55 うしろに立つカレン
〇 ガリウスの屋敷・廊下
お礼の事は明日話し合うという事で、本日の夕食はお開きとなった。
「ふぅ・・・ なんとか終わったわね。危なかった・・・」
廊下を一人で歩きながら、ミアは胸をなでおろした。
「何が危なかったのかしら?」
「きゃー! う、後ろにいるんなら声をかけてください!!」
音もなく背後に立っていたカレンに、ミアは飛び上がらんばかりに驚いて抗議する。
「だから今、声をかけたんじゃない。」
「うぅ・・・」
(やばい・・・これ以上話していると、正体がばれそう・・・)
「わ、私、今日はとっても疲れているので! おやすみなさい!」
そう言って、逃げようとするミア。
しかし、カレンがその肩を掴もうとした瞬間、救世主が現れた。
「シスター・ミィ様ぁ!」
ガリウスの娘たちがミアに駆け寄ってきた。
「ミア様のことを是非詳しくお聞かせください!」
「勇者パーティのエレナ様と、お会いした事はありますか!?」
きゃっきゃとまとわりついてくる姉妹。ミアはこれ幸いとばかりに二人に微笑んで答えた。
「ええ、いいですよ。ではお部屋でお話ししましょうか! じゃあ、カレンさん、おやすみなさい!」
一人廊下に残されたカレンは「チッ!」と舌打ちするのだった。
部屋に入ると、三人の「女子会」が始まった。
話を聞けば、姉のアリシアが十五歳の時に女神から授かったスキルは「鑑定」だったと言う。
まさに商人の家系にはうってつけのスキル。
「それまでは、良いお婿さんを貰えるようにって、お作法事ばかり習わされていたんですけど、
鑑定に目覚めてからは、お父様ったら私を跡取りにするって決めて、毎日商人としての知識を叩き込まれて、もう大変なんです」
そう言って笑う姉の顔は、どこか誇らしげでもあった。
女神のスキルは、一人の少女の運命を劇的に変える力を持っている。
妹のメイは十四歳。もうすぐ自分も女神の祝福を受けるのだと、どんなスキルが自分に舞降りるのかと胸を膨らませている。
彼女は聖女への憧れがあるようで、女神魔法の顕現を願っているという事だった。
(そんなに楽しいものじゃないわよ、聖女学園も・・・)
口には出さなかったが、ミアは少しだけ複雑な気持ちになった。
やがて夜が更け、メイがうとうとし始めたところで、おしゃべり女子会はお開きとなる。
「ふぅ・・・久々に話すと楽しかったわね!」
二人を送り出し、ミアは風に当たりにベランダへ出る。
二階のミアの部屋からは、広い庭越しに街が一望できる。
宝石を散りばめたような夜景にミアはため息を漏らした。
「・・・素敵」
しかし、ふと視線を庭の片隅へ落とした時、ミアは心臓はドキリと鳴った。
月明かりの下、庭の隅でカレンが誰かと話している。
相手は黒いローブを深く被った、得体の知れない人物。
何かトラブルが起きているのか、真剣な表情のカレン。
(カレンさん・・・誰と話しているのかしら? 相手の人は・・・)
よく確認しようとした時、カレンが顔を上げ、目が合ってしまった。
「わっ!」
と、ミアが驚いた次の瞬間。
庭にいたカレンの姿が、まるで陽炎のようにふっと消えた。
「え? あれ??」
よく目を凝らして見直したが誰もいない。確かにさっきまであそこにいたはずだが…
「どこを見てるのよ?」
背後からいきなり声をかけられるミア。
「きゃあーーーっ!!!」
冷たい声がすぐ後ろから響き、ミアは悲鳴を上げて振り向いた。
そこには、さっきまで庭にいたはずのカレンが、ミアをじっと見つめて立っているのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
本日の投稿はこれでおしまいになります。明日以降も頑張ります!
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