63 巡礼のシスター・ミア バルカ帝国、上陸
〇???
「リリィ様、なぜポテチを粉々に砕くのです? まさかそのまま飲み込むつもりですか?」
「はぁ? 肥料よ肥料! こうしてね、砕いたポテチにバフ魔法をかけるの。これを植物に与えれば、塩分と油分と魔力のハイブリッド栄養剤になるんだから!」
「・・・塩分と油分で枯れる気がするんですけど」
「だまらっしゃい! 実際これで育つんだから、これが良いのよっ!」
ジト目でリリィを見つめる自分。
そんな、あまりにも平和で「しょーもない」過去の断片が、意識の浮上とともに白くかすんで消えていく。
「・・・いつか、リリィ様と話してたっけ・・・変な夢」
起き上がると、そこは商船の狭い個室でした。ミアは軽く頭を振り、身なりを整えて甲板へと上がります。
鼻を突くのは、王国の海よりもどこか金属質の混じった潮の香り。
眼前には、切り立った岩壁と、巨大なクレーンのようなものが建ち並ぶ港が見えてきた。
ついに、バルカ大陸に到着したのです。
〇船上
「・・・あの、すみません」
ミアは荷物をまとめ、近くで作業をしていた船員に地図を広げて見せました。
「ここは、地図で言うと、どのあたりでしょうか? バルカ城までは・・・」
「あ? ここは北西の端にある港町バザルだ。城までは…馬車を飛ばしても一ヶ月はかかるな」
「えっ!? そんなに遠いのですか?」
驚くミアに、船員は面倒そうに頭かいている。
「聞いてるぜ。お前さん、検閲を避けて密航同然で来たんだろ?
城に近い中央の港なんて、それこそネズミ一匹通さない厳戒態勢だぜ。この大陸に降ろしてもらえただけ感謝するんだな」
船員は作業を止めると、品定めをするような下品な目線でミアの全身を舐めるように見つめた。
「なあ、これだけは言っておいてやる。この国じゃ王国の『女神教会』の権威なんて紙クズ同然だ。
教会に守られていた温室育ちの聖女様ごっこは通用しねえ。何をされても、誰も助けちゃくれないのさ…
特に、お前さんみたいな若くて綺麗な女はな。
俺だって、ガリウスの旦那からタンマリもらってなけりゃアンタを見て放っておかなかっただろうぜ。
覚えておいた方が身のためだぜ」
「・・・ご忠告、ありがとうございます」
ミアは努めて冷静に対応して、一礼してタラップを降りました。
どうやら、ガリウスはミアをバルカ大陸に送るために相当根回ししてくれたようだ…
石畳の地面にブーツが乾いた音を立てる。
バルカ大陸への第一歩を踏み出したミア。
これは王国の元聖女ミアの追放が成立してした瞬間でもあった…
ここには自分を聖女と崇める信者もいなければ、期待という名の重圧をかける大人もいない。
あるのは、自らの力で歩き、戦い、生きていくという、自由に生きるという現実だけ。
マーサの村のならず者への嘘から始まった巡礼の旅。
けれど、今、ミアの胸にあるのは偽りではなく、本気で巡礼をする決意。
マーサの杖を強く握り締め、ミアは活気にあふれたバルカ帝国へと足を踏み入れた。
聖女ではなく、一人の巡礼のシスターとして、ミアの新しい旅の始まりであった。
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いよいよ、第五章開幕です!
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