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かつて神童と呼ばれた89位聖女。ハニトラ勇者伝説の真実を暴いて見せます!  作者: けけりーな
第三章 野に咲く聖女に、守る力を教わりました
45/96

45 届かなかった回復魔法

〇名もなき村・宿屋の一室


ミアの瞳から、それまでの迷いが消えた。


「離れて!」


ミアが叫ぶと同時に、その身体から凄まじい密度の光が噴出し。光の壁となる。

彼女を抑えつけていた男は、至近距離で展開された光の壁に弾き飛ばされ、壁まで吹っ飛ぶ。


「ぎゃああ! 手が、手が焼けるっ!」


ミアの光の壁の内部にあった、彼の腕にダメージが入ったらしい。

自由になったミアは、すぐさま倒れているマーサの元へと駆け寄った。

マーサの首筋へ振り下ろされた兵士の剣が、ミアの張った防御壁に跳ね返され、甲高い金属音と共に火花を散らす。


「な、なんだこの光は!? 剣が通らねえ!」


「・・・こんな人たちに、マーサ様を、傷つけさせない!」


ミアが魔力を込めると、ミアとマーサを守るドーム状の壁が急速に膨張し、剣を向けていた兵士を飲み込み、猛烈な勢いで弾き飛ばした。

ミアはふらつきながらも立ち上がり、床に落ちた剣を拾い上げる。


「く、くそ! このガキがぁ!」


立ち向かおうとする男だが、ミアの周囲数メートルには光の壁が彼女を守っており、近づくことすら叶わず弾かれる。

ミアはゆっくりと、震える手で剣を振り上げた。


「や、やめろ! 助けてくれ!」


男の命乞い。ミアは唇を噛み締め、容赦なく剣を振り下ろした。


ドシュッ!!


「ひ、ひいいいいっ!!」


剣先が突き刺さったのは、腰を抜かして尻もちをつく兵士の股の間の床だった。

どれほどの怒りに駆られても、ミアは他者を傷つける事はしなかった。

しかし、その凄まじい怒りの気迫に、残っていたもう一人の兵士も腰を抜かし、恐怖のあまり戦意を喪失して崩れ落ちた。


その直後、どどど…、と階段を駆け上がってくる足音が響き、宿屋の主人が村の男衆を引き連れて部屋に踏み込んできた。


「シスター・ミィ!ご無事ですか? マーサ様をよろしくお願いします!」


村人たちは手際よく、弱り切った兵士たちを拘束し、部屋から引きずり出していった。


「マーサ様!!」

静寂が戻った部屋で、ミアは剣を放り出し、もはや動かないマーサを抱きかかえた。

泣きじゃくりながらもマーサの手を握り締める。


「よ、よくやったわね… あれだけできれば、十分一人旅に出られるわ…」


「そんなこと、今はどうでもいいです! マーサ様がご無事でいてくれないと私・・・!」


ミアはなりふり構わず、持てる力の全力で回復魔法をマーサに注ぎ込む。裂けた肌が塞がり、アザが消えていく。

しかし、女神魔法の過負荷によるダメージだけは、どれだけ魔法で回復しても癒やすことはできなかった。


「私が・・・マーサ様に相談に行っていればこんな事には・・・」


「‥いいえ、私はどのみち、長くはなかったわ… 女神様の意思に反して、こそこそと魔法を使っていたバチが当たったのね…」


「そんなわけない! 女神様は、マーサ様が救った人たちの笑顔を、誰よりも喜んでおられます!」


ミアの目から涙があふれ出す。

マーサの言う通り、魔法負荷のダメージが癒せないことがミアにもわかってしまった…


「私は・・・あなたの仇も、討てない・・・」


「ミィさん…それでいいのよ。仇なんて、何も生み出さない。あなたは、その優しい心のままで…」


マーサの指先が、愛おしそうにミアの頬をなでる。


「ミア様…」


「・・・えっ?」


偽名ではない、本当の名を呼ばれ、ミアは息を呑んだ。


「私もね…あなたの戴冠式を見に行っていたのよ。

黄金の雨… あの奇跡を見て、本物の奇跡を起こせる聖女様がいるんだと、この歳まで生きたかいがあったと思えたわ…」


そういうとマーサはミアに自分の杖を力なく握らせた。


「聖女ミア。世界中の…多くの人々に…祝福、を…」


マーサの腕から力が抜け、安らかな微笑みを湛えたまま、彼女は静かに瞳を閉じた。


「マーサ様?  ・・・いや、嫌ぁぁぁーーーーーーっ!!」


月夜の村に、ミアの叫びが響いた。

王都から追放された時には、一滴も流さなかった涙が、今は止まることなく溢れ出る。


ミアは、マーサが遺してくれた温もりと、真の聖女としての生き様を胸に刻み、ただただ泣き続けるのだった。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。


もしよろしければ次のお話もよろしくお願いします。

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