62 未知なるバルカ帝国へ
〇ガリウスの屋敷前
翌朝、屋敷の前にはルナポートへと向かう豪華な馬車が用意されていた。
「じゃ、私は王都へ向かうから、ここでお別れね」
カレンは漆黒の髪を風になびかせて淡々と言う。
ミアは、昨夜命を懸けてとも戦った少女の手を握り、真剣な眼差しを向けます。
「カレンさん・・・王都では何やら不穏な動きがあるようです。くれぐれも、お気をつけて」
「大丈夫よ。もし捕まったら、あなたの情報を売って逃げることにするから」
「えぇ!? や、やめてくださいよ!」
ミアが本気で驚いて声を上げると、カレンは可笑しそうに笑った。
「嘘に決まってるでしょ? そもそも、人間なんかに捕まらないし」
そう言って二人は顔を見合わせ、晴れやかな空の下で笑い合いました。
「あなたとは……また会いそうな気がするわね」
「はい。いずれ、どこかで」
カレンは後ろ髪をひかれることもなく王都方面へ向かい歩き始める。
「妹さんにも、よろしくお伝えください!!」
ミアが言うと、カレンは一度も振り返らず、ひらひらと手を振って小さくなっていく。
ミアはその背中が見えなくなるまで、カレンの旅の無事を祈り、ずっと見送るのだった。
〇港町ルナポート
ルナポートまでの馬車旅は三日とかからず、ガリウスの護衛たちに守られた道中は安全そのものだった。
都合の良い商船が出るまでの約一週間、ミアはガリウスの本邸で、まるでお姫様のような待遇で過ごすことになった。
この街の教会にも挨拶に行きたかったが、今、教会に顔を出すのは自殺行為。
ガリウスの屋敷内からほとんど出ず過ごすことにした。
そして、いよいよ旅立ちの朝。
すっかりミアに懐いた姉妹二人は、寂しさに耐えきれず泣きついてくる。
「行かないで、ミィ様! この街の教会のシスターになって!」
特に、聖女を夢見る妹のメイは、ミアを本当の姉のように慕い、その服の袖を離そうとしない。
ミアは優しくその頭を撫で、諭すように微笑んだ。
「女神様のお力のスキルが、あなたに降りるといいわね。・・・アリシアさんも、お父様の教えをしっかり聞いて、立派な商人になってね」
ガリウスに何度も深く頭を下げ、ミアはついにバルカ帝国行きの商船へと乗り込んだ。
船が港を離れ、ゆっくりと進み始めます。
思えば九歳でこの大陸にやってきてから、ずっとこの地で過ごしてきました。
エレナと歴代最高聖女が誰かで口論していた思い出。
セレスティーヌと肩を寄せ合い、夜通し将来の夢を語り合った屋根裏部屋。
「味見してみ?」と見たこともない袋菓子を差し出してきた、破天荒なリリィ様。
まるで母のような温もりをくれたマーサ。
そして、母と妹の事を想い不器用に微笑んだカレンの横顔。
楽しかったことも、絶望するほど辛かったことも、すべてこの大陸にあった。
視界の中で、慣れ親しんだ大地がどんどん小さく、遠ざかっていく。
しかし、ミアの瞳に涙はなかった…
バルカ帝国に行けば、やらねばならないことが山ほどある。
二十三代聖女の真実。イザベラの影。そして、世界中の苦しむ人達に女神の祝福を…
潮風に吹かれ、顔にかかるピンク色の髪をそっと手で押さえるミア。
その表情からは、かつての『守られるだけの聖女』としての甘さは随分と無くなっていた…
魔王と聖女の娘に出会い、ミアの心は、より気高く磨き上げられていた。
水平線の向こう、未知なるバルカ帝国を見据え、ミアの新しい旅が始まった。
第四章【完】
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!
今回で第四章は終了です。
次回からはいよいよ、バルカ大陸。新章に突入します。
よろしければ、またよろしくお願いします。




