41 新たな力
〇名もなき村・教会の裏庭
やはり、どれほど集中してもミアの指先から麻痺魔法は放たれることはなかった。
魔力が形になる直前で、彼女の優しさがブレーキをかけてしまうのだ。
ミアの真面目さの裏にある、臆病さも邪魔しているのかも知れない…
「今日はここまでにしましょうか…ミィさん」
「・・・は、はい・・・」
落ち込んでいるミアの肩に、マーサはポンと手を置いた。
「ミィさん。少し考え方を変えましょうか。
相手をどうにかするのではなく、自分の周りに魔力の壁を作って『防御壁』を張る。これならどうかしら?」
「防御壁・・・!なるほど、 それならできる気がします!」
ミアの瞳に光が戻った。他者を傷つけることへは抵抗感があるが、自分を守るため、あるいは大切な場所を守るための『壁』なら、彼女の慈愛の心と矛盾することはない。イメージを具現化できそうだ!
その日から、ミアの訓練は魔法の壁づくりに移行した。
何度も練習を繰り返すうちに、ミアの周囲に淡い黄金の光の膜が形成され始めた。
(これなら私でもイメージできるわ!
マーサ様の教え方の上手さのおかげで、なんとか自己防衛ぐらいはできるようになりそう!)
その日の夜、ミアは教会の裏を流れる澄んだ小川で汗を流していた。
最初こそ、王宮の豪奢な大浴場との差に戸惑ったものの、今では冷たい水が肌を引き締める感覚が心地よいとさえ感じてるのだから不思議だ。
「ふふふ♪ もし誰か来ても、あの防御魔法を使えば大丈夫ですものね!」
新しく覚えた技術に、ミアは少しだけご機嫌だった。
月明かりに照らされた彼女の肌は、濡れた宝石のように輝き、夜の森に迷い込んだ精霊のような神々しさを放っている。
自分の美しさがどれほど危ういものかを、今だけは忘れて、新たに得た自己防衛の力を謳歌していた。
水浴びを終えたミアは、身なりを整え部屋へ戻ろうとする。
マーサが廊下の向こうから声をかけてきた。
「あら、ミィさん。今日はもう寝るのね」
「はい。最後にお祈りだけして休もうと思います」
タオルを部屋に置き、聖堂へと向かったミアだったが、ふと足を止めた。
・・・外が妙に騒がしい。
(どうしたのかしら? 道具屋のご主人が、またお酒を飲みすぎちゃったのかな?
でも、いつもなら、この時間はみんな寝静まっているはずなのに・・・)
嫌な予感を感じたミアは、修道衣を整え直して、教会の重い扉をそっと開けた。
マーサに伝えに帰るか…
いや、防御壁の魔法は習得したのだ。村人の小競り合いぐらいなら、自分一人でもおさめられるところをマーサに見せたい。
しかし、そのマーサへの純粋な思いは、裏を返せば、自分の評価を上げたいがための行為であり、女神の慈悲とは反するという事に、ミアはまだ気づいていない…
村の中心地へと続く道。その先で、複数の松明の赤黒い炎が激しく揺れているのが見えた。
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