5 卒業式
〇聖女学園・大講堂
荘厳なパイプオルガンの音が響き渡る。
今日はいよいよ聖女学園の卒業式の日。
卒業生たちは、成績順に並び替えられ、式典の開始を待っている。
そんな中、ミアは列の端で今にも泣き出しそうな顔をして立っていた。
(結局、一つも仕事が決まらなかった……)
ここ数週間ミアは、卒業後の職を求めて、街中の診療所や薬屋を当たっていた。
小さな薬屋で、店主に最終順位89位の成績表見せながら、雇ってもらえませんか?
と、頭を下げるミア。
「すまないねぇ。九歳で女神魔法に目覚めた、あんたのみたいな実力者に
うちのような小さな店ではお給金が出せなくてねぇ……」
「えっ!?
いえ、私は第一神界魔法までしか使えませんし、普通のお給金さえいただければ……」
困り顔で首を横に振る店主
(なんだか『九歳の神童』のネームバリューのせいで過大評価されちゃってるみたい……
仕方がない、ならもっと大きな医院や、魔導回復所に思い切って行ってみよう!)
大手医院の受付は、少し呆れたような表情だ。
「89位ですか…… 九歳で神童と言われていた割にはこの成績ではねぇ……
うちの基準には届きませんね。先生方も忙しいので……
悪いけど面接にすら呼べません。」
「こっちはリアルな評価!」
結局、その後もミアの就職が決まることはなかった。
「うぅ…… どうしたらいいのぉ…
お母さんには『八十九位だから何とかなりそうです』なんて手紙出しちゃったのに……」
絶望の淵でうなだれていると、突然、教師に腕を強く引かれる。
「ミアさんはこっちよ! 早くして!」
「えっ!?あ、はいっ!」
連れて行かれたのは、講堂の正面に設置された上段のステージ。
そこは、総合順位100位以内の『選ばれし者』だけが並ぶことを許される、みんなのあこがれの場所だった。
(あ、そっか…… こっちに並ぶのは、いつ以来かしら……)
かつて、最前列中央に君臨していた幼い頃。
そこから端へ、二列目へ、三列目へ……
序列を下げるたびに足元が暗くなっていくような感覚を、ミアは覚えている。
ついにステージから突き落とされたあの日。
誰よりも努力してきたつもりだったが、結局、今日まで最前列に戻ることは叶わなかった。
「最後に…… このステージにだけは帰ってこれたんだ……」
ミアは最後列の端っこで、感慨深くため息をつく。
十歳の頃、当時の主席の卒業生を見上げて「いつか、私もあそこに立つんだ」
と、疑わなかった自分を思い出し、ミアは自嘲気味に笑う。
視線を先へ向ければ、ステージの最前列中央に、背筋を伸ばして立つエレナの姿があった。
(エレナちゃん、さすがだわ…… 主席だもの、この後スピーチもあるはずね)
その時、ふと視線を感じて顔を上げると、エレナが鋭い眼光でミアを射抜いていた。
(うわぁ…… まだ怒ってる……)
11歳のエレナが学園に来てから、他の天才たちが現れるまでの一年間、二人は切磋琢磨する仲だった。
当時はミアの方が有能で、多くのことを彼女に教えてあげていた。
だからこそ、今の自分の不甲斐無さをエレナが許せないでいることも、
本当は、なんとなく察しがついている……
(私だって、遊び呆けてたわけじゃないんだけどな……
才能に蓋をされたみたいに、どうしても伸びなかったんだもの…… 仕方ないじゃない)」
ミアが小さなため息を飲み込んだその時、講堂の扉が重々しく開かれた。
「これより、卒業式を執り行います! 聖女リリィ様、ご入場です!」
会場が静まり返り、全ての視線が入り口へと注がれる。
そこには、純白の法衣で着飾った聖女リリィが、なんだかいたずらっ子のような笑みを浮かべて立っていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ミアは、自分の卒業式でも、なんだか客観的に見てしまったようです。
もし、よろしければ次のお話もよろしくお願いします。




