69 魔法のない聖女
〇バザルの街・病院
一通りの治療を終え、ミアが息をついて周りを見渡すと、そこには必死に立ち働くタリンの姿があった。
この数日、タリンの言動はどこか世俗的で『おばさん臭い』ものでしたが、その仕事ぶりは驚くほど正確で無駄がない。
本職のナースたちですら指示を仰ぐほどの手際の良さ。
それは、彼女がどれほどこの街の人々を想い、地道な努力を積み重ねてきたかの証明でもある。
「すごい・・・」
思わずつぶやいてしまうミア。
ハッと我に返り、慌てて残った小傷の兵士たちの元へ駆け寄るのだった。
「いやぁ、ミィさん流石ねぇ。女神様の力って、本当にあったのね!」
「ミィさんは巡礼中というけど、巡礼中の子ってみんなこうなの?それなら、この街にももっと来てほしいわねぇ…」
「と言うか、ミィさん本当に美人だわぁ… 女神さまのよう」
と口々にミアを称えるナースたち。すこし照れくさい。
ナースたちの賞賛に照れ笑いを浮かべながら、ミアは病院を後にしました。
日は既に傾いて、長い影を作っている。
「さあ、夜の炊き出しの準備をするわよ。急がないとね!」
「あ、はい!」
タリンの底知れぬバイタリティに驚きつつ、ミアは元気よく返事をしました。
すべての仕事を終え、二人は教会の食堂で質素な夕食を囲んでいました。
「今日も助かったわ、シスター・ミィ。
昨日までは私が『教会に咲く一輪の花』なんて言われてたのに、あなたの前じゃすっかりおばさん扱いだわ! 世間の目は残酷よねぇ!」
「いえ、タリン様ほどの美しさは、私にはまだ・・・」
もちろん、ミアが言っているのは外見だけの話ではない。
タリンの心の美しさ。仕事に対してどこまでも真摯なその魂の美しさの話だ。
「あら、いやだ。この子ったらお世辞まで言えるの!?」
口をおさえて、手をひらひらさせて笑うタリン。
ミアは思い切って尋ねてみる。
「あの・・・タリン様の『女神の祝福』は、どういったものなのでしょうか?」
15歳になれば誰もが受ける女神の祝福
タリンも何かのスキルを一つ貰っているはず…
タリンは一瞬だけ、いつになくシリアスな顔で上を向いた。
「女神の祝福… 実は私、女神魔法の顕現は受けていたのよねぇ」
「えっ? そうだったのですか?では、タリン様も聖女学園に?」
「それがねぇ… 十五歳の祝福で授かって、一ヶ月後には女神教会の人も来たわ。
でも、ダメだったの… あまりに、数値が低すぎたのね」
簡易な検査の結果、教会には不要と判断され、タリンは聖女への道を閉ざされてしまった。
「実際に、半年も経たずに女神魔法は使えなくなってしまったわ。
…子供の頃から、異国の聖女様に憧れていたから、授かった時は本当に嬉しかったんだけどねぇ…」
自嘲気味に笑うタリン。
女神の力は、十代で尽きる者も少なくはない。
実際にミアは、聖女学園の在学中に女神の力が尽きてしまい、泣く泣く中退していった女生徒たちを多く見てきた…
それにしても、半年はあまりに短い。
言葉を失うミア。
「結局、今はこうしてシスターの真似事。魔法も使えないのにねぇ…」
タリンのその言葉を聞いて、ミアは気づけば立ち上がり叫んでしまっていた。
「真似事なんかじゃありません!!」
驚いて目を見開いてミアの顔を見るタリン。
ミアは興奮気味に言葉を続ける。
「あなたの誰かを救いたいと思う気持ちは本物です!
魔法があろうとなかろうと、あなたの働きは誰にも負けていませんでした!
私は、あなたのような方に会えて本当に良かったと思っています!
学ばせていただきたいところが、たくさんあるんです!」
ミアは、はぁはぁと肩で息をしている。
沈黙が食堂を支配する。
やがて、タリンの瞳に、優しい色が宿った。
「…ありがとう、シスター・ミィ」
そう言うタリンの表情は、どんなに高位の聖職者よりも気高く、聖女らしい笑顔だった。
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