64 聖女ミアを捨てた王国 崩壊の序章
〇 王宮・玉座の間
一方、ミアが去った後の王国。
重厚な扉を蹴破らんばかりの勢いで開き、兵士が駆け込んでくる。
「アルフォンス王子! 国民たちが城門の前に集結しております! 『雨を降らせろ』『肥料をよこせ』と、その数は膨れ上がる一方で!」
「なんだと? 雨だの肥料だの、王族の仕事ではないわ! 無視しろ!」
アルフォンスは苛立たしげに肘掛けを叩きます。しかし、兵士は青ざめた顔で言葉を続けました。
「それが… 前の聖女様、ミア様はいつもやってくれていたと…」
「何!? ……チッ、そういうことか。仕方あるまい。イザベラを呼べ! それが聖女の仕事だというのなら、今の聖女である彼女が解決すれば済む話だ」
呼び出しに応じ、優雅な足取りでイザベラが現れる。
「お呼びですか? アルフォンス様」
「イザベラ、国民が雨だの肥料だのと騒いでいる。これもお前の仕事の一部なのか?」
アルフォンスの問いに、イザベラは心底おかしそうに口元を扇で隠して笑った。
「ふふ…まさか。そんなわけございませんわ。聖女の真なる仕事とは、この大地が荒れぬように毎日の女神像への祈りと、最高級の回復魔法で王族や選ばれた上級国民の方々をお癒やしすること。
雨? 肥料? そんな珍妙奇怪な、わけのわからぬ力、聖女の仕事ではございませんわ」
「……そうだよな。そんな聖女、聞いたことがない。この国の聖女は無能や変人が続いたからな。国民も毒されていたのだろう。
兵を出せ! 門の前の愚民どもは追い払ってしまえ!」
城門の前では、兵士たちの無慈悲な槍が国民を突き飛ばしていました。
「クソッ…リリィ様がくださっていた、あの魔法の粉(ポテチ肥料)がないと、今年の作物は全滅だ…!」
「ミア様は何度も村まで足を運んで、雨を降らせてくれた。おかげでウチの村は救われたっていうのに……イザベラ様は何もしてくれねえ!」
「そもそも、リリィ様ミア様の時は、こんなに農地も荒れてなかったぞ!!」
願いの声は、いつしか王国への不満へと変わり、国民の心は静かに王室から離れつつあった…
〇アルフォンスの寝所
国民たちの不満を知るよしもない王宮の奥深くでは、アルフォンスが頭を抱えていた。
「クソ……父上が再び病に倒れておられる、こんな時に!!」
「申し訳ございませんわ、アルフォンス様…わたくしの力が及ばぬばかりに…」
イザベラは儚げに目を伏せ、アルフォンスの腕にしなだれかかる。
窓から差し込む夕日の影が長く伸びる。二人の影が崩れかけた砂の城のようにも見えた…
「イザベラ、お前は悪くない。お前は毎日、献身的に父上に回復魔法をかけてくれているじゃないか。
…悪いのは、いい加減な事をして大地を荒らし、国民に誤魔化し続けてきた前の聖女たちだ。
奴らのツケが、今になって俺たちに回ってきている…許せん!」
国王の病状の悪化。
確かにイザベラは国王に対して毎日回復を行っているが…
ミアが国王に施していた治療は、一般的な解毒魔法では解毒しきれない毒に対しての、特化したオリジナルの解毒魔法だった。
もちろん、ミアも複数人の王様付の優秀な魔法回復師たちに、魔法を伝授していたが、彼女たちはイザベラの回復方針に逆らったとして、アルフォンス王子に全員投獄されてしまった。
リリィ、ミアという庶民派聖女の土台を失った王国の繁栄は、足元から少しずつ…崩壊の予兆を見え始めるのだった…
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!
次回からはまたミアのお話に戻ります。
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