70 シスターの矜持
〇バザルの街・教会前
「もう行ってしまうの… 寂しくなるわねぇ、ピチピチのシスターがいなくなると、私の肌艶まで悪くなりそうだわ」
教会の門の前、タリンが本気で名残惜しそうに肩を落としていた。
ミアは荷物を背負い直し、笑顔でタリンを見る。
「はい。これ以上ここにいると、タリン様や町の人たちに甘えてしまいそうで・・・
私は巡礼中の身ですから!」
「そう… じゃあ、あなたが巡礼を終えて王国の大教会に帰ったら、この教会に支援金をどっさり入れるように上の人に言っておいてね。」
「・・・一言多いんですよ。最高の別れにさせてくれません?」
ミアが深いため息とともにジト目を向けると、タリンは「あっはっは!」といつものように豪快に笑った。
二人はどちらからともなく手を伸ばし、力強く抱き合いました。
タリンの体からは、石鹸と、先ほどまで一緒に作っていた、朝の炊き出しの出汁の匂いがした。
それは女神魔法なんかよりもずっと温かく、ミアの心を癒やしてくれた。
バサラークへと続く山道。
ミアは時折立ち止まり、崖の下を見下ろす。
そこには太陽の光で輝くバザルの港町が一望でき、その片隅に、昨日まで寝泊まりしていた小さな教会が見えた。
「昨日まで、あそこで寝泊まりして働いていたんだなぁ・・・」
なんだか短い間だったが、とても長い期間滞在していたように思える
タリンから教わったのは、魔法の技術ではなく、シスターとしての『心構え』だった。
多くの人々の中で共に生き、たとえ泥臭くても、目の前で困っている人達を助ける心。
常に敬われる存在として、魔法で人々を救うという考えを理想とする、王国の聖女学園では決して教えてくれなかった事だった。
ミアは、必死に走り回るタリンの横で、自分も一緒に一生懸命走り回れたことを誇りに思いつつ、
バルカ大陸北西地方最大の都市、バサラークへと歩を進めるのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
今回で、バザルの街のお話は終わりで、次回からはバサラークの街に入ります!
よろしければまたよろしくお願いいたします!




