42 王国兵の誘い
〇名もなき村・宿屋前
夜の静寂を切り裂くような怒号と、鈍い打撃音。ミアが駆けつけると、そこには見るも無惨な光景が広がっていた……
「す、すまねぇ……許してくれぇ!あぐっ!!」
先日、森でミアを襲おうとしたあの男が、泥を舐めるように地面に這いつくばり、三人の兵士たちから容赦ない暴行を受けている。
「何をやっているのですか!止めてください!」
ミアの制止の声に、宿屋の主人が困り果てた顔で駆け寄ってきた。
「おお、シスター・ミィ!
実は、あいつが酒に酔って、宿に泊まっていた兵士さんたちに絡んじまって……
自業自得とはいえ、これじゃ殺されちまうよ!!」
ミアは呆れて溜息をついたが、見殺しにはできない。
彼女は勇気を振り絞り、足の震えを無理やり止めて、兵士たちの間に割って入った。
「すみません、あなた方は王国兵の方々ですよね。これ以上は命に関わります。
どうか、怒りを鎮めてはいただけませんか?」
「なんだと!?我々が王国兵と知って指図するのか、この田舎シスターが!」
一人の兵士が毒づきながらミアを睨みつける。
しかし、月明かりがミアの顔を正面から照らし出した瞬間、彼らの言葉が凍りついた。
「ま、待て……おい、その顔……!」
「!?」
「……聖女様!?なぜこんな場所に……追放されたはずでは!?」
兵士たちは一斉に色めき立った。ミアは覚悟を決めて、背筋を伸ばして堂々と答える。
「私はもう聖女ではありません。ただの巡礼中のシスターです。すぐにでも国外へ向かうつもりです」
兵士たちは暴行を止め、顔を見合わせて密談を始めた。
ひそひそと交わされる言葉の端々に、下品な笑いが混じる。
やがて、リーダー格の男が、先ほどとはうって変わって丁寧な口調でミアに向き直った。
「なるほど……では『元』聖女様。折り入ってお願いがございます。
我々が今夜泊まる部屋へ来ていただけないでしょうか?」
「なぜ、そんなところへ……?」
ミアが警戒して一歩退くと、兵士は声を潜めて言った。
「王国の今後に関わる大切な極秘の伝言があるのです。
たまたまここでお会いできたのも女神様の思し召し。お話しせぬわけにはいきません」
王国の大切なこと……?私に伝えなければならないことなんて、あるのかしら。
どう考えても怪しすぎる。不安がよぎる。
しかし、王国兵である彼らが嘘をつく理由も、今のミアには思い当たらない。
何より、かつて自分が聖女として守ろうとした王国の危機かもしれないと言われれば、背を向けることはできなかった。
「わかりました」
「シ、シスター・ミィ!」
宿屋の主人が止めようとするが、ミアは手で静止する。
そのまま、三人の兵士に囲まれるようにして、宿屋の二階へと続く階段を登っていった。
兵士の一人がニヤリといやらしい笑みを浮かべて仲間と目配せをしたことに、ミアは気づくはずもなかった……
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