47 聖女はお風呂に入りたい
〇林の街道
名もなき村を離れて一週間。
マーサから譲り受けた地図を頼りに進んでいるものの、街が見えてくる気配はまだない。
野宿の際には、マーサの杖に魔力を込めれば、魔力の消費なしで一晩中、魔法の防御壁を維持できる。
おかげで睡眠中の安全性は格段に上がった。
(・・・街は、まだかしら。もう一週間もお風呂に入っていないなんて)
王宮にいた頃は、常に新しいお湯が流れ込んでくるプールのような湯船に浸かっていた毎日。
9歳から学園と王宮で育って来たミアにとって、この清潔感の欠如だけはどうしても慣れることができなかった。
途中に泉や川があれば、今のミアなら人目を忍んでそこで水浴びもできようが、それすらなかったのだ。
修道衣の襟元を引っ張り、自分の匂いを確認しては、ミアはゲンナリとした表情で、深くため息をつく。
(自分で選んだ道だもの、贅沢は言っていられないわね。)
背後から、カラカラという車輪の音と馬の鼻息。馬車が近づいてくる音がする。
背後から来るという事は、王都からの馬車だろうか?
ミアはとっさに街道脇の茂みに身を潜め、やり過ごすことにした。
通り過ぎていくのは、王家や貴族の紋章はないが、随所に金細工が施された立派な馬車だ。
おそらくは裕福な商人か何かだろう。
「今の私には、関係のないこと・・・」
そうつぶやいて、馬車が見えなくなるのを待って、草むらから出て、再び歩き出したミアだったが、その数分後、前方の異変に気づいた。
激しい怒号と悲鳴。
先ほどの馬車が、十数人の野党に囲まれていた。
御者はすでに息絶え、中年の商人が地面に組み伏せられ、無慈悲に踏みつけられてしまっている。
さらに、馬車の中からは十五、六歳と言ったところの身なりの良い少女が、乱暴に引きずり出されようとしていた。
(ま、まずい!)
ミアは、迷わずマーサの杖を握りなおして駆け出した。
「あなた方は何をしているのですか!?馬車から離れてください!!」
素早く、少女の横に走り込み黄金の防御壁魔法を使う。
少女を取り囲んでいた野党たちが、見えない力ではじかれたかのように四方へ吹き飛んだ。
ミアは倒れていた男にも声をかける。
「大丈夫ですか!? 今、助けます!」
「おお……し、シスター殿……。どうか、娘たちを……助けて……」
男は虫の息で、必死に手を伸ばした。
「はい! お任せください!」
そう答えたミアだったが、直後に違和感を覚える。
(・・・娘たち? 馬車から降りてきたのは、この子一人だけど・・・)
「おい! そこの女! 動くんじゃねえぞ!!」
背後からの鋭い叫びに、ミアの心臓は大きく跳ねる。
振り返ると、少し離れた位置で、野党のリーダー格と思われる男が、もう一人の少女を羽交い締めにしていた。
十三、四歳ほどだろうか。愛らしい顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らした少女の首筋には、冷たく光るナイフが押し当てられている。
「妙な術を使うんじゃねえ! 少しでもおかしな動きを見せたら、このガキの喉元をかっさばいてやるからな!」
(もう一人いたの!?)
ミアの足が止まった。
防御壁は、自分や隣にいる者を守ることはできる。だが、離れた場所にいる人質を救う魔法を、ミアは持ち合わせていない。
野党たちは、ミアの『魔法の壁』のせいで手が出せないと知るや否や、じりじりと距離を詰めてきた。
「その杖を捨てな! …へへ、このガキがどうなってもいいのかよ?」
「・・・ぐぅ」
唇を噛み締めるミア。
マーサの杖を手放せば、今度はミア自身と、足元で震える姉の方が餌食になる。
しかし、杖を持ったままでは、囚われた妹が殺される。
(どうすればいいの・・・)
警戒しながらも、ミアに詰め寄る野党ども
窮地に立たされるミア!
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