66 バザル中央図書館
〇 バザルの街・教会
ミアに与えられた最初の仕事は、教会の炊き出しだった。
マーサの村で経験していたおかげで、ミアの手つきは実に鮮やか。
大鍋を操り、手際よく野菜を刻んでいく姿を、タリンが感心したように眺めている。
「あら~、流石ねぇ。王国は女神教の本場だけど、炊き出しの修行もやらされるのかしら? やっぱり」
妙にシスターらしくないタリンが、機嫌よく話しかけてくる。
「いえ、そういう授業はなかったですけど・・・私は以前、たまたま滞在した場所で手伝っていたので」
「ふーん。私は女神の力に目覚めなかったから、この街を出たことがないんだけど…王国の大教会には一度行ってみたいわねぇ…観光で」
「シスターとして行ってください!」
ミアのツッコミに、タリンは「あなた、いいわねぇ!」と嬉しそうに笑っている。
「ここを一人で切り盛りしてるから、なかなか手が離せないのよねぇ。シスター・ミィが来てくれて本当に助かるわ」
「・・・町の規模に対して、教会は少し小さいですね?」
「バルカではこんなものよ。王国に比べて女神教も浸透していないしねぇ」
その言葉に、ミアは改めて文化の違いを実感する。
王国では教会の権威は絶対だったが、ここではあくまで「数ある教えの一つ」に過ぎないようです。
「そうなんですね。・・・あの、私、歴史に興味があって。この国の勇者伝承などを調べられる場所はありますか?」
「それなら、この街にも中央図書館があるわ。でも、本気で調べるならやっぱりバルカ城下町の国立大図書館が一番ね」
一日の仕事を終え、まだ日が高い時間。ミアは教えてもらった中央図書館へと足を運んだ。
ひんやりとした空気と古い紙の匂い。ミアは早速「勇者伝承」の棚を探し、一冊の本を手に取る。
【バルカ帝国公認・勇者正史】
かつて魔界より現れた魔王の軍勢に対し、王国は異世界より勇者・テンジョウを召喚した。
バルカ帝国最強の剣士・ジークハルト。魔導国家の王女にして賢者・ルナリア。女神教会の最高司祭・リリアナ。
この四名からなる伝説のパーティは、魔王軍を圧倒。
最後には魔王を封印し、人間界に平和をもたらした。
「・・・これは、王国に伝わる勇者伝承とあまり変わらないわね」
ミアは小さくため息をついた。
語られている内容は王国の教科書と同じ、輝かしい勝利の記録である。
二十三代聖女の名は、やはりここでも消されているのか。
そう簡単に隠された歴史など見つかるはずもないのかも…と諦めかけた時、ミアの目に一冊の背表紙が飛び込んできた。
『勇者正史』のすぐ横。少し離れて置かれた一冊の分厚い古書。
タイトルは『剣士ジークハルトの手記』。
「・・・・・・!」
ミアはこくりと喉を鳴らした。
バルカ帝国の英雄である剣士が、公式記録とは別に残した私的な記録。
ミアは吸い寄せられるようにその本を手に取り、表紙をめくってみる。
そこには、王国の教科書がなかったことにした、別の真実が記されている予感がした。
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