづられた手紙があった。
そこには、自分がミアに伝えきれなかった、聖女のルールなどが事細かに書かれている。
もちろん、聖女交代の件も書かれていたが。その手紙がミアの手に渡ることはなかった…
イザベラは窓の外を見て、不気味に笑っていた。
一方、バルカ大山脈。
山のふもとの森林地帯を、ミアは黙々と進んでいた。
彼女はまだ知らない。
故郷を想い、人々の幸せを祈り続けたその身が…
今や、王国全土に『国家反逆の大罪人』として触れ回られているということを。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
今回から新章突入です。
次の回はまたミアの冒険に戻ります。またよろしくお願いしますね。




