73 ジークハルトと聖女エレン
〇バサラークの街・図書館
旧王宮図書館の片隅、ミアは静まり返った書庫で、早速見つけた『ジークハルト私録・第二巻』を夢中で読み進めていた。
しかし、その内容は期待していた英雄譚とはかけ離れたものだった。
●月✕日
勇者殿は転生される前、異世界では『ニート』という仕事をされていたそうだ。
意味は分からんが『自宅警備員』とも言っていたので、おそらく王宮警備軍の軍団長のような重職に就いていたのだろう。どうりで剣技の腕が立つわけだ。
「・・・ニート?」
●月✕日
このままでは魔王討伐どころか、魔王軍の幹部戦すら危うい。
勇者殿が「リリアナに負担をかけすぎだ」と激昂している。
話し合いの結果、やはり回復専門家の補充が必要と判断した。
我々は一旦後退し、合流を待つことにする。
●月✕日
待機中も僧侶リリアナは私と一緒にいようとし続ける。
そして、私と勇者殿との仲は険悪になる一方だ。
私が彼の嫌がることを何かしたのだろうか? 言ってくれないと分からない。
「ジークハルト様って・・・」
そして、ついにその名が登場します。
●月✕日
新しい仲間が合流した!
現在の人間界で最高の護り手と言われる、第二十三代聖女エレンだ。
黒髪がとても美しい少女だった。
「いよいよ出てきた・・・ カレンさんのお母様、聖女エレン様・・・」
●月✕日
聖女エレンの回復魔法は本物だ。
どんな傷も瞬時に治す。彼女の魔法を受ければ、心まで安らぐ気がするのは私だけなのだろうか?
これで僧侶リリアナは補助魔法に専念できる。これなら強敵とも戦えそうだ。
ミアは、エレンの魔法の描写を読んで指を止めた。
「心まで安らぐ魔法・・・」
回復魔法使いが目指すべき理想の形・・・
しかし、手記はさらに複雑な人間模様を暴露していく。
●月✕日
最近は僧侶リリアナが今まで以上に私の傍にいる。
魔族の本拠地が近くなり不安なのだろう。私の力など強力な魔族の前では…と思うが、話さないでおく。
彼女の心が安らぐのなら、それでいい。
●月✕日
最近、勇者殿が私を敵視するようになってきた。
理由はわからぬ。
こんなところで困ったものだが、仲間割れするわけにはいかない。
じっと耐えるのだ…
「・・・この人、鈍感過ぎないかな?」
●月✕日
聖女エレンは、動物や植物、魔物の声まで聴くことができるという。
彼女の慈愛は、この世に生きる全ての者に注がれる。なんとも美しい心の持ち主だ。
この戦いで、彼女の心が汚れないように守ってやりたいと思う。
●月✕日
私は幼い頃より剣の研鑽のみにすべてを注いできた。色恋沙汰など分からぬ。
しかし、エレンの笑顔を見ていると鼓動が激しくなる… これが、恋というものなのだろうか?
「・・・・・・うん?」
●月✕日
最後の幹部を退けたぞ。これで魔王軍は事実上壊滅状態。
最後の闘い。魔王との戦いが始まる。
第三巻へ続く
「むむむ・・・! これからというところで・・・」
ミアは慌てて周囲の棚を探したが、三巻目はこの図書館には無いようだった。
気づけば、図書館の窓の外は、すでに暗くなってきていた。
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