61 カレンの笑顔
〇ガリウスの屋敷
豪華な朝食を終え、一行はサロンでくつろいでいた。
ガリウスが申し訳なさそうに切り出す。
「ミィ様、昨夜は申し訳ございませんでしたな」
(見られてた!?)
ミアとカレンは顔を見合わせる。
昨夜、屋敷を飛び立つところや、帰り際を見られていたとしたら…
「お疲れのところ、夜遅くまで娘たちが騒ぎ立ててご迷惑を…」
ああ、そっちか・・・と安心するミア。
「 いえいえ、私も楽しかったので!アリシアさんの将来、楽しみですね」
ガリウスは、いやぁ…と頭を掻き、今までで一番うれしそうな笑顔を見せる。
「さて、お二人へのお礼の件なのですが……」
ガリウスは表情を引き締め、声を低くしました。
「実は今入った情報なのですが、国境の検閲がとてつもなく厳しくなっているようです。
なんでも、前聖女ミア様を探しているとかで…」
「っ!」
「いえね、国外追放しているミア様が、まだ国内に潜んでいないかの調査らしいのですが、
下手すると長引く可能性もありますな…」
これはマズイ… 今、王国の連中に捕まってしまうと、何をされるか分かったものじゃない…
「ミィ様は学生時代、そのミア様とよく勘違いされたとおっしゃっていました。
このまま陸路を進めば、あらぬ疑いをかけられ厄介なことに巻き込まれる可能性があります」
確かに、今、検問を抜けようとするのは危険かも知れない…
「そこで提案なのですが、海路をとってバルカ帝国へ行くというのはいかがでしょう?
私は貿易商、船には自信がございます。私の息のかかった商船であれば、厳しい検閲を避けてバルカへ渡れます。これをお礼とさせていただけませんか?」
カレンが隣で腕を組んで聞いている。
「悪くない話じゃない。受け取っておけば?」
「・・・では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「承知いたしました! ミィ様の海路の安全は、このガリウスが保証しましょう!」
「次に、カレン様。あなた様にはこの剣などいかがでしょう?
かつて、伝説の勇者様の武器を鍛えた鍛冶屋が作ったとされる、攻撃力抜群の逸品でございます」
差し出された見事な剣をチラリと見て、カレンはふっと鼻で笑う。
「…あなた、人が良すぎじゃない? この子はともかく、私みたいな『素性の知れない女』まで信用してたら、そのうち自作自演で娘さんを誘拐されて、お礼をせびるやつとかに騙されるわよ?」
挑発的な言葉。しかし、ガリウスは動じることなく、豪快に笑い飛ばす。
「カレン様、侮ってもらっては困りますな。
私は商人です。娘を助けていただいた感謝は本心ですが、商人は『利』で動く生き物。
お二人に今恩を売っておけば、将来お二人が大物になった時、私や娘に大きな利が舞い込んでくると踏んだのです。これは、私の投資ですよ!」
カレンは呆れたように肩をすくめ、窓の外の青い空を見つめた。
「…じゃ、まあそういうことでいいわ。その剣はいらないわよ。もうお礼は貰ったから」
「はあ? …と、申されますと?」
「ここに来て、お母様が愛したこの世界の人たちを、私も少しだけ好きになれた。それだけで十分よ」
不器用なカレンが見せた、初めての心からの笑顔。
その美しい横顔を見て、ミアもまた、まるで女神のような慈愛に満ちた笑顔でカレンを見つめるのだった。
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