40 ミアとマーサ様
〇名もなき村
あれから数日がたつ。
ミアは村の畑や牧草地を駆け回っていた。
農作物の成長を促す微細なバフ、家畜の力の持続や健康を守る浄化、そして村を囲む森に魔物の痕跡がないかの索敵…
やるべきことは山積みだが、ミアは持ち前の真面目さを武器に、少しずつ村の生活に溶け込んでいった。
しかし、夕刻からの護身の魔法の訓練だけは、どうしても思うようにいかなかった。
(おかしいわ・・・ マーサ様に教えていただいた麻痺の魔法の術式は完璧に頭に入っているのに、いよいよ具現化と言う肝心なところで魔力が霧散してしまう。集中させることができない・・・)
マーサも困り果てている。
「うーん… ミィさんは、たとえ相手を傷つけない麻痺魔法であっても、間接的にとはいえ攻撃的というだけで無意識に拒絶してしまっているようね。本当に優しい性格なのですね…」
護身魔法が習得できなければ、単身での旅はあまりに無謀だ。
だが、どれほど練習を重ねても、ミアの純粋な精神では、他者を打倒する力へと変わることを拒んでいた。
その夜。体は疲労しきっているはずなのに、ミアは眠れなかった。
目を閉じると、あの日、村の男に押し倒された時の暴力的な感触が蘇る。
そして、マーサから聞いた第二十三代聖女の無念…
(・・・怖い。私に、この先一人で巡礼を旅をする事なんて本当にできるのかしら・・・)
止まらない体の震えを鎮めるため、ミアはふらりとベッドを抜け出し、月明かりの差す聖堂へと向かった。
女神像の前で膝をつき、必死に祈りを捧げる。それが、彼女が9歳で王都へ来て以来、たった一人で不安を乗り越えてきた唯一の方法だった。
「眠れないのですか?」
背後からの穏やかな声に、ミアは振り返った。
「あ、はい・・・ 少し、目が覚めてしまって・・・」
マーサはミアの強張った背中を見つめると、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「じゃあ、今夜は私と一緒に寝ましょうか、ミィさん」
「えっ!? わ、私、もう18歳ですから!」
「いいから、いいから。…昔飼っていたネコもね、嵐の夜はこうして一緒に寝てあげたのよ」
結局、ミアはマーサの狭いベッドに並んで潜り込むことになった。
9歳で親元を離れ、王都では常に神童や聖女、頼られる側として凛としていなければならなかったミア。弱音を吐くことなど、今の今まで許されなかった。
無言でミアの頭をゆっくりと撫でてくれるマーサ。
その温かく、枯草のような落ち着く香りに包まれているうちに、ミアの心が柔らかく、温かく変化していく…
「・・・マーサ様」
「なあに、ミィさん」
「・・・あの・・・すごく暖かいです」
気付くとミアの震えは止まっていた。
ミアは安堵の中、深い眠りにつくのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
本日はこれが最後の投稿です。続きはまた明日以降に投稿します!
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