58 ミアの九年間
本格的な魔族同志の争いが始まってしまった…
カレンが、パチンと指を鳴らすと、例の光のキューブが、
魔族たち一人一人を包んでいく。
しかし、メガネ魔族をはじめとする、一部の魔族はその光から素早く逃れている。
やはり、野党のようにはいかないようだ。
「ちぃッ!」そう言って、メガネ魔族にとびかかるカレン。
戦況を見極めるミア。
カレンと魔族の男は今のところ互角だろうか?
どちらも、まだ本気は出していないようだが、その隠している力などミアにわかるはずもない。
マズイのはどちらかと言えば、お付きの魔族たちだ。
個々の力も相手の方が上のようだし、なにより数がこちらが少ない。
二体一で戦わされている魔族もいるようだ。
(・・・やるしかない!)
ミアは両手を広げ、天を仰ぐ。
杖の先が、大きく震えているのが自分でも見えたが、そんな事どうでもいい。
このマーサの杖は、マーサが恐らく過去に自身の巡礼用に作ったものなのだろうと思う。
特に、回復力が上がるわけでもない。
が、杖に魔力を一定量貯めこむことができるもののようだ。
例えば、野宿する際には、寝る前に杖に魔力をためて、防御壁魔法を使えば、
朝まで、杖にためておいた魔力を消費するため、自分は魔力を消費せずに防御壁魔法の中で安全に眠ることができる。
その力を応用すれば、戦闘中に自分の周りに杖の魔力で防御壁を維持しつつ
本人は別の魔法を使う。などと言う使い方もできる優れもの。
ミアはこの杖の力を利用すれば、ある程度なら遠隔に魔法を届ける事ができる事も実験済みだ。
早速、その力を使い、攻撃力アップのバフ魔法を手近なカレン配下の魔族にかける。
(第一神界魔法だけなら、私は9歳の時から誰よりも多く研鑽してきた!)
魔法の準備に入ってから唱え終わるまでのスピードと精度、その両方がずば抜けているミア。
それを次々に、魔物たちにかけていく。
「えっ? これは…嘘でしょ?」
カレンは自分の体に溢れる力とミアの呪文一つの完成スピードに驚いている。
確かに効果は第一神界魔法。しかし、攻撃力上昇。守備力上昇…
ミアはカレンと十数体の部下に攻撃力上昇のバフ魔法をかけ終えた直後
休まず、防御力上昇のバフも次々とかけていっている。
「みなさん! 傷は私が治しますから!」
ミアの澄んだ声が戦場に響く。
一通りバフをかけ終えたミアは、地上から戦況を冷静に見極め、傷ついた仲間を見つけては、瞬時に回復魔法を正確に遠隔に飛ばしていく。
(女神魔法一つの完成が早すぎる… 精度も申し分ない…
回復魔法をかける順番も的確… あれだけやっても尽きない魔力… あの子は一体…?)
カレンはミアを空中から横目で見て、冷や汗を流す。
「お前たち!この子の護衛順位を一番にして!私は自分で守れるわ!」
そう叫んで、目の前のメガネ魔族を刃で切り払うカレン。
「カレン様、この私を前にして、どこまでその強情を押し通せますかな?」
メガネ魔族のがいやらしく笑い、カレンへの攻撃が熾烈さを増す。
カレンは防戦一方になっている。
が、お供の魔族たちの形成が逆転し始める。
ミアのバフ魔法と適切な回復魔法で、カレン配下の魔族が少しずつ押し始めた。
絶望的だった戦力差が、ミア一人の女神魔法によって覆されようとしていた。
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