50 元聖女と謎の偵察者
〇 ガリウスの馬車
ガタゴトと揺れる馬車の中。御者席ではガリウスが不慣れな手つきで馬を操っている。
車内には沈黙が流れていた…
アリシアとメイが並んで座り、向かいにミアとカレンが横並びになっている。
長女のアリシアと次女のメイは、キラキラとした瞳で目の前の二人を見つめている。
その沈黙を破ったのは、カレンのミアへの容赦ない一撃だった。
「あなた…少し臭いわよ?」
「!! た、旅をしてると、仕方がないことはあなただって知ってるでしょぉ!」
ミアは聖女学園と言う選ばれた者の園で育ったプライドと、女子としての羞恥心が混ざり合い、
そんな事、口に出さなくてもいいじゃないか、と言わんばかりに必死に訴える。
そのやり取りを見て、アリシアとメイがクスクスと笑い声を上げました。
それに気が付き、ミアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
カレンはかなり気が強そうではあるが、とても美しい顔立ちだ。
娘二人は興味津々でミアとカレンの二人を見ている。
まるで、おとぎ話の中の美少女二人が禁断の恋に落ちてしまうのを見るかのような夢見がちな目。
つい数週間前までは自分だってそっち側の立場だったミアだが、今はなぜかこの二人の娘が遠い世界の住民のように思える。
その落差に、何とも言えない感覚を覚えるミアだった。
「カレンさんは、王都にどんなご用事があるんですか?」
ミアが話題を変えようと尋ねると、カレンは窓の外を眺めたまま、迷いなく答えた。
「…偵察よ」
「は?」
「聞こえなかった? 偵察。
王国と話し合いの余地があるのか…とか、この世界の女神魔法のレベルがどの程度か…とかね」
「は、はあ・・・」
(偵察って・・・どこかの国の使者さんかな? )
続けてミアが尋ねます。
「アナタのさっきの力は聖女魔法ですよね?あんな扱い方をする人は初めて見ましたけど・・・」
それを聞いたカレンは少し驚いた様子を見せた
「やはり同じ魔法を持っている人にはバレるものなのね?
そうよ。あなたの防御障壁の魔法と同じものね。
もっとも私の場合は、自分の周りではなく相手の周りに張って使うものだけれど…」
この人も、女神魔法の使い手。
「ということは、あなたも聖女学園の卒業生なのですか?」
「聖女学園? …そんな機関があるのね。聞いたことがないわ」
カレンは、なにそれ?と言わんばかりの表情だ。
ミアは絶句した。
この世界で女神魔法の発現が確認されれば、平民だろうと貴族だろうと、例外なく王国の聖女学園へ連れて行かれ、徹底した管理と教育を受けるはず。
(学園を知らない? よほどの僻地か… それとも、王国の影響が全く及んでいない土地の出身…?)
話が途切れた隙を見計らって、メイが身を乗り出してくる。
「お二人は、旦那様や、心に決めている方はいらっしゃるのですか!?」
「わ、私はシスターですので! そういうのは、その、全然…!」
ミアは両手をパタパタと振って赤面しながら否定した。
その慌てぶりを見て、娘たちの興味はカレンへと移る。
「私には、そういう存在は必要ないわ。そんなことより果たさばければならない使命があるから」
カレンの声に、色めき立ったものは全くなかった。
「こら、メイ! お二人に不躾なことを聞くんじゃありません!
…申し訳ございません。この子、こういうお話が大好きな年頃なもので…」
しっかり者の姉、アリシアがたしなめますが、カレンはすでに興味を失ったように窓の外へと視線を戻してしまった。
(偵察、聖女魔法、学園を知らない・・・ カレンさんは一体・・・)
夜の街道。月の光に照らされたカレンの横顔は、彫刻のように美しく、ミアの目を惹き付けるのだった…
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おかげさまで50話に到達いたしました。いつも読んでいただいてありがとうございます!
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