72 麗しきエリートシスター・クラリス
〇バサラークの街・教会
「私は、あの戴冠式にこの教会のシスターとして出席していました。
あの奇跡の雨も体験しました。あなたは、ミア様なのでは……!?」
シスターのその言葉に、ミアは心臓が止まるんじゃないかと思うほどの大きな衝撃を受ける。
この規模の街の教会のマザーなら、王都の行事に招かれていても不思議ではないはずだった。
(完全に油断してた・・・ でも、ここで認めるわけにはいかない!)
「な、何を言っているのですか!? 私はミィです! 学生時代も、本当によく間違えられて困っちゃったんですよねぇー あはは・・・」
「……」
シスターはしばらくジト目でミアを観察していたが、やがてふっと肩の力を抜いた。
「そうよね… あのミア様が、護衛も付けずにこんな僻地を巡礼しているわけがないものね。
実際、私も末席からの見物だったから、お顔を詳しく拝見できたわけではないし」
(な、なんとか誤魔化せた・・・ これからはもっと慎重にならないと)
「巡礼中のシスターなのね。分かりました。この教会は巡礼者を受け入れていますから、安心してください。 …滅多に来ないですけどね」
シスターはミアのクロスを確認し、にこりと微笑んだ。
彼女の名はクラリス。聞けば、彼女も聖女学園の卒業生らしい。
「ミィさんは聖女学校卒業したばかりなの?私は卒業して5年になるけど、卒業順位も16位だったわ」
「すごいです! ちょ、超エリートなんですね・・・」
「ふふ… でも、その順位では聖女候補や教会幹部候補には呼ばれないないでしょう?
大病院からのスカウトはあったんですけど、ちょうどその時に、近々この教会のシスターが引退するって話があってね。
私はこの町出身だから、ここのシスターを引き継ぐ事にしたの」
久しぶりに年の近い相手との会話。聖女学園の話に心が弾むミア。
「ミィさんはもしかして、噂の神童世代かしら?」
「そうなんですよねー・・・ すごい子たちばかりで困っちゃって・・・
ピンク髪ってだけで、神童ミアさんとしょっちゅう間違えられちゃうし!」
クスクスととても上品に笑うシスター・クラリス
なんだか、この嘘をスラスラ言えるようになってきている自分に少し悲しくなるミア
「レベルが高い世代だったと聞くわ。
久しぶりに学園の話ができて嬉しいわ。この大陸では、あまり女神教の話をする人はいないですから…」
「やっぱりそうなんですね・・・」
「バルカ帝国は女神教の総本山である王国とは違い、戦士ジークハルト様の国ですからね。
女神教はあまり浸透していないの」
「あ、そうだ。私、ジークハルト様の手記に興味があるんですけど・・・」
「それなら図書館ね。旧王宮の一部が今は図書館として開放されているわ。
あそこになら色々資料もあるかもしれないわね」
その後、ミアに与えられた部屋は、思っていたより広く豪華なものだった。
「ちょうどサイズが合うものがあってよかったわ」と、貸してもらった、この街のシスターの衣装に着替えるミア。
「タリン様のところじゃ、専用の修道着なんてなかったけどなぁ・・・」
タリンの緩さを思い出して、クスクスと笑いながら、鏡の前でヒラヒラと自分の着こなしを確認するミア
専用の修道着を着て、少し街になじんだ気分で、早速、図書館に向かうミアなのだった。




