74 クラリスの秘めた決意
〇 バサラークの街・教会
バサラークの教会の夕食は、辺境のバザルとは比べものにならないほど豪華でした。
食卓を囲むのは、責任者のシスター・クラリスと、まだ幼さの残る十代のシスターたちが五人ほど。
中には女神魔法の適性がないまま奉仕活動に従事している少女や、まだ女神のスキルを受ける前の幼い子もいます。
「皆さん、シスター・ミィさんはあの『神童世代』を生き抜いた実力者です。
旅の途中で、少しの間お手伝いしてくださるから、しっかり学ぶのよ」
クラリスの紹介に、少女たちの目が輝きます。
「シスター・ミィ、卒業順位は何位だったんですか!?」
「そ、それは・・・あまり堂々とは言えないというか、その、簡単には教えられなくて・・・」
ミアが困り顔で濁すと、クラリスが助け舟を出してくれる。
「もう!興味本位で聞いちゃダメ。学園内のことは王国の機密に当たる事も多いんだから。
…でも、彼女の実力は私が保証します」
(今日、初めて会ったのに、保障なんてできるんだろうか・・・?)
ミアは少し不思議に感じていた。
「それではミィさん。明日からは少し仕事を手伝ってもらうけど…よろしいかしら…」
「あ、はい!もちろんです!」
元気に答えるミアであった。
その後の時間は、まさに嵐のようだった。
「一緒にお風呂に入りましょう!」
「王国のお菓子ってどんなの!?」
「一緒に寝てください!」
好奇心旺盛な少女たちに引っ張り回されるミア。
王都を追放された後の孤独な旅や、カレンを襲った魔族との死闘。
それらを一時忘れさせてくれる、温かな小さな幸せ。
夜も更け、ようやく静かになったサロンで、ミアはクラリスと二人、温かいお茶を飲んでいました。
「ごめんなさいね。あの子たちったら、王国から来た本場のシスターが珍しくて、ミィさんを連れ回しちゃって…」
「いえ、全然! 私も楽しかったですし」
「そう言ってくれると助かるわ。」
にこにこと笑いあう二人だが、次の会話が進まない…
相手は聖女学園卒業生のシスター。こういう時こそ、鉄板のあの話題。
「「あの! 推しの聖女様は……」」
二人同時に切り出してしまった…
「「ぷっ……! あははは!」」
顔を見合わせて噴き出す二人。ミアは少し照れながら、自分の憧れを口にする。
「私の推しは、やっぱり初代聖女のマリアベル様。彼女の無償の慈悲は、永遠の憧れであり目標です」
マリアベルといえば、女神教の開祖にして、争いを嫌い、傷ついた者を分け隔てなく救った慈愛の象徴。
おっとりとした性格のミアらしい選択だろう。
「マリアベル様も素晴らしいわね… でも、私の推しは、二大聖女のもう一人、ミラ様かな…」
「ミラ様!・・・ 意外です。クラリスさんは、もっとマリアベル様のような優しさに惹かれるタイプかと思っていました」
第十三代聖女ミラといえば、王国全土を覆うほどの巨大な聖なるバリアを張り、外からの敵の攻撃をすべて無効にするという荒業で、強引に戦争を終結させたという逸話もある史上最強の守護者である。
「彼女のように強くありたいの。 …誰にも負けないほどの強固な守りを持って、大切な場所を守り抜けるような…そんな強さに憧れるわ」
そう語るクラリスの瞳。
その瞳には、純粋な憧れだけではない。どこか後ろめたい、切実な決意のような色が混じっていたことに、ミアは気づいていなかった。
「さあ、明日も早いわ。もう休みましょうか、ミィさん」
「はい。おやすみなさい、クラリスさん」
自室に戻ったミアは、借り物の衣装を丁寧に畳み、ベッドに潜り込んだ。
(ミラ様のような、大切な場所を守り抜ける強さ…)
なぜかクラリスのそのセリフが、耳に残り続けるミアなのだった。
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