65 シスター・タリンの強烈な洗礼
〇 港町バザル
バルカ大陸の北西端に位置する港町バザル。
王国からの連絡船は月に一度。主な活気はバルカ中央港からやってくる国内輸送船によって支えられている、いわば帝国の北の玄関口と言える場所。
ミアは潮風に吹かれながら、街の石畳を歩いていた。
まずはこの国での「勇者伝承」や、第二十三代聖女に関する手がかりを探るべきだろうか。
何にせよ、まずはこの街の教会を訪れるべきだろう。
街の端にある小ぢんまりとした教会に足を踏み入れると、五十台前半ほどの、若い頃は美人だったんだろうな…と思わせる顔立ちをした女性、シスター・タリンがミアを迎えた。
彼女はミアの修道着を一目見るなり、親しげに声をかけてきた。
ミアは慌てて自己紹介する。とりあえず偽名で名乗っておく。
「私、ミィと言います。王国から巡礼に来た女神教会のシスターです!」
「王国から? 遠いところをよく来たわねぇ。若い子はいいわねぇ…お肌のハリがピチピチ。スタイルもいいし…
私も若い頃は『バザル小町』なんて言われて、ちやほやされたものよ。」
「えっ? あ、は、はぁ・・・そうなんですね」
修道女らしからぬ、どこか世俗的な視線にたじたじになるミア。
「でも、どうしてわざわざこんな僻地へ? バルカへ行くなら帝国領内の中央港の方が便利でしょうに」
「い、いえ・・・遠回りをして歩くのも修行の一つかと思いまして。
それに、このあたりは巡礼ルートから外れているようですから、女神様の力を待っている方も多いのではないかと・・・」
ミアの苦しい言い訳に、タリンは目を輝かせる。
「エライ! 若いのに素敵な考えねぇ…エライわぁ! よく見ると、本当に可愛らしいお顔をしているわねぇ!」
ぐいぐいと顔を近づけて覗き込んでくるタリンに、ミアは思わず一歩後ずさる。
(・・・どうやら、追放された元聖女ミアの顔は、このあたりには伝わっていないようね。なんとかなりそう・・・)
そう思い、ホッと胸をなでおろしたのも束の間、タリンが手を差し出す。
「じゃ、巡礼者の教会の紹介状を見せてくれる?」
!?となるミア。もちろんそんなものは持っていない。
「あ、あの、これなら・・・」
ミアは教会関係者しか持てないクロスを、襟首を引っ張って、あわてて胸から取り出してタリンに見せる。
「あら…ダメよぉ? いくら美人で若いからって、私たちは聖職者。そんなセクシーなクロスの出し方はないでしょう?」
ボッ!と顔が真っ赤になるミア。
「も、申し訳ありません!」
そんなミアを見て、タリンは豪快に笑っている。
「まあ、そのクロスがあれば関係者だってことは分かるから問題ないわ。
そもそも、こんな寂れた教会に巡礼者が来るなんて初めてだし、偽物の紹介状を出されても私には見分けがつかないしね!」
そう言ってミアの肩をバンバンと叩くタリン。その緩すぎる管理体制に、ミアは「は、はぁ……」と脱力するしかなかった。
「小さなお部屋があるから、そこを自由に使ってちょうだい。好きなだけいてくれていいからね」
「ありがとうございます!」
王国の厳格な学園生活からすれば考えられない緩さではあるが、今のミアにとってはこれ以上ない幸運だった。
「そうそう。あなた、お料理はできる?」
「あ、はい。ある程度は!」
「いいわねー…可愛くて、料理もできて、お肌ピチピチ。…シスターじゃなければねぇ」
ひらひらと手を振りながら笑うタリン。
もはや愛想笑いする元気もなくなってきたミアだったが、まずはこのバルカ大陸で屋根のある寝床を確保することに成功したのだった。
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