53 カレンの秘めたる覚悟
〇 ガリウスの別荘・食卓
ふわふわに乾いた修道衣。
袖を通すと、石鹸の清潔な香りが鼻をくすぐり気持ちがいい。
(数十分でこんなにしっかり乾くなんて、どんな魔導乾燥機を使っているのかしら・・・)
王宮での生活と比べてもそん色ないどころか、安全性が未知の最新の機器なども取り入れてる分
贅沢の度合いで言えばこちらが上かもしれない…
そんな事を考えながら、ミアはメイドに連れられて食堂へと向かう。
そこに広がっていたのは、王宮の「健康第一」な洗練された料理とはまた違う、人の欲望を具現化したかのような豪華なご馳走の山だった。
滴る肉汁、色鮮やかな珍味、香ばしく焼き上げられたパン。
「もうしわけございません、いきなりの事でしたので、この程度のものしかご用意できませんでした!
さあ、シスター・ミィ様、カレン様。どうぞお楽しみください!」
(こ、この程度って・・・)
心の中で盛大につっこむミア
ガリウスの快活な声に促され、ミアの主導で食前のお祈りが捧げられた。
カレンも隣で、どこかぎこちなく見よう見まねで祈りを捧げているのが、ミアには少し可笑しく、やっぱり彼女は良い子なのかもしれないな…と思えた。
「私の本拠地は港町ルナポートにありまして、ここはただの別宅。お二人には今後、この家を我が家だと思って自由に使っていただきたい!」
「・・・自由に・・・ですか?」
あまりの気前の良さに、ミアはフォークを止めて絶句する。
別宅とはいえ、この規模の屋敷を自由に使えというのは、もはや『お礼』の域を超えている。
(ねえ、この国の商人って、みんなこんなに馬鹿みたいに気前がいいの?)
カレンが耳元でこそこそと聞いてくる。
(わ、私も巡礼を始めて日が浅いけれど・・・多分、ガリウスさんは特別だと思うわ)
苦笑いするしかない二人だが、話はミアの巡礼先へと移る。
「バルカ地方へ向かわれると…? あちらにも伝手がございます。なんなら紹介状を…」
「いえ、お気持ちだけで! 困難も修行のうちですので!」
ミアは必死に断った。親切はありがたいが、紹介状など書いてもらった日には、
もし、どこかで自分の素性がばれたら、ガリウスに多大な迷惑が掛かってしまう。
それに、もし紹介状の為に身元を確認されて、答えられないというのはあまりに怪しすぎるからだ。
楽しい食事の時間は続きます。
そんな間でも、入浴し身なりを整えたミアの美しさは、隠しきれるものではありませんでした。
「それにしても… ミィ様は本当にお美しい。それほどの器量があれば、修道女などせずとも引く手あまたでしょうに」
ガリウスの言葉尻に少し下世話な空気が混じり、長女のアリシアが勢いよく父のガリウスに訴えます。
「お父様!! シスター・ミィ様に失礼です! 申し訳ございません、ミィ様!父に悪気はないのです。どうかお許しを…」
「い、いえ、大丈夫ですよ」
苦笑いするミア。
王都から一歩出れば、ミアの美貌は強烈な武器であり、同時に騒動の種になることを再認識させられる。
気まずくなった空気を変えようと、ガリウスがカレンに話を振る。
「カ、カレン様は王都へどのような目的で?」
カレンはワイングラスを見つめたまま、冷徹な声で答えた。
「目的ね。 あなたたちに話しても理解できないでしょうけど…
お母様が愛したこの大地に住む人たちを、今さら苦しめるつもりはないの。そのための下準備といった所ね…」
その場にいたカレン以外の全員が「???」となっている。
「な、なるほど… お母様が王国におられるのですかな? 何かお手伝いできることは…?」
「ないわ」
ぴしゃりと言い切るカレンの瞳には、先ほどまでのミアと年の近そうな少女としての柔らかさは微塵もない。
そこにあるのは、底知れない覚悟と、殺気のような鋭さ。
和やかだった食卓は、その一言で一気に氷点下まで冷え込んでしまった。
カレンが何か母親絡みの大きな事を背負ってるのは確実のようだ。
ミアは思わずスプーンを握る手に力が入ってしまうのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
カレンは他人の事は結構人懐っこく聞いてくるのに、自分の事を聞かれると急に冷たくなるタイプなんですかね?(笑)
よろしければ次のお話もよろしくお願いいたします!




