44 マーサ、命を賭した戦い
〇名もなき村・宿屋
薄い生地の修道着越しに、男の指先がミアの肌へ触れようとしたその瞬間。
ドゴオォンッ!
凄まじい轟音と共に宿屋の扉が粉々に吹き飛び、扉の前を固めていた兵士が、衝撃で意識を失い転がっている。
「なんだ!?なにが起きた!?」
慌てふためく残りの兵士たち。
壊れた扉の先に立っていたのは、肩で息をするマーサだった。
宿屋の主人が事の異常を察して教会へ走り、彼女を呼び寄せたのだ。
しかし、マーサは壁に辛うじて身を預け、震える杖を男たちに向けるのがやっとという有様だった。
「マーサ様っ!!」
ミアは悲鳴を上げる。
ミアにはわかっていた。マーサはもう、女神魔法を扱える肉体的な限界をとうに超えている。
日々の細やかな奇跡だけで限界のはずの彼女が、扉を破壊するほどの強力な魔法を放った反動がどれほど凄まじいものか……
「はぁ……はぁ……その子から離れなさい……」
「へっ、なんだ。威勢がいいのは最初だけか?」
兵士の一人が、弱々しく光を失っていくマーサの杖を見て勝ち誇ったように笑う。
彼はミアを仲間に任せると、マーサへと踏み込んだ。
マーサが放とうとした最後の閃光は無情にも霧散する。
次の瞬間、男の重い拳が彼女の細い体を捉えた。
「あぐぅっ……!」
布切れのように吹き飛ばされ、壁に激激突するマーサ。
「マ、マーサ様ぁ!!」
「ゴフッ……ゲホッ……!」
地面に叩きつけられたマーサは、鮮血を吐き散らかす。
明らかな魔法の使い過ぎによる内臓の損傷に加えて、兵士から受けた物理的な暴力。
常人なら意識を失うほどの衝撃の中でも、彼女は震える手で地面を掴み、なおもミアを救おうと掌を男へ向けた。
すべては、自分のことを慕ってくれたミアを守るため……
「いや……もうやめて、お願い!」
ここに来る前に、マーサに相談に行っておけば、こんなことにはならなかったかもしれない!
ミアは必死に首を振る。
自分のために、恩人が崩れていく……その絶望が彼女の胸を締め付ける。
マーサの掌からは、もう光の一片すら出ることはない。
「ぐ……こ、こんな時に……女神様……どうか……ゴフッ!」
「残念だったなぁ、ばーさんよぉ。あの世で女神に祈ってな」
にやにやと笑いながら剣を抜き、マーサの首筋へ歩み寄る兵士。
「……やめて!私のために……あんなに優しい人を、傷つけないで!!」
自分のために命がけで身体を張ってくれているマーサを見て、
兵士に自由を奪われて泣いている自分が、まるで馬鹿のように思えてきた。
(マーサ様は、こういう時のために、私に防御魔法を教えてくれたんじゃない!!)
そして、ミアの瞳から涙が消えた……
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