52 聖女はお風呂を満喫したい
「きょ、教科書にも載っていない方よね? どうしてそう思うのですか?」
ミアの声は、少し震えていた。
先日、マーサから聞いたばかりの、あの悲劇の聖女。
それをこの少女も知っている。バルカ帝国では普通なのか…?
「教科書にも載ってない……か。あなたの世界ではそうなのかもしれないわね。でも、私にとっては大切な… なんでもないわ」
カレンは何かを言いかけたが、フイっと顔を背けてしまった。
それ以上の追求を拒むような、けれどどこか寂しげな横顔。
また、気まずい沈黙が流れる…
「ねえ、私からも一つ聞いてもいいかしら?」
「ええ、お答えできることなら」
カレンの鋭い視線がミアを見据えた。
「あなたって、この世界の女神魔法の使い手としては、どの程度の実力なの?」
「私は、先ほど話した聖女学園という学校の卒業生なのですが・・・
女神魔法の使い手は、みんなそこで勉強します。そこでは89位でしたね」
「89位? なんだか地味な響きね。それって上位なの?」
「まあ、真ん中より少し下ぐらいでしょうか? 何とか女神魔法で食べてはいけるかなぁ・・・という程度です」
ミアは自分が落ちぶれた証でもある順位を思い出し、少し恥ずかしそうに笑う。
しかし、それを聞いたカレンは、湯船の縁を強く握りしめ、何事か考え込んでいる。
「…人間界には、あなたレベル以上の女神魔法の使い手がゴロゴロいるというわけか…」
小さな声だったため、はっきり聞き取れないミア
「え? 人間? なんです?」
「なんでもないわ。こちらの話よ」
カレンは吐き捨てるように言いったが、その瞳には若干の焦りのような色が浮かんでた。
ミアは不思議に思いながらも、先ほどの話に戻してみる。
「あの・・・さっきの話ですが、なぜ二十三代聖女様が推しだと?
彼女の情報を、何か知っているのですか?」
「そうね… 彼女の名前はエレン。王を失ってしまった私の国を、絶望の淵から救ってくれた、まさに女神のような人よ」
「え? 国を・・・? 勇者パーティに合流する前に、彼女が救った国があったということでしょうか?」
ミアの問いに、カレンは「ふっ」と少しバカにしたような笑みを浮かべた。
そして、バシャリと音を立てて湯船から立ち上がる。
「さあね? 興味があるなら、自分で調べたら?」
カレンはそれだけ言い残すと、濡れた身体のまま一度も振り返らず浴室を出て行ってしまった。
「・・・カレンさん」
浴室に残されたミアは、どっとのぼせたような感覚に襲われた。
第二十三代聖女エレン…
王国の教科書では空白の彼女が、カレンの国では王を失った国を救ったと語り継がれている。
王国の正史とはあまりにかけ離れた彼女の真実。
「ぶくぶくぶく・・・」
ミアは顔の半分を湯船に沈め、複雑な思いを泡にして吐き出した。
カレンは何者なのか。彼女の言う『私の国』とは、いったいどこなのか。
謎は深まるばかりだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
第二十三代聖女エレンと、カレンの関係とは…?
よろしければまた。次のお話もよろしくお願いいたします。




